運命の出会い
その日の夜。
允華は島津家で絢華と勇と三人で食事を取り、与えられた部屋に戻ると全てのメールの内容を書きだして春彦に教える方法を考えた。
允華はベッドに身体を投げ出し
「春彦君の場合は手足となって動いてくれる人がいるんだから…その人たちに自分の考えをどう伝えるかってことと…その有用性だよな」
春彦君は直感で動くところがあるからきっといちいち説明するより自分で動く方が楽だという考えが根底にあるんだろうな
と呟いた。
「あと、重要なことがもう一つ」
それを考えながら允華は目を閉じた。
外はすっかり日が暮れて闇が降り、深い深い闇の向こうに明るい太陽がその姿を現す時を待っていたのである。
翌朝、允華と勇と絢華はもう一度春彦の様子を見に行き、絢華はその足で東京へと戻った。
允華は福岡空港へと送りに行き
「ありがとうございます」
と礼を言った。
彼女は笑顔で
「夏月君が気付いたら知らせて」
それから自分を大切にするように伝えてね
「良かったら東京でも会えたら会いましょう」
と手を振って搭乗口へと向かった。
允華は彼女の姿が見えなくなるまで手を振り、その足で再び病院へと戻った。
春彦が気付いたのは翌日であった。
5日ほど生死の境を彷徨っていたのである。
彼が目を覚まして神守勇が開口一番に言った言葉に允華は静かな笑みを浮かべた。
『私、怒ってます』
春彦さんのばか
『でも、目を覚ましてくれてよかった』
正にその言葉に尽きるのだろう。
允華は翌日春彦の意識が完全に戻ってから直彦から言われたことを伝えた。
「俺は先生から君に俺のやり方を伝授するように言われたんだ」
春彦は「え?」と聞き返した。
允華は笑みを浮かべて
「手にした情報で推理する方法と必要な情報の集め方」
春彦君が人に伝達できないのは頭の中で形にする前に動くからだと俺は思っている
「ある意味において本能的な直感という形かな?」
でもそれでも形にすることはできる
「だから、直感を形にして必要な情報をいかに人に集めてもらうかを伝える方法を学ぶってことだね」
と説明した。
「直感と行動が今の春彦君は同時進行だってこと」
春彦は目から鱗のように允華を見た。
允華も直彦も春彦の調べ方を理解していたのである。
恐らく春彦以上に分っていたのだ。
春彦は理解すると
「宜しくお願いします」
と動かない頭を小さく動かした。
允華は更に
「それから、先生がね」
心配しなくてもあの部屋はずっとずっと君の帰る場所だからって言ってた
「離れていて突然帰ってきてもいつも通りに迎えられる家だから焦るなって」
と告げた。
「先生にとって春彦君は弟だからいつも傍にいなくても兄弟って絆で繋がっているんだって言っているんだと思う」
春彦は涙を落とすと
「ありがとう、允華さん」
俺も直兄のいるところが俺の家だって
「故郷だって思ってるって伝えて欲しい」
どんなに時間がかかってもどんなに離れても
「帰る場所はそこだから」
と告げた。
允華は微笑み
「俺は先生と君が羨ましいよ」
と言い
「明日から徐々に始めよう」
と告げた。
春彦は頷いて
「はい」
と答えた。
この時、春彦の迷っていた進路も決まったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




