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夏の始まり

「允華お兄ちゃん」

遊んできていい?


明るい声が響いた。

甥っ子の月の声だ。


白露の家では俯いてばかりで声も小さかったが入院し始めて暫くしてから明るくなった。

その原因は友達ができたことにある。


允華は本を閉じると

「ああ、良いよ」

と答え

「俺も夏月先生のところへ行くから一緒に行こう」

と呼びかけて別荘の玄関へと足を向けた。


兄の元は初日に共に別荘へ来て、夏月直彦と津村隆に允華と月のことを頼み

「じゃあ、終わったら戻る」

と白露家へと戻った。


その二日後。


允華は月と共に別荘を後にするとルフランリゾート津洗へと向かった。

移動はランドカーでの送迎だ。


津洗の海岸は遠浅で海水浴にもってこいの条件を備えている。

温泉もあるので人気のリゾート地である。


中でもホテル群は駅からお土産屋さんなどが並ぶショップストリートとマリーナロードを挟んで立っており、幾つかのランクはあるが最上級という点ではルフランリゾート津洗は群を抜いていた。


海側にある大きなプールにプライベートビーチ。

建物自体は三階建てだがリゾート感溢れる広々とした全室スイートなのだ。


しかも、客室にはそれぞれプライベートには立ち入らないが要望があれば様々な手配や案内をするプロフェッショナルのコンシェルジュが付いているのだ。


セキュリティももちろん厳しい。


そういうホテル群と少し離れた場所に個人別荘地があり白露家はそこに別荘を持っている。

なので、各ホテルと各別荘を行き来するのはその区域だけ走ることが許されているランドカーを利用するのである。


允華は月とランドカーでルフランリゾート津洗に着くとフロントチェックを抜けて一階のオープンホールへと足を踏み入れた。


右を向けばガラス窓の向こうに海とプールが見える。

正面にはゆっくり寛げるカフェがあり、その向こう側に子供達が遊べるキッズランドあった。


月は夏月直彦と津村隆と共に降りてきた少女を見ると駆け寄った。

「おはよう!」

少女は笑顔で

「おはよう!」

と答えると、夏月直彦を見て

「月君と遊んできていい?」

と聞いた。


直彦は笑顔で

「良いよ」

と答え

「太陽を頼むな」

と月に告げた。


月は笑顔で「はい!」と頷き太陽と手をつなぐと

「行ってきます!」

と三人に手を振って二人でキッズランドの方へと駆け出した。


允華は直彦と隆の前に立ち

「色々すみません」

と頭を下げた。


直彦は静かに笑むと

「いや、俺は礼を言わないといけない方だ」

と答えた。


「まさか、太陽と月君が病院で知り合っていたとは」

月君があの写真の場所を探そうとしてくれなかったら

「俺は白露や東雲に会おうとまで思えていたかどうか」


允華は笑いながら遊び始める月と太陽を見て

「月が変わったのは太陽ちゃんのお陰だし兄が変わったのは夏月先生と隆さんに会ってからです」

と言い

「月が無事で本当に良かったと思ってます」

と答えた。


そして直彦を見ると

「それで、昨日言っていた事なんですが」

その無理なら

と言いかけた。

が、直彦はあっさりと

「いや、俺としては助かるからOKだ」

と答え

「俺たちは20日までいる予定だから実質的には9月からお願いする」

折角バカンスに来たんだ無理はしなくて良いからな

と告げた。


允華は笑顔で頷いた。


隆は話が纏まると

「じゃあ、向こうで打ち合わせだな」

と告げた。


カフェの中にあるプライベートカフェである。

人から見られたりしないように個室になっている特別な空間であった。


キッズランドにはボディーガードが数人ついており不審な行動をする人間はその場でホテルから放り出されるで、安心して遊ばせておける場所であった。


三人はプライベートカフェに入るとテーブルのモジューラージャックに線を繋いでパソコンを立ち上げた。


直彦はパソコンの画面を允華に見せて

「連載はこの通りだ」

ここで書くのは桃源出版から出しているピーチ&ライムという10代向けのファッション雑誌に載せる恋愛小説だ

と告げた。


允華はスケジュールを見つめ

「その後が田村出版のミステリー独歩のミステリーですね」

と告げた。


「それで、俺は夏月先生が書き上げた小説の構文チェックですか?」


直彦が口元に小さな笑みを浮かべながら

「どちらかというとミステリーのトリックだな」

隆は情報収集や編集としての構文チェックは優れているんだが

「ミステリーはな」

と深い溜息を零した。


允華は以前に親友の泉谷晟とMMORPGで推理クイズに参加している時の事を思い出し戸惑いながら

「その…普通はそうですし」

と呟いた。


あの反応はミステリーに興味がない晟と同程度であった。


隆は罰が悪そうに

「これでもミステリー小説は読んでいるはずなんだが」

まあ事実は小説よりも奇なりっていうからな

「春彦君にしても允華君にしてもリアル事件だから俺の推理力が足りないんじゃなくて突拍子がないだけだと思うけどな」

と告げた。


允華は少し驚いて直彦をチラリと見た。

直彦はふっと笑い

「確かに事実は小説よりも奇なりだけどな」

それをネタにしろと言っているのはお前だろ?

と答えた。


「だから推理タイムでHow done itな允華君に頼むんだろ?」


允華は少し考えながら

「それってフーダニットホワイダニットのあれですか?」

と聞いた。


直彦は頷き

「それだな」

と返した。


允華は「はぁ」と曖昧に返事をした。

つまり自分はトリック解きだと言われているのだろう。


だが。

それはMMORPGの雨という人物が出す推理クイズだからであって、実際のトリックが解けるかどうかは不明である。


允華はそれでもチャンスは逃したくないと思うと

「俺は推理と言ってもあのクイズだけなので夏月先生の期待に添えれるかは分からないですが挑戦はしたいと思います」

と答えた。


これまでずっと後ろ向きだった。

いや、捻くれてずっと逃げていたのだ。


だけど、チャンスはちゃんと前を向いて手に入れて行こうと思うようになったのだ。

折角、大学で国文学を専攻しているのだ。

それを活かせる仕事を探そうと思ったのである。


直彦は微笑むと

「よろしくお願いする」

と告げた。


そして、パソコンの中のフォルダーをUSBメモリに落とすとそれを允華に渡した。

「ここにこれまで貯めておいた小説の登場人物の詳細と時系列とトリック詳細とが一つの話毎にフォルダーに纏めて入れているから書き始める前にどの話かを知らせるのでトリックと時系列のチェックをお願いする」

できれば矛盾があるところはチェックを入れて二つをリンクさせた表を作ってくれると助かるけどな


允華は受け取り

「わかりました」

と答えた。


直彦はフォルダーを見て

「今書いている恋愛が終わったら…田村出版のミステリー独歩の話を書くからNo8のファイルをチェックしておいてほしい」

と告げた。


允華は頷いて

「はい」

と答えた。


直彦はふぅと息を吐きだし

「最終的には書いたミステリー小説のチェックもお願いする」

隆には他の小説の構文チェックと調整があるから

「ミステリーの方の構文チェックもしてもらえると助かる」

と告げた。


その実、隆が調整と言う名の営業もしているのだ。

過重であることに違いはなかったのである。


允華は頷くと

「はい!」

と答えた。


外では真夏の太陽が昇り夏を楽しもうと津洗へと人々が訪れていたのである。


コンティニューロール


直彦と隆はピーチ&ライムという雑誌の連載の原稿を書くために太陽と月に声をかけて二人がまだ遊ぶというと允華に後を頼んで部屋へと戻った。


月は允華を見ると

「いい?」

と心配そうに聞いてきたが允華は笑顔を見せると

「別にかまわないよ」

と答えた。


恐らくそう言うのも込みで時間を余裕のある次回の話の仕事を回してくれたのだろう。

それにここでの夏を楽しめと言ってくれているのだ。


允華は持ってきていた本を鞄から取り出すと

「本を読むかなぁ」

とキッズランドが見えるカフェの椅子に座り大きく伸びをした。


その時。

フロントチェックから入ってきた今日の宿泊客の一人が駆け寄ってきたのである。

「允華!」

泉谷晟であった。


允華は腰を浮かせると

「晟!?」

と驚いた。


晟はにやりと笑うと

「親父がさぁここのホテルに二泊三日で取ってて…允華のところに遊びに行けるかと思ってたんだけど」

別荘じゃなかったのか?

と聞いた。


允華は本を閉じて

「別荘だよ」

と答え

「夏月先生にアルバイトのお願いをして、その打ち合わせと月が友達と遊んでいるから付き添い」

と月の方へと視線を向けた。


晟は視線を月と太陽の方に向けて

「おお、あの子か」

お前の兄貴によく似てるな

と笑い

「元気そうじゃないか良かったな」

それに

「仲良くしてる子…もしかして彼女か?」

チョー絶可愛い子じゃないか

と「ちっこい癖にやるな」とニヤニヤと目を細めた。


「お前、先越されるぞ」


允華は「俺はいいんだ」と答え、晟の両親が自分たちを見ているのに気付くと立ち上がって頭を下げた。

「晟、ご両親と一緒でないとダメなんじゃないのか?」


晟は首を振ると允華の手を掴み

「ま、俺は美和子の代わりだからな」

と言い両親の前に連れて行くと

「オヤジにお袋、允華だ。泊ってるのは別荘だけど遊びに来てるんだってさ」

と告げた。


晟の父親の幸一郎は頭を下げて

「いつも晟がお世話になっています」

白露家にはいつも大きな取引をしていただいて

と告げた。

母親の和江は微笑み

「白露家の…晟がお世話になっております」

今後ともよろしくお願いいたします

と告げた。


允華は慌てて

「いえ、俺の方が何時も晟…くんに仲良くして…いただいてます」

というと困ったようにチラリと晟を見た。


晟はハハッと小さく笑って

「じゃあ、オヤジにお袋」

允華と遊んでくるな

というと允華の手を掴んでカフェの方へと向かった。


父親の幸一郎は

「お坊ちゃまに楚々の無いようにするんだぞ」

と告げた。

母親の和江も

「良いわね、晟!」

と告げた。


允華は晟を見ると

「ごめんな、何かご両親に気を遣わせて」

と告げた。


晟はハハハと笑うと

「まあ、オヤジの会社が上手く回ってるの白露家の後ろ盾があるからだからな」

と告げた。


允華は「そうなんだ、知らなかった」と呟いた。


晟はにっこり笑うと

「俺も高校くらいまで知らなかった」

というか

「お前のオヤジさんが、俺が小学2年の頃くらいから取引を始めてくれたらしいんだけど」

お前のオヤジさんが家に知られたくないので一切連絡はしないで欲しいって言ったらしい

「お歳暮もお中元も全て送らないで欲しいって」

まあ白露家ってこう言っちゃなんだけど複雑だからな

と告げた。


允華は初耳の話で

「そうなんだ」

と呟いた。


父親は母親の言いなりで允華にしたら自分をそれほど気にしているように思ってはいなかった。


確かに『白露家の人間が何処で何をしているか分からないようになると威信に関わる』と家を出ることには大反対されているが自分のために晟の家と取引をしているとは思ってもいなかったのである。


晟は携帯を取り出すと

「允華がいてくれて良かった」

ゲームできる

と笑った。


允華は時々月と太陽の様子を見ながら

「いいよ、ゲームしても」

俺は本読んでるから

と告げた。


晟は笑顔で

「サンキュ」

と携帯を開けてゲームを始めた。


時計の針は午前10時半を指し、ホテルの中はバカンスを楽しむ人が行き交っていたが二人はノンビリと時間を過ごしていた。

それから20分程経った時であった。

晟は目を見開くとテーブルの上に携帯を置いた。


「…雨さんタイムが来た」

そう告げたのである。


允華は読んでいた本から携帯に視線を移すと

「あ、本当だ」

と言い、閉じた。


雨というアバターがチャットで

『探偵諸君。推理タイムだよ』

と呼びかけ、MMORPGマギ・トートストリーの中での推理タイムが始まるのである。


雨はインしているメンバーがギルドホームに集まると唇を開くのだが…第一声は違っていた。

『さすが夏だな…今日の参加者は二人だけか』

ほーほー、と感心したような声が響いた。


そう、晟のサーアーサーとスイフィだけの二人だったのである。

仕事をしている人も居れば夏なので田舎へ帰っている人もいる。

特にこのギルドのメンバーで晟以外は社会人らしいのでイン率が下がっているのだろう。


雨は『まあこれで進めようか』とあっさり言うと

『昨夜11時20分に九州コミュニティー放送の社員で金森雅夫という男性が駐車場の車中で後頭部を鉄製の棒状をした鈍器で殴打されて倒れているのが発見された。凶器は現在見つかっておらず発見者は同じ会社の同僚で飛田隼人。彼の話では打ち合わせの最中に携帯に連絡があり慌てて出かけてそのまま戻ってこないので心配になって打ち合わせに参加していた人が探している時に発見したという話だ』

『駐車場は局内にあり駐車場出入口の防犯カメラにその時間以降の車の出入りは写っていなかった』


允華はフムフムと聞きながら

「つまり、局内に犯人がいる可能性があるってことなのかな?」

と呟いた。


晟は腕を組むと

「俺も最近少しミステリー勉強したんだけど」

犯人は第一発見者の飛田隼人だな

と告げた。


允華は顔を上げると

「…何故?」

と聞いた。


晟はにやりと笑うと

「小説では第一発見者を疑えって書いてあった」

とズバンと答えた。


…。

…。


『隆は情報収集や編集としての構文チェックは優れているんだがミステリーはな』

先ほど聞いた言葉が允華の脳裏を過った。


允華は真面目に晟を見ると

「それは確かに一つのセオリーだけど根拠がないよ」

被害者の人は携帯に連絡を受けて打ち合わせの最中に飛び出し

「その後、数人で探して発見だから…見つけた人が偶々飛田さんだったって可能性もあると思うけど」

それよりも

「携帯の着信を調べてもらったり」

もう一つの

「駐車場ではなく地上の出口の防犯カメラを調べてもらう方が良いよ」

と告げた。


晟は目を点にすると

「…確かにそうだよな」

と答えた。


允華は頷き

「今回の推理クイズは金森さんを殴打した犯人を捜すという事だと思う」

と告げた。


その時、スイフィが同じように告げた。

『今回は金森雅夫さんを誰が殴打したかを突き止めろという事ですね』


雨は『そうそう』と告げた。


允華は晟に

「雨さんに先ず二つ調べるように頼んでもらえる?」

と言い

「一つは駐車場以外の出入り口の防犯カメラに打ち合わせで彼が離れた時間以降に人の出入りがなかったか」

もう一つは局内にいる人の情報

と告げた。


「もし出入りが無ければ犯人は局内にいるってことになる」


晟は頷き

「わかった」

と答えた。


そして、彼は

『二つの情報をお願いします。一つは駐車場以外の防犯カメラで被害者の金森さんが打ち合わせから飛び出した後に人の出入りがなかったかどうかともう一つはその時に局内にいた人の情報です』

とチャットに書いた。


雨は『ほーほー』と言うと

『先ず一つ目だが、防犯カメラは地上の出入り口二か所にもありその二か所共に出入りする人の姿は写っていなかった。廊下にも一か所あるらしいが慌てて出ていく金森の姿は写っていたがその前後に怪しい人物は写っていなかった。二つ目は当時の局内にいた人間は10名で発見者の飛田隼人と小泉政治、松高百合、相原千恵子は打ち合わせ室で金森雅夫と打ち合わせをしていた。その間にそれぞれ5分くらいトイレで離れたりはしていたそうだ。だが駐車場へ行って犯行に及ぶ時間ほどのモノではなかったらしい』

『坂上達人は資料室で調べものをしており、恩田進は機材室で機材の準備、そして、小田幸次は事務室で事務作業をしたそうだ』

『遠野寛治と満原風一は警備室にいたという事で二人は発見されるまで一緒に警備室にいたと証言している』

と答えた。


スイフィはそれに

『つまり警備員二人と打ち合わせ中の4人以外の三人の誰かと言う事ですね。打ち合わせに参加していた4人については捜している最中のアリバイはあやふやでも携帯を掛けることができないですからアリバイは成立しているという事ですね』

と説明した。


允華は「だよね」と呟き

「晟、金森さんの発見当時の詳しい状況と犯行現場が分かっているのかどうかとわかっていたらその場所の状況聞いてもらえる?」

犯行現場で争った形跡があるかどうかとか

と告げた。


晟は頷き

「わかった、けど…允華は犯人の目星ついているのか?」

と聞いた。


そういう雰囲気なのだ。


允華は「状況に寄るけど…できる人は一人しかいないかなって思ってる」と告げた。

晟は目を見開くと

「はぁ?」

と声を零すと

「マジか」

と言い

「わかった聞いてみる」

と告げた。


彼はチャットに

『金森さんは車中でどんな風に発見されましたか?あと犯行現場は駐車場ですか?詳しい状況がわかっていたらお願いします。争った跡があるかとかも宜しくお願いします』

と打った。


雨はそれに

『彼は後部座席の足元に倒れていた。犯行現場は車の横に血が落ちていたのでその車の横だったと思われる。争った形跡はなかった』

と答えた。


允華は唇に指先を当てて

「多分、恩田進さんなんだよな」

と呟いた。


晟は目を見開くと

「何故?根拠は?」

と聞いた。


允華は頷くと

「一つは電話の呼び出しができる人は三人」

坂上達人さん、恩田進さん、小田幸次さん

「でも固い棒状の鈍器を怪しまれずに用意できる人は恩田さんだけなんだ」

争った形跡もなく背後からそういうもので殴るって

「その人がそれを持っていても怪しまれないってことだろ?」

例えば事務室にいた人や資料室で作業していた人はそういうものを用意できないと思うし

「仮にそう言う人が用意して持ってきたら違和感あり過ぎて警戒するし廊下のカメラで怪しく映るだろ?」

機材の準備なら普通だよね?

「それに打ち合わせ中じゃなかったら後部座席の足元だから発見はもっと遅れていてその機材を持ち出すことも可能だった」

同時に凶器を残せなかった理由も同じで

「残したら一発で分るから」

そう言う事なんじゃないかな

「機材を調べたら痕跡が出ると思うけど恐らく発見が想定より早かったので彼のいた機材室か機材を積みこんでいる車にあると思う」

と告げた。


晟は腕を組み

「もしかして、それを最初に考えた?」

と聞いた。


允華は頷いた。


晟は「答え書いていい?」と聞いた。

允華は口元に指をあてつつ

「良いよ」

と答えた。


「金森さんを殴ったのは恩田さんだと思うから」


晟は煮え切らない返答に戸惑いつつも

「わかった」

と答えチャットを打った。


『金森さんを殴ったのは恩田さんです。携帯を会議中にかけることができたのは三人』

『その中で鉄製の棒状の鈍器を怪しまれずに用意できたのは機材を扱っていた恩田さんだけだと思います』

『機材に痕跡があると思うので調べてもらえたら凶器があると思います』


允華は少し考え

「晟、もう一つ」

と言い唇を開いた。


晟は不思議そうに頷いて

「わかった」

と書いた。


『出来過ぎな偶然が重なった気がしますが金森さんを襲ったのは恩田さんである可能性は高いです』


スイフィはチャットを見て

『確かに打ち合わせも資料室での調べものも事務作業も鉄製の棒状のものを怪しまれずに用意するのも持ち運んだりするのも難しいですね…そう考えればそれが可能なのは一人だけになりますね』

と告げた。


雨は『なるほど』と答えた。


そして、集まっていた9人を見ると

「この中で携帯に電話を入れることができ、且つ、鉄製の棒状のものを用意し駐車場まで怪しまれずに持ち運び殴ることができたのは機材を準備していた恩田さん、貴方だけですね」

と言い

「駐車場の車にある機材と機材室の機材全てを調べさせてもらいます」

打ち合わせ中で発見が早かったことで持ち出すことはできていないと思うので

と告げた。


それに恩田進は顔を歪めると

「確かに俺が…金森を殴った」

後部座席の足元ならそうそう見つからないと…

と顔を両手で覆った。


雨こと天村日和は息を吐きだし

「確かに偶々打ち合わせ中でなければ発見は遅れ凶器を処分できたかもしれなかった」

運が、悪かったというべきだな

と呟き、チャットに『解散!』と打ち込むとログアウトした。


晟は驚きながら

「ほへー」

允華は直ぐにわかったんだ

と呟いた。


允華は悩みながら

「う~ん」

と声を零した。


「何かなぁ」


晟はあっさり

「まあ、推理クイズだからそう言うのもアリじゃないか?」

と答えた。


允華は少し考えると

「スイフィさんに違和感ありませんか?って聞いてもらえる?」

と告げた。


晟は戸惑いつつ

「わかった」

と答えるとチャットに打ち込んだ。


スイフィはそれに

『さすがサーアーサー君だと思いますが…何か気になることがあるのですか?』

と返した。


允華はそれを見ると

「…考えすぎかなぁ…推理クイズだもんなぁ」

と呟き

「他に犯人がいるんじゃないかなんて」

推理クイズにそれはないよね

と罰が悪そうに告げた。


晟は「だよな」と言いつつチャットに

『考えすぎだったかもです』

と書き込み

『落ちます。お疲れさまです』

と挨拶してログアウトした。


そして、允華を見つめると

「本当のところ何考えついたんだ?」

と聞いた。


允華は「うん」と頷き

「なんでわざわざ打ち合わせ中に電話したのかなぁとか」

トランクじゃなくてどうして後部座席の足元だったのかなぁとか

「出来過ぎ感が気になって」

と告げた。


同じ時。

九州のコミュニティー放送局で天村日和は連れていかれる恩田の背中を見つめた。


彼の部下は

「怪しまれずに凶器を持ち運べるですか…なるほどですね」

さすが県警一の推理力

と言い

「しかし恩田は運が悪かったというべきでしょうかね」

と呟いた。


天村はそれに

「俺の推理力じゃないな」

ただ

「その探偵君はこの件に疑惑を持っているみたいだけどな」

と呟いた。


『出来過ぎな偶然が重なった気がしますが』と言ったのだ。


打ち合わせが無ければ。

車の中でも外から見える場所でなければ。


天村は少し考えながら腕を組んだ。

「確かにそうかもしれないな」


允華と天村が感じたことは取り調べで証明されることになるのである。

ずっと沈黙を守っていた恩田進だったが一週間ほど過ぎた時に漸く唇を開いた。


恩田は震えながら

「携帯が…掛かってきていたんです」

金森をやれと

「指示する方法なら大丈夫だと」

もししなければ…あの事を…ばらすと

と顔を伏せた。


事件はまだ終わっていなかったのである。


天村がその報告を受けたとき九州コミュニティー放送は関東の観光地取材で津洗へ旅立った後であった。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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