第1話 ご主人様とあたし
あたしはディアナ。
見ての通り黒猫よ。
この名前は柳都がつけてくれたの。
柳都が誰だって?
柳都はね、あたしの飼い主。自慢のご主人様なの。
彼はあたしがこう言うのもなんだけど、とってもすてきな人間よ。
丁寧な物ごし。
銀縁眼鏡をかけた細面は色白でどこか優雅。
目鼻立ちが整っていてさわやかな感じ。
イケメンというものかしら。
彼のお仕事は骨董屋というものらしい。
古めかしい絵や器、つやつやした櫛、お人形さんといった様々な物を売っているみたい。
あたしがみても、あめ玉みたいな飾りものとか何だか古そうな物が多いの。
何が良いのか良く分からないんだけど、訪れるお客は目を光らせているのよ。お宝だと言って。
人間っておもしろい生きものね。
彼はあたしのブラッシングや爪切りと言ったお手入れを毎日欠かさずしてくれるの。
あたしの毛は短いほうだと思うんだけどね。
マメでしょう?
彼は優しく毛を調えてくれる。
お腹や首まわりまでしてくれるの。
くすぐったいし、ちょっと恥ずかしいけど。
毛並みに沿って身体全体に櫛が通っていく。
ブラッシングしてもらうのって、とっても気持ちが良い。
つい眠たくなっちゃって、大きなあくびがでちゃう。
あらやだ。大口開けるなんて、あたしったらだめねぇ。
あたしこれでも毎日頑張って毛づくろいをしてるのだけど、細かいところまで行き届いてないみたい。
くしに抜け毛がたくさんついてるのを見ると、自分はつくづく大ざっぱだなぁと思う。
でも良いやとわりきっている。
だって、性格は変えようがないんだもの。
でも、もうちょっとして欲しいなと思った辺りで終わりの声が聞こえてくる。
え〜やだぁ。もっとして欲しいってのどをゴロゴロ鳴らしてみたら、
「やりすぎは良くないですよ。ディアナ。今日はここまで。明日してあげますから」
と顎を優しくなでてくれる。その手は大きく温かくって、気持良くてついすりすりしたくなっちゃう。
あたしは柳都が大好き。
色んなおしゃべりをしてみたいと、ずっと思っているの。
でもあたしは人間の言葉なんて話せないし、柳都は猫の言葉を話せない。
せめて言葉が通じたら良いのに。
「なーごぉ」
あたしの鼻の上にとまっていたちょうちょに聞いてみたけど、そりゃあ無理だよとかわされてしまった。