直彦の秘密
白露家の年始は挨拶、挨拶、挨拶の挨拶三昧で始まる。
桜の木が植えられた広々とした庭園に多くの来客が入れ替わり立ち代わり挨拶に訪れていた。
ベイエリアハイモンドホテルの支配人や洋食レストランのルフランの支配人など関連の企業や東京の半分の名士や代議士などもやってくる。
一日百数人三日で三百人近くは来る。
それは津村家でも同じくらいなのだが今年は津村の主で隆の父である津村清道と孫の太陽が挨拶をして、津村隆は夏月直彦と共に九州へと出かけていた。
ただ津村隆に関しては九州帰宅後に白露家へと訪れ兄の元と色々話をしていたようである。
が、允華はその頃には大学の講義があり不在であったので兄から
「ああ、今日。津村が来たんだが学年末テストが終わったら待っていると言っていたぞ」
と言われたのである。
允華は1月6日から学校が始まり、直ぐに学年末テストを受けると1月の中旬ごろからの春休みに合わせて隆から言われた通りに再び夏月家へアルバイトに出向いた。
晟も同様で学年末テストの最終日に合流すると
「行こうか」
と允華に呼びかけた。
允華はそれに頷いて
「ああ、久しぶりね」
と答えた。
12月初めから今日までアルバイトはお休みであった。
直彦が弟の春彦に会いに九州へ出向いていたからである。
そして、今日漸くアルバイト再開であった。
と言っても実際はアルバイト代を貰えるような仕事をしていないのだが直彦はあっさり
「来てもらっている以上は払う」
気になるんだったら将来の投資…クラウドファンディングだと思えばいいだろ?
と時給を払ってくれているのだ。
二人は直彦の性格を理解していたので有難く言葉に甘えることにしていたのである。
テストは午前10時30分で終わりまだ南天に登り切っていない太陽の陽光を浴びながら二人は東都電鉄の列車に揺られて高砂駅まで行くとホームに降りた。
高砂駅の改札は東京よりに一つあるだけで日中だというのにバラバラと行き交う人の姿が見受けられた。
改札を抜けて駅舎を出て階段を降りると大通りを横手に5分ほど歩いた場所にマンションがある。
その最上階が夏月直彦と春彦の家であった。
允華は晟とマンションの自動ドアを潜って中に入るとエレベーターに乗りかけて
「そう言えば」
と唇を開いた。
「去年に博多弁の変な人いたけど…あの一日だけだったな」
晟はすっかり忘れていたように
「お、おお」
もう顔も覚えてないけど
「そう言うのあったな」
と答えた。
允華は笑って
「俺も今まで忘れてた」
と言い
「まあ、気にし過ぎだったみたいだけどな」
とエレベーターに乗り込むと最上階のボタンを押した。
到着するとエレベーターから降り立ち戸を開けて中へと入った。
玄関口から正面の部屋が直彦の部屋である。
二人は靴を脱いで速攻彼の部屋の戸を開けると
「「おはようございます」」
と挨拶をした。
中では直彦がパソコンに向かって手を動かしながら
「ああ、おはよう」
といつもと同じように答えた。
隣にいた隆もまた
「おはようさん」
茂由君がお昼作ってくれるから出来たら持ってきてくれるか?
と告げた。
それに晟が
「はーい」
と答え
「出前人泉谷晟が運びます!」
と敬礼した。
允華も笑顔で
「俺も運びますので」
と言い、二人は戸を閉めるとリビングへと入った。
中では茂由加奈子が笑顔で二人を見て
「おはよう!」
と声をかけた。
彼女とはあのクリスマスイブ以来である。
が、允華も晟も笑顔で
「「おはようございます」」
と答えた。
加奈子は横に允華が座り後ろ側に晟が座ると
「お昼には少し早いでしょ」
正午になったら作るわ
と言い
「今日は牛丼だからね」
と二人に笑みを向けた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




