24年前の暗号
12月に入ってから允華は家で執筆をするようになった。
アルバイト先の主である夏月直彦が弟である夏月春彦がいる九州へ12月中旬から1月中旬にかけて行くことが決定したからである。
ただ、前のように家にいることが苦痛になることはない。
その事も分かっていて彼は勧めてくれたのだろう。
允華は自室でパソコンの前に座り指を動かしながらふぅと息をつくと横手の窓に目を向けた。
「夏月先生、確か出発は15日だったよな」
あと3日で出発か
「春彦君喜ぶだろうな」
そう呟いた。
元々彼らは孤児として育ち、直彦が18歳で養護施設を出る時に二人だけの暮らしを始めたのである。
つまり、二人は互いしかいなかったのだ。
絆の深さは言葉で語りつくせないほどのモノあったに違いない。
允華はその事を思いながら二人が再会する様子を想像すると笑みを浮かべた。
その時、ノックの音がして月の声が響いた。
「允華兄さん、晟兄さんが来たよー」
兄の息子の月である。
これまで兄の元とは少し距離があったが、今は月と元と允華の三人で暮らしている。
自分達もまた解けていた絆を少しずつ結び始めているのだ。
生まれてから21年。
変わらなかった生活が今大きく変わり始めているのである。
允華は打ちかけの小説を保存し
「はーい」
と答えると、立ち上がり部屋を出た。
冬の晴れ間の午後のことであった。
コンティニュー・ロール
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




