狙撃
駅の方の道に一人の少女と男性が慌てて駆け寄る姿が目に入った。
陸奥詩音と彼女のボディーガードの愛染幸一郎であった。
以前に見た博多弁の男性であった。
詩音は直彦を見た瞬間に
「あ…な、な…お兄さん!!もどって!早く!!」
と叫んだ。
直彦は声に動きを止めると弾かれるように踵を返した。
同時に詩音と愛染の横合いを抜けて一つの影が飛び出し、乾いた音に一瞬遅れて直彦を押し倒した。
允華と晟も自動ドア越しにその様子を見て慌てて外へと飛び出しかけたが、直彦を押し倒した男性は二人を見ると
「出るな!!」
と叫び
「直ぐに救急車を呼んでくれ!!」
と指示した。
詩音は駆け寄って直彦の前に立つと両手を広げかけた。
「…早く、マンションの中に」
お願い
呟く彼女を守るように愛染幸一郎が前に立ち
「詩音さまも早く」
とマンションの中へと入った。
男性はマンションの中に入ると直彦の胸元を抑えながら
「しっかりしてください、夏月様」
と呼びかけた。
直彦は僅かに目を開けると泣きながら自分を見ている詩音に指先を伸ばした。
「し、おん…ちゃんだな」
春彦から…きている
と微笑みかけてそのまま指先を落とすと意識を手放した。
血はその場に広がり允華は祈る思いで携帯を握りしめた。
「早く救急車」
詩音は直彦の手を掴むと
「お兄さん…お願い…生きて」
と泣きながら呼びかけた。
救急車が到着すると晟に後を頼んで允華と男性が直彦と共に乗り込んだ。
允華は白露家の病院へと行くように指示をして同時に兄の元に連絡を入れた。
詩音と愛染はタクシーを捕まえると救急車の後を追いかけたのである。
晟はマンションの部屋で震えながら茂由加奈子が来るのを待っていた。
生まれて初めて目の前で人が撃たれたのだ。
しかも、先まで普通に話しをしていた人だ。
大切な人なのだ。
茂由加奈子はそんなことが起きているとは知らずにマンションの前まで来て警察がテープを張っているのに驚きながら、中に入ると最上階へと上がり夏月家の扉を開いた。
晟は弾かれるように戸口に来ると加奈子を見て抱きしめた。
「俺、俺…」
震えながら泣く晟に驚きながら
「どうしたの?」
と加奈子は抱き留めながら問い掛けた。
晟は俯いたまま涙を止めるように唇を噛みしめ
「…ごめん、泣いてる場合じゃないんだけど」
今だけ
と言い
「先生が…先生が…撃たれて」
俺、何もできなかった
と呟いた。
加奈子はふらりと倒れかけた。
晟は慌てて彼女を抱き留めた。
「ごめ、ん」
俺が…
加奈子は晟に凭れたまま首を振り
「ううん、私こそごめんなさい」
と言い
「少し座りたいわ」
と告げた。
晟は自身も震えながらも彼女を懸命に支え、リビングに行くと椅子に座らせた。
「どの病院か允華から連絡来るから、そうしたら一緒に行こう」
加奈子は小さく頷いた。
そして、晟の手を強く握りしめると
「ごめんね、私の方が年上だし…しっかりしないといけないのに」
と蒼褪め乍ら笑みを浮かべた。
が、晟は首を振ると強く彼女の手を握り返した。
「俺だって動揺してた」
だから加奈子さんはそのままでいいんだ
「俺はそんな弱いところも全部好きだったから」
今は俺に甘えてくれ
「俺も震えてるし先生がと思うと悔しくて悲しくて辛いけど…支えるから」
加奈子は涙を落とすと
「ありがとう、晟君」
と顔を伏せて両手で覆った。
「先生…」
どうか
どうか無事で…
允華は病院に到着して直後に駆けつけてきた兄の元と合流すると直彦が緊急手術室へ運び込まれるのを見送った。
そして、もう一人の同伴者である男を見た。
整った容貌に鍛えられた身体。
何よりもあの俊敏な動きに的確な指示と止血。
「貴方は、誰ですか?」
男は允華と元と遅れて駆けつけてきた詩音と幸一郎を見ると
「私は島津家配下の武藤家長男武藤肇です」
と答えた。
「夏月直彦様のことを調べておりました」
時折様子を見に伺ってもいました
允華は肇を見つめ
「もしかして、春彦君が撃たれたのは本当…とか?」
と聞いた。
肇は首を振ると
「その連絡は入っておりません」
そんなことがあれば必ず連絡が入ってきます
と告げた。
瞬間に肇の携帯が震えた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




