妄執の果て
允華は3月末日に東京へと帰るとその足で夏月家へと姿を見せた。
直彦はベッドの人であったが顔色は悪くなかった。
「春彦から連絡を貰った」
本当に迷惑をかけてすまなかったな
言われて允華は首を振ると
「いえ、お役に立てて良かったです」
それに俺も色々勉強になりました
「あと大切な話を聞きました」
と答えた。
直彦は允華に
「俺もこちらであった話と…もう一つ重要な話をしておこうと思う」
と告げ、言葉を続けた。
あの事件以来、同じ階には武藤肇を始め、津村家と白露家からも人員が配備されて警備に付いており、表面的には何もなかったようには見えるが水面下ではセキュリティーが強化されたのである。
允華は直彦との話が終わると成城の自宅へと帰り、久しぶりに兄の元と甥っ子の月と三人で夕食を取った。
元は月が寝ると允華の部屋へと姿を見せた。
「色々、大変な目に合わせたな」
允華は首を振るとベッドに座る兄を見て
「そんなことはないけど」
と答え
「その、今…俺の私見を言っていいかな?」
と告げた。
元は頷いて
「ああ、是非聞きたい」
夏月とも話をしたんだろ?
と答えた。
允華は頷いて
「ん、先生も少し考えてた」
と告げた。
元は少し笑んで
「あの夏月が思案するということはかなり難しい問題だな」
と呟いた。
允華は「俺も思い付きの範囲を出ないけどね」と言い唇を開いた。
外は夜の帳が降り、周囲では静寂が広がっていた。
その中で桜の木が人知れず蕾を吹き、春の訪れを教えようとしていたのである。
コンティニューロール
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。
 




