直彦の秘密
隆は二人の後ろに座り、遅れてやってきた直彦に横に座るように促した。
その間にも天村日和こと雨の話は進んでいた。
『雨:平成25年3月24日未明に銀座の宝石店・フレイヤドームという店に強盗が入り24億相当の宝石を盗んで逃走した。』
允華は直ぐに
「強盗だとしたら平成22年の法改正で今年の3月24日で時効を迎えるってことか」
と呟いた。
直彦はそれにふっと笑みを見せた。
その辺りの事情をちゃんと分かるようになってきたのだと理解したのである。
初めの頃はただトリックを解くだけのトリック解きだったが今はちゃんと事件解きになって来ているということである。
それはこれから先に允華がミステリーや推理小説を書く際には大切になってくるところである。
隆もまた直彦の表情に笑みを浮かべた。
直彦の想定通りに允華が成長していることがわかったからである。
日和はパラリとファイルを捲ると
『雨:店内のカメラに写っていたのは一人だが車で逃走した際に運転手がいたことが逃走中の車を映したカメラから判明している』
『雨:実行犯の佐藤次郎と運転手の加納作雄の二人なのだが加納作雄は3月25日に井之頭公園の駐車場で車の中で遺体となって見つかり、車の中から佐藤次郎の免許証が見つかって佐藤次郎を指名手配したが2日後の3月27日に彼の自宅で自殺しているのが見つかった』
『雨:逃げきれないと思ったのか遺書を残し加納作雄の殺害も書かれていた』
と告げた。
晟はそれを聞き
「それで何が問題なんだ?」
と允華を見た。
同じように隆も腕を組んで
「確かに犯人は佐藤次郎で分っているのに何故コールドケースになったんだ?」
と直彦を見た。
直彦はハァと溜息をつくと
「確かに遺書が出て佐藤次郎が自殺という話はしているが最大のモノの話が出てないだろ」
と告げた。
それに隆も前に座っていた晟も直彦を見た。
…。
…。
直彦は二人を見て
「似てるな」
と心で呟いた。
允華は苦笑を堪えつつ
「宝石だよ」
と告げた。
「24億円の宝石の事は雨さん何も言ってないだろ?」
晟と隆は同時に「「おお!」」と驚いた。
日和はゲームの向こう側でそんなやりとりがされているとは知らず
『雨:ただ盗まれた宝石は現在も発見されていない』
と付け加えた。
允華は唇に指先を当てて
「だとしたら変だよな」
と呟いた。
直彦も頷いて
「そうだな、そうなると佐藤次郎の主犯自殺説は真っ向から否定されるな」
それに車の中から免許証が見つかってっていうのも気になるな
と告げた。
晟と隆は同時に
「「えぇそこ!?」」
と叫んだ。
それに牛丼を作っていた加奈子は
「何がどうしたの!?」
とびっくりして声を出した。
允華は腕を組んで
「ですよね」
それじゃあ自分が犯人だって言っているようなものだし
「運転手じゃないなら免許証を落とすとかって変ですよね」
それに宝石を盗んで独り占めしているなら部屋に宝石があるはずだし
「自分が死ぬのに宝石を態々隠すのはおかしいし」
と言い
『コンティニュー・ロール:見つかった遺書は本物ですか?』
と打ち込んだ。
日和はファイルを捲って
『雨:筆跡鑑定は本人のモノだった』
と画像を二枚上げた。
一枚は遺書で一枚は筆跡鑑定に使われた会社から提出された手紙であった。
『こんなことをしてしまい申し訳ありませんでした。加納さんをしなせたのは私です。お詫びします。佐藤』
『始末書 この度は会社に多大なご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。お客様にはお詫び申し上げ修正した納品書に加え請求書を取り替えさせていただきました。今後はこのようなことが二度と無い様に気を付けます。佐藤』
允華は目を細めると
「なるほど」
と呟き
『コンティニュー・ロール:始末書は誰からの提出ですか?』
と聞いた。
日和はファイルを捲り
『雨:佐藤次郎の会社の社長だ。佐藤次郎は小向部品という小さな工場の社員だったんだが以前に納品の数を間違えたとかでクレームがあって配送部の牧尾という上司に書かされたらしい社長はそこまでしなくても良いと言ったらしいんだが示しがつかないとかで書かせたんだが後で確認すると数はあっていてその直後に事件が起きたので社長はこの事が原因だったら申し訳なかったと言っている』
と告げた。
允華は「そうなると」というと
『コンティニュー・ロール:小向部品の経営に変化はありましたか?』
と打ち込んだ。
日和はふ~むと声を零すと
『雨:小向部品の経営に変化はない』
と返した。
允華は「なるほど」と言い
『コンティニュー・ロール:牧尾という当時の上司はどうなりましたか?』
と打ち込んだ。
日和は「ん?」と頭を傾げると
『雨:部下が事件を起こしたとかで会社を辞めたということだけは分かっている』
と返した。
允華はそれに
『コンティニュー・ロール:犯人は佐藤次郎さんではなかったと思います。佐藤さんは始末書からもかなり漢字を使うタイプだと思います。なのに『しなせた』を『死なせた』にしないのはおかしいです。それにその手紙に使われている文字は全てその始末書で使われている文字なので会社の人ならその始末書から偽造遺書を作製できると思います。二つの文章を重ねて調べてください。もしかしたら提出された方の紙に重ねて書いた痕跡が残っているかもしれません』
と打ち込んだ。
日和はそれに目を見開くと
「まさか…偽造遺書を使ったとは…」
と呟いた。
允華は更に
『コンティニュー・ロール:また運転手でもない佐藤さんの免許書が態々車の中に落ちていたのにも疑問が残ります。殺された加納作雄さんと小向部品の社長もしくは牧尾との接点があるかを調べてください。恐らくそれを提出した社長ではなく無理やり書かせた牧尾の方が犯人の可能性が高いと思います』
と付け加えた。
日和はふぅと息を吐き出すと
『雨:助言ありがとうノシ二枚の書類の関連と小向部品の今と牧尾について調べるようにする』
『雨:またよろノシ』
と告げた。
允華もまた
『コンティニュー・ロール:こちらこそまたよろノシ』
と返し、雨と同時にログアウトした。
後日、始末書の方に不自然なヘコミがありそれが遺書に使われた文字だと分かり偽造遺書であることが判明した。
また、牧尾は会社退職後に多額の資金を元手に会社を立ち上げたことがわかり、その資金の流れを追ったところ海外の宝石商からの入金であったことが判明し追及されることになった。
允華はログアウト後にふぅと息を吐き出すと
「直後なら痕跡があったのかもしれないけど」
というか
「宝石が見つかったかもしれないけど…きっと今は分からなくなってるよな」
と呟いた。
直彦も立ち上がると
「そうだな」
と告げた。
それに晟が不思議そうに
「けど、普通お札なら残っているのに宝石なら何故?」
と聞いた。
允華は立ち上がって背伸びすると
「宝石は海外のバイヤーを使って売ることが出来るからな」
と言い
「お札は海外に売ることはできないし大抵の場合は番号管理されているからそこから足がつくから時効まで待つんだ」
捕まっても裁かれない時効までな
と答えた。
晟はほへーと
「なるほど」
と呟いた。
その時、台所から
「ということで!推理タイムから牛丼タイムね!」
と加奈子が告げた。
直彦は苦笑しつつ
「それは上手い切り返しだな」
と呟いた。
隆も笑って
「確かに」
じゃあ、牛丼タイムに突入するか
と告げた。
明るい笑い声が響き、注ぐ昼の陽光の元で5人は牛丼タイムへと突入したのである。
ノンビリとした極々普通の日々。
允華は心の何処かでこの日々がずっと続くと思っていたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




