妄執の果て
その翌日から泉谷晟と大学へ行くと再び夏月家へとアルバイトに出かけたのである。
が、その列車の中で晟は済まなそうに小さな声で
「先生のところへ行く前に大切な話があるんだ」
と允華に告げた。
允華は何となく理解すると
「わかった、俺は多分祝福すると思うけどね」
と笑顔で答えた。
晟は目を見開くと複雑な表情で
「ありがとうな、それから、ごめん」
と答えた。
そう、自分がいなかった一か月の間に少しずつ自分の周りも変わったのだ。
話は允華が思っていた通り、晟と茂由加奈子の話であった。
二人はお互いの手を取って二人の未来も紡ぎ始めていたのである。
允華から贈れる言葉は『良かったね、おめでとう』だけであった。
ただ、痛いはずの胸の痛みが軽かったのは恐らく允華自身の中でも変化があったからである。
夏月家へ二人が訪れるとやっぱり夏月直彦は小説を書いていた。
流石である。
ただ、傷の具合もあるので休み休みのようではあるが
「指は動くからな」
と本人は言っていた。
隣で看病兼編集者の津村隆は
「俺が押し付けて書かせている訳じゃないからな」
と誤解しないようにと告げていた。
また、講義を終えてきた二人よりも早くに来ていた茂由加奈子はリビングで
「お!来たね」
おはよう
と声をかけて
「允華君、ずれ込んだけど卒論との兼ね合いは大丈夫?」
と聞いてきた。
允華は頷くと
「はい、大丈夫です」
と答え
「またよろしくお願いします」
と告げた。
加奈子は笑顔で
「こちらこそよろしくね」
と返した。
「允華君は私の大切な先生だからね」
允華は笑顔で
「そうなれるように頑張ります」
と告げた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




