推理作家への挑戦状 結界編
夏の暑い風が流れる夜。
東都大学経済学部の二部に通う青年は教師が先日の宝石店強盗の話を聞きながら不意に窓の外を見つめると笑みを浮かべた。
「あの日、俺が隠した宝…お前が持ってくれているんだろ?」
なぁ、白露
「お前以外に解けるやついねーし」
彼はそう呟くと
「今度はもっと難解な暗号をお前に送ってやるよ」
と小さく笑った。
允華は何も知らず夏月家の中で作業場の大移動をすると「先生のお部屋、先生のお部屋」と目を輝かせて震えている加奈子の横で直彦の作業用の机を見て
「…あれ?」
と不思議そうに並ぶ写真を見た。
一枚は直彦と弟の春彦の写真だ。
恐らく高校入学の時のものだろう。
一枚の娘の太陽の写真だ。
允華の義姉によく似ている。
小学校入学の写真だ。
義姉との写真と本当の両親との写真…そして、兄も持っている兄や直彦や隆たちが高校時代に写した6人の写真。
そこに、直彦の幼少時代の物はなかった。
允華は「先生を育てた人との写真…置きたくないとか…」と心で呟いた。
その時、直彦は允華を見ると
「どうした?」
と聞いた。
凄く複雑で不思議そうな顔をしていたからである。
允華は慌てて視線を逸らせると
「いえ…べ、別に」
と答えた。
直彦は目を細め
「写真、か?」
気になることがあるなら聞いて良いが?
「言いたくない事は言わないから」
と答えた。
允華は戸惑いながら
「その、先生を育てったって母親の…」
と呟いた。
直彦は「ああ」と言うと
「母との写真か」
と言い
「あの人は写真を撮らない人だったんだ」
と懐かしそうに告げた。
それに加奈子と晟は驚いて直彦を見た。
允華は直彦の顔を見て
「その、母親って言うんですね」
と言い、ハッとすると
「あ、すみません」
俺、複雑で
と答えた。
允華も今まで母だったと思っていた人が実は血が繋がっていない人だったのだと先日知ったのだ。
彼女からは冷たくされ、義姉とのこともあってどう思って行けばいいのか分からずに封をしてきたのだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




