直彦の秘密
允華も晟も笑顔で応えると
「「ありがとうございます」」
と言い、それぞれに作業を始めたのである。
晟は冬休みの間にJAVAとMYSQLでの基本的なネットショップ用のプログラムを作り終えている。
その企画書も作成し終えており本人的には
「これをそのまま卒業制作にしても良いけど…俺はゲーム推しで行きたい」
とゲーマーとしての矜持か何か分からないが卒業制作はゲームらしい。
允華は4月になってから卒業論文を書こうと考えているのだが、問題は10万文字のこの小説をそれまでに書き終えられているかどうかだと考えていた。
去年の24日に加奈子が撮影したベイエリアのイルミネーションの3Dviewを見て
「…本当にカップルが多いな」
と呟いた。
晟は本当の卒業制作の下資料を纏めながら
「そりゃそうだろ」
と肩越しに振り向いて告げた。
「クリスマスイブのイルミネーションだぜ?」
しかも
「ベイエリアっつったらデートコースじゃん」
允華は腕を組むと
「じゃあ、そのまま利用するかな」
と呟いた。
加奈子は允華を見ると
「まさか、主役の編集者と作家の…」
と允華を凝視した。
が、允華は首を振るとあっさり
「犯人と被害者とその他大勢」
ときっぱりと告げた。
晟は笑いながら
「だよな~」
と告げた。
「茂由さん何想像してたの!」
とついでにビシッと突っ込んだ。
允華も笑いながら
「とりあえずはトリックとかは考えているからそれを時系列と登場人物と内容とに分割して違和感がないか確認していかないとね」
と鞄からルーズリーフを出すと線を引き出した。
大体の流れをルーズリーフに書いてそれをノートに清書して、パソコンで表にする。
そう言う方法を允華は取ることにした。
それは直彦がしている方法で直彦の部屋の棚には小説の他に多くのノートが並べられている。
加奈子はペンを手に表を作って書き始めた允華を見ると静かに微笑んで
「じゃあ、私は三話目の題材探しをしようかな」
とパソコンに目を向けた。
晟も二人に背を向けて机に置いたパソコンとタブレットと携帯を立ち上げると春彦の部屋の中に入った。
春彦の部屋にはコンピュータ関係の本が多数あり、その中にはアンドロイドのゲームアプリ作成の本もあるのだ。
いつ見ても本当にすごく勉強していたことが分かる。
「すげーよな」
この本全部欲しいぜ
と言い、不意に壁にかかった絵を見て目を見開いた。
去年の最終日までなかった絵である。
白く細い花弁が広がる百合のような花に囲まれ一人の男性と一人の女性が描かれている。
綺麗な。
そして、ハッとするような引き込まれる絵であった。
「…この男性…夏月先生じゃん」
じゃあこの女性が噂の先生の好きな人?
「ちょーぜつ美人」
チラリと隣のリビングを一瞥して視線を下にすると
「けど、俺は茂由さんの方が好きだけどな」
と真っ赤になりながら呟いた。
その瞬間。
「それは俺じゃない」
と声が返った。
晟はドーンと窓側に飛びのくとバクバクと心臓を跳ね上がらせて
「せ、先生!」
俺を殺す気ですか!!
と叫んだ。
直彦は「いや」と言い春彦の棚の前に来ると
「本を取りに来ただけだ」
と『AI理論』という本を手にした。
晟の叫びに允華と加奈子が部屋に入ってくると絵を見た。
允華は目を見開くと
「これってもしかして…菱尾湖南の乙女シリーズですか?」
と直彦を見た。
加奈子は不思議そうに
「菱尾湖南の乙女シリーズって?」
と聞いた。
直彦は彼らを見ると
「そうだな、允華君は大体聞いているんだろ?夕矢君から」
と言い
「話しておいた方が良いか」
と呟いた。
そう、日本全国を飛び回っている東雲夕弦の弟の東雲夕矢も現在兄と共に各地を回っている。
その旅先で美術館の依頼を受けて絵の護衛をしているのだ。
そこで巻き込まれた事件に関係しているのがこの菱尾湖南の乙女シリーズなのだ。
それは九州の特別な家系の一つで陸奥家の当主が描いて何かの理由によってバラバラにばら撒いた絵で春彦が九州で出会った友人の陸奥樹とも関連したモノであった。
允華と晟と加奈子は同時に直彦を見た。
直彦は絵をチラリとみて
「この俺に似ている男性は俺の本当の父親だ」
そしてこの女性は俺の本当の母親だ
と告げた。
「春彦が手に入れて正月に受け取ってきた」
允華は直彦を見て
「本当のってことは」
と聞いた。
直彦は腕を組むと
「そうだな、俺の両親と俺を育ててくれた母親は知り合いで」
何があったのか分からないが
「自分の子として俺を育ててくれたということだ」
と告げた。
「父親の名前は秋月直樹で母親は磐井栞といって…母親は生きている」
何処かは言えないが
允華はハッとしてリビングの方に目を向けた。
そして、そこで立っている隆を見て目を細めた。
隆はそれに小さく頷いた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




