潮流の終焉と始まり
特別な家系を支えるシステム。
その設計書類が西日本会議の前に漸く見つかったのである。
それは允華と晟のクラスメイトであった芹沢城が允華に託した六桁暗号解除式ボックスの中に解き放つ鍵があった。
允華はその芹沢城と会うために封筒に押された消印を手掛かりに晟と共に探し始めたのである。
消印は風景印で富士や橋などが描かれ、そこに『足立宮城郵便局』と日付けがあった。
允華と晟は成城学園前駅から鶯谷駅でJRに乗り換え、そこから日暮里に行くと日暮里舎人ライナーに乗り換えて足立小台駅で降りた。
郵便局までは徒歩で約15分程であった。
允華は郵便局員に差し出された日の防犯カメラの映像を見せてもらうように頼んだ。
郵便局員は当初は断ったが允華が白露家の人間だと分ると直ぐに裏へ案内し防犯カメラの映像を見せた。
そこに、面影が残る芹沢城の姿があった。
晟は笑って
「松野宮君がいれば描いてもらうんだけどな」
と告げた。
允華は苦笑しつつ
「だよね」
と返した。
「でも印刷はしてもらえるから、頼もう」
と、二人はその映像をプリントアウトしてもらうとそれを手に周辺で聞き込みに回った。
近くには一軒家も多くはあったが一軒家ではないと判断するとマンションやアパートなどの集合住宅を訪ね歩いた。
朝の9時から歩き回り11時頃に芹沢城が住むワンルームマンションにたどり着いたのである。
『リバーサイドハウス足立宮城』
二人はその302号室の扉を叩いた。
すると防犯カメラに映っていたその人物が姿を見せたのである。
「…白露に…お前誰だっけ?」
…。
…。
晟はぱこーんと叩くと
「お前は允華にしか興味ないんかーい」
とむっと怒った。
それに芹沢城は笑って
「泉谷だろ」
お前らずっとつるんでるな
と告げた。
「まさか、二人で探しに来るとは思わなかったが」
允華と晟は顔を見合わせて笑みを浮かべると
「「どうしても会いたかったからな」」
と告げた。
絆を…結び直しにきたのだ。
コンティニューロール
「もともと、俺の家は神楽家の従家だったんだ」
苗字も芹沢ではなくて久守だったんだ
允華は驚いた。
「え?」
城は二人を6畳の部屋に置いている膳に案内してそこにお茶を置きながら
「それも凄く昔の話でお前に渡した鍵を管理する為に従家から離れた…というか離された?みたいな」
その時に苗字も変わったんだ
と言い
「その時にかなりの資金を受け取り、それを元手に資産を築いてきたんだけど…お前たちも知っている通りに親父の事業が失敗してこういう状態になったわけだな」
と告げた。
晟は「それで両親は?」と聞いた。
城はあっさり
「田舎の古民家と土地が残ってて…というか、神楽家の当主代理がそこだけ残して借金処理を引き受けてくれたらしい」
今は農業してる
と告げた。
「東京にいた頃より元気になってた」
允華も晟もそれには苦笑した。
允華はハッとすると
「というと神楽家のことは」
と告げた。
城は頷いて
「知ってる」
と言い
「本家は一昨年に当主が亡くなって途絶えたんだ」
100歳越えてたかなぁ
「子供が生まれなくて老衰だった」
代わりに親族の海埜七海って女性が当主代理をしている
「まあ借金処理の時は本家の当主が生きていたから」
代替わりして俺と親父たちのところに従家の人間が来て話してきた
「何か困ったら連絡するようにって」
と答えた。
允華は「そうなんだ」と答えた。
そして心の中で
「津村さんは彼女が特別な家系の流れの人だって言ってたから彼女が当主代理だってことまでは知らないんだ」
と呟いた。
晟は腕を組むと
「しかし、春彦君はそう言う血を惹きつける何かがあるんだな」
と呟いた。
「雇い主が結局当主ってことだったんだよな」
允華はハッとすると
「あ、そうだね」
と呟いた。
そして
「俺はそこまで出来ないけど」
困った時には駆けつけて力になるから
と告げた。
晟も頷いて
「俺もな!」
と告げた。
城は笑みを浮かべると
「こうして来てくれたことが俺は嬉しいし」
お前達が俺の暗号を解いてくれたことに凄く感謝している
「また挑戦状を送るけど良いか?」
もう事件じゃない奴だけどな
「生存報告だな」
と笑った。
允華も笑って
「事件じゃない方が助かる」
楽しんで解くよ
と答えた。
晟も「俺もな!」と告げた。
城は「あー、泉谷の解読力は期待してない」と業と告げた。
晟は口をとがらせて
「ちぇー」
と言い
「けど、まあ…允華にエールを送るくらいは出来るからな」
と笑った。
允華と晟は昼食を城と共にしてそのまま別れた。
また送られてくるだろう挑戦状を楽しみにして。
彼の話を二人は夏月家に行くと直彦と隆にした。
隆と直彦は海埜七海にあって西日本会議の出席を頼むことにすると告げたのである。
その後、10月に入り突然津村家の当主である隆の父である清道が参加を表明した。
同じ日に允華と兄の元は父から呼び出されたのである。
横浜にある邸宅。
元と允華が邸宅の前に来ると三人の人物が待っていた。
元は目を見開くと
「…東雲に夕矢君に末枯野」
と呟いた。
東雲夕弦は二人を見ると
「夕矢が三日前に尋ねたら今日来るようにって言われたらしくてな」
と告げた。
允華は夕矢を見ると
「ここを?」
と聞いた。
夕矢は頷いて
「俺、4月頃に友達と向こうの公園の丘から見たらここの庭の中で何かが輝いて見えたんだ」
まるで特別な家系で見てきたシステムの場所を示す奴みたいに
と告げた。
「その時は断られたんだけど…春彦さんが西日本会議を開催するって聞いて兄貴たちのやりたいことが進んでいるんだって思ったら俺も力になりたいって思ってもう一度と思ってきたら今日来るようにって言われた」
夕弦と剛士は微笑んで彼を見た。
允華は「そうなんだ」と言い
「だからきっと津村家も参加を表面してくれたんだ」
と告げた。
元も笑むと
「ありがとう、夕矢君」
と言い
「どうぞ」
と誘った。
二人の父親は彼らを出迎えて最初に庭へと案内した。
「この池に沈められたものはこの区画の中枢」
夕矢はじっと見つめ
「…やっぱり関東の地図だ」
ただ他と違うのはダイヤが二か所にある
と告げた。
「一か所は先生と朧さんとの思い出の場所だ」
だけどもう一か所は全く違う
「地図を見て比べないとわからないけど」
元も允華も夕矢を見つめた。
二人の父は笑みを浮かべると
「そうだ」
この池にシステムの場所を密かに隠し
「代々引き継いでいくことになっている」
と告げた。
「ただ誰にでも見えるものではいけないので非常に目の良い者以外は見れなくしているのだ」
私には無用のものだが
「お前達には必要なモノだろう」
元は静かに頷いた。
「はい」
允華は父親を見て
「もしかして、津村家の当主を説得したのはお父さんなのですか?」
と聞いた。
突然、参加を表明した津村清道。
そして、今日のこと。
それに父親は頷いた。
「ああ、西日本が一堂に会しシステムと特別な家系の未来を話し合う」
これまでなかったことだ
「時代が大きく変わろうとしていると感じた」
元に允華
「お前達と友が時代を動かし始めたようだな」
私たちを含む彼らを説得して未来の扉を開け
元は夕弦と剛士を見て笑みを交し、允華も夕矢を見て笑みを交した。
システムの設計図。
そして、東京のシステムの場所。
入口の写真は後二枚。
準備は整い始めているのだ。
問題は特別な家系の人間の心である。
允華と元と夕弦と剛士と夕矢の5人は白露家を後に東京へと戻った。
夕弦は元に
「西日本会議が終わったら次は日本会議だな」
今まで回ってきた区画の人々も交えて
と告げた。
元はそれに大きく頷いた。
「東雲と末枯野と夕矢君たちが切り開いてくれた絆だ」
合流させて大きな流れを作らないとな
夕矢は允華に
「俺、専門学校へ行きながら休みの日を利用して西日本のシステムの場所を示しているものを見て回ろうと思っているんだけど」
いいかな?
と告げた。
允華は笑顔で
「俺には見れないから」
夕矢君だけが見れるから
「お願いする」
春彦君に連絡して口添えしてもらうと良いと思う
と答えた。
夕矢は大きく頷いた。
空で輝く太陽はゆっくりと南天に向かって上り、時の移ろいを教えていた。
そして、允華は夕矢達と別れて元と共に自宅に帰ると来る10月10日の西日本会議に向けて一つのたたき台となる案を作り始めたのである。
大義名分や廃藩置県にこだわるのではなく。
特別な家系の人々がその区画に住む人々がより良い方向へと向かうことを目指して。
数日後、10月8日の日に西日本会議の場で発表する一つの案を兄の元と津村隆と夏月直彦と東雲夕弦と末枯野剛士が集まった場で提案したのである。
允華は白露家の応接室で一枚の紙を彼らに配った。
「終局図ではなく一つの通過点の形として考えました」
日本を混乱させずに悪しき部分を修正していく形で
「先ず島津家と秋月家の縛りを解除する」
区画システムはその区画の特別な家系の当主全員の許諾によって管理と運用される形にします
「そして各特別な家系と地域を繋ぐ接点の役割を担う人々を地域の人々から選出してもらい地域の安定と発展を図っていく形です」
…あくまでたたき台なので修正や変更が入るのが前提です…
直彦がそれに
「ちょうど専制と共和の間という感じだな」
と呟いた。
夕弦も頷いて
「今のシステムが始まる以前に住んでいる人々が紙に名前を書いて選んでいたというらしいが」
この案が用いられたらその選出方法も考えることになるな
「紙は古いと思うが」
と告げた。
直彦は「選挙、とか云う奴だな」と告げた。
それに剛士と元は同時に
「「ああ…そういうことをしていた時期があったと歴史で習ったな」」
と呟いた。
允華は頷いて
「ただそれだけにしたことによって口約束で実行しなかったり人気取りで財政を傾かせたり、特権の権利だけを利用して義務を果たさず最終的には国民に重要事項を告げずに自分達だけ逃げ出したことで廃止になったんだよね」
と告げた。
剛士は頷いて
「そうだったな」
それによって混乱した日本を収めたのが今の特別な家系の先祖だったな
と告げた。
允華は笑むと
「だからその中間的な形を考えてみました」
と告げた。
「当主も全権と全資産を手にするのではなく島津家のような形を推進して行こうかと思ってる」
システム上の当主は春彦君だけど
「運営上の当主は春馬さんだからね」
でもそれは特殊な事例で
「これも結局はシステム上の当主である春彦君の胸先三寸で決まるようになっているからその辺りだね」
これの為に長男以外の子供達が粛清されたりしてきた歴史がある。
そこがそもそも大きな問題だったのだ。
直彦は腕を組むと
「そこが特別な家系にとっては最大のネックだな」
と呟いた。
「抗争の原因だからな」
隆も元もそれに関しては頷くしかなかった。
『異家』と言われ続けてきた允華に関しては身をもって体験してきた事なのだ。
その時、直彦の携帯が震えた。
直彦は携帯を見ると
「…」
と目を細めた。
元はそれに
「春彦君なら出ていいぞ、夏月」
と告げた。
直彦はそれに
「悪いな」
というと応答ボタンを押した。
それは直彦の実の母親であり、童夢で松野宮伽羅に未来を予言させてきた磐井栞が目覚めたという知らせであった。
しかし。
直彦は静かに笑むと
「そうか」
と答え
「父に会って全てを受け継いだと伝えてくれ」
それから
「父と貴方の息子に生まれて良かったと…ずっと見守ってくれていてありがとうと」
と告げた。
允華は「え!?」と驚いた。
別れの挨拶のようである。
何かあったのだろうか?と心配になったのである。
直彦は応答を切るとそこにいる全員に
「磐井栞が目覚めたという春彦からの連絡だった」
と静かに告げた。
允華はじっと直彦を見つめた。
目覚めただけなのだろうか?
直彦は允華の視線に気付くと
「…俺はもう恐らく母と会うことはないと思う」
と告げた。
それに全員が目を見開いた。
直彦は笑むと
「何となくな、分るんだ」
と言い
「あの人は27年前から…恐らくこの会議の為に生きてきたんだろうと思う」
それと彼女をずっと守ってきた人たちの為に
と告げた。
「だから、俺とはもう会うことはない」
隆は直彦を見ると
「九州へ行かなくても…本当にいいのか?」
チャーター便を飛ばすことくらいできるぞ
と呼びかけた。
直彦は笑むと
「良いんだ」
父とも最後の挨拶をした
「母とも…出会うことが出来た」
それで良いんだ
と告げた。
「今は両親が望んで導いてくれた明後日の会議を成功させることで応えていくだけだ」
全員が小さく頷いた。
允華はそれを見つめ『運命』という言葉を感じずにはいられなかったのである。
もしも、彼が『朧清美』という女性と出会っていなければ。
彼女が特別な家系の亀裂の中で死ななければ。
弟の夏月春彦が特別な家系でなければ。
彼と出会わなければ。
様々なIFの中で彼は彼の両親が導く道へと進んでいたのだ。
允華は兄の元を見て
「俺も、兄さんも…きっとそういう運命に導かれたのかもしれない」
いや
「先生も俺も兄さんも春彦君もそう言う運命を知らずに選び取ってきたのかもしれない」
きっと用意された運命の選択の中でこの運命を自らの意志で選んできたんだ
「だからこそ運命を俺は踏破していく」
と心で誓わずにはいられなかった。
允華の案を纏め、翌々日の10月10日に西日本会議が開催された。
その時には東京の津村家の当主の清道と白露家の当主である陽一と神楽家の当主代理として海埜七海が出席した。
允華は東京から出席した彼らと兄の元と東雲夕弦や末枯野剛士、津村隆に夏月直彦の視線を受けて、自分が考えた特別な家系の新しい形の叩き台を発表した。
それを聞いた誰もが考える余地があると案を受け入れたのである。
これから新しい時代の新しい形を作る為に話し合いが続いていくのだ。
次の会議の日付けを決めて会議は終了した。
同じ日の夜に磐井栞がこの世を去った。
その事を允華は翌日に兄の元から聞いた。
「今、津村から連絡があってな」
今日はアルバイトは休みということで頼むということだ
「俺もこれから一緒に行くから月のことを頼む」
允華は大きく頷いた。
「先生をお願いするね、兄さん」
元は頷いて家を出た。
允華はそれを見送り食事を終えた月を見ると
「今日は俺と一緒な」
と微笑みかけた。
月は小さく頷いた。
允華は窓の眩い陽光を見ると彼女の死によって一つの大きな時代が終わったのだと心のどこかで感じた。
兄と夏月直彦と東雲夕弦と末枯野剛士が愛した一人の女性の死によって新しい時の潮流が始まり、一人の女性の死によって淀み止まっていた過去の時の流れの終わりを告げたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




