遠き親友からの挑戦状
夏月春彦が9月初めに九州で特別な家系の当主会議を開き、そこで出た結論は来年の年度末を目安に特別な家系の在り方やシステムについての一つの結論を出すということであった。
ただ、特別な家系と距離のあった資産家から『九州に混乱はないので特別な家系の中で納まるような形の変化が望ましい』という意見があったのだ。
允華は特別な家系の力をシステムごと消滅させていく方向で考えていただけに、その意見は意外であった。
システムが残っていても良いということなのだ。
混乱が無くて良いという風にも取れる。
しかし、允華が港川絢華とデートをした数日後に大きな知らせが夏月春彦から齎されたのである。
9月も下旬にさしかかろうとした頃である。
10月に西日本会議が行われるということと山陰を除く中部以西の特別な家系の一覧であった。
允華はその事を兄の元から聞き
「俺も参加していいかな?」
と告げた。
「生の声を聞きたい」
元はそれに頷くと
「わかった」
俺も津村も夏月も出席することにしている
と告げた。
コンティニューロール
何時ものように夏月家へ允華と晟が訪れると隆と直彦が部屋の中で顔を突き合わせて難しい表情を浮かべていた。
允華は直彦の部屋の戸を開けると
「おはようございます」
と言い
「あれ?どうかしたんですか?」
と問いかけた。
隆はため息交じりに振り返り
「あー、設計図書類が見つからなくてな」
と告げた。
允華は驚いて
「設計図と言うのはシステムの?」
と聞いた。
隆は頷いた。
「親父に聞いたんだが…伝わっていないらしい」
残っている本も見たんだが
直彦はそれに
「春彦もそう言う可能性は考えていたからソースを見て改修することも視野に入れている」
と告げた。
隆はふぅと息を吐き出し
「だが設計書類があるのとないのとでは作業は雲泥の差だからなぁ」
とぼやいた。
允華の隣に立っていた晟は
「けど、俺も春彦君と同じでその事も視野に入れているので」
万一の時の覚悟はできています
と答えた。
允華は不意に
「白露は咲良家とは繋がりが無いので」
設計図があるとは考えて難いですが
「もう一つの神楽家も咲良家と関係があったと思いますがそちらは?」
と聞いた。
隆はふぅと息を吐き出すと
「神楽か」
伝手は春彦君の雇い主の海埜七海だが
「神楽の本家は白露や津村と一線を画しているからなぁ」
とぼやいた。
允華は「ですね」と言い
「父からも神楽の話は聞いたことないですね」
と告げた。
「津村は時折聞きましたけど」
4人がう~んと唸った時に玄関の扉が開いた。
「おはようございます!」
また来たようです
茂由加奈子と桃源出版の辻村歳三が姿を見せた。
4人は同時に顔を向けた。
歳三は驚いて
「何かありましたか?」
夏月先生?
と聞いた。
直彦は首を振り
「いや、こちらの話で…」
と答え
「それより例の挑戦状かな」
と呟いた。
歳三は頷き允華に手紙を差し出した。
「これが出版社の編集部あてに」
この筆跡は多分
允華は受け取り封を切ると中から便箋を取り出し
「ですね」
と頷き、内容を読んで目を細めた。
「晟、これ」
それに直彦は彼らを見た。
晟は受け取り内容を読むと目を見開いた。
「まさか、芹沢じゃ」
隆が「芹沢?」と聞いた。
允華は頷くと
「はい、俺の高校の頃の友人で暗号とかを作るのが好きで…家庭の事情で学校をやめる時に宝物を隠した場所を暗号にしてクラスに出題して解いた者にそれをくれるという奴だったんですけど」
俺は気が乗らなくて参加しなくて喧嘩別れをしたんです
と懐かし気に呟いた。
直彦は笑むと
「だが、解いたんだな?」
と聞いた。
允華は驚いて
「え?分るんですか?」
と聞いた。
直彦は笑って
「当り前だ」
解いてなかったら
「そんな顔をしないで解きに行くだろ」
と答えた。
允華はバツが悪そうに笑みを浮かべ
「解きました、先日ですけど」
と言い
「家に置いているんですけど8角柱の6桁暗号解除式ボックスだったんです」
この手紙に書いているのは
「その暗号のヒントです」
と告げた。
「ずっと芹沢が俺に手紙を送ってくれていたんだ」
直彦も隆も静かに微笑んだ。
歳三は「それで、白露君は解くつもりなのか?」と聞いた。
允華は笑顔で
「もちろん」
と答えた。
晟も允華の肩を叩くと
「それでこそ、允華だ!」
頑張れ!
と告げた。
直彦は允華に
「じゃあ、解除式はここでやってもらおうか」
期待しているからな
と笑んだ。
允華は頷くと
「はい!」
と答え、リビングへと向かった。
加奈子はそれに
「連載の執筆も進んでいるし」
今日は題材集めの日とするわ
「メモとらないとね」
と允華と晟についてリビングへと向かった。
歳三は驚きながら見送り
「俺の出番はなさそうだな」
と言い、直彦を見ると
「では、夏月先生」
明日締め切りの原稿は忘れないでくださいね
と言うと立ち去った。
直彦はふぅと息を吐き出すと
「どちらにしても暗号は允華君に任せて…だな」
今日は少し早く帰って俺は誠意執筆しないといけないか
とぼやいた。
隆は笑って
「そうだな、茂由君も立派な編集に育っているし安心だろ」
と告げた。
允華はリビングの椅子に座り手紙をテーブルの上で広げた。
『推理作家に挑戦状』
何時ものように一行目に書かれていた。
『手に入れてくれたんだな、白露。
あの暗号を解けるのはあのクラスではお前しかいなかったからお前が持ってくれていると信じている』
『6桁の暗号のヒントを送る。
そのボックスの中に入っているものは俺や家族では手に入れれないもので白露家と言う家系に生まれたお前には手に入れることが出来るかもしれないものだ』
允華は目を見開いた。
「それってまさか特別な家系って意味なんだろうか」
『夜学を出たら俺は東京を離れる。
これが多分最後の暗号になると思うから解いてくれよ』
晟はそれを見ると
「芹沢、東京にいたんだ」
と呟いた。
允華は笑むと
「みたいだな」
と告げた。
「だから、全て東京の周辺だったんだ」
俺が住んでいるだけじゃなかったんだ
『「の」の字で作られた
03-1
10-2
22-3
01-4
16-5
14-6
俺は大切にしているぜ』
数字の列の周囲にはトランプのカードの『K』(キング)と『A』(エース)が取り囲むように描かれていた。
允華と晟は見て目を見開いた。
晟は腕を組むと
「のの字で作るってなんだ?」
それにトランプのエースとキング?
「ポーカーとか?」
と呟いた。
その時、喪服を着た直彦と隆が姿を見せた。
直彦は覗き込みながら
「どうだ?」
と聞いた。
允華は「いえまだ」と答えた。
晟は二人を見ると
「あ、の…何かあったんですか?」
と蒼褪めた。
喪服だからである。
直彦は微笑むと
「墓参りだ」
と短く答えた。
允華は直ぐに理解すると
「俺は昨日、兄と月の三人で」
と答えた。
隆は「そうか」と答えた。
直彦は紙を見るとふっと笑みを浮かべ
「なるほど」
と言い
「夕方の4時くらいには戻る」
その間頼む
と告げた。
允華は頷いて
「はい」
と答え
「あの、もしかしてこの暗号解けたんですか?」
と聞いた。
直彦は腕を組むと
「詳しくは調べないと分らないが…言いたいことはわかった」
と答えた。
晟は驚いて
「ええ!?」
と言い
「早ッ」
と告げた。
「俺が分かることは芹沢が東京に住んでいたんだってことぐらいなのに」
允華は笑んで
「俺もそれはわかった」
と答えた。
「書いてるし」
直彦は笑むと
「その通りだな」
それで良いんだと思うが
というと、驚く二人に背を向け
「じゃあ、昼は適当に」
茂由君頼む
と言い、隆と共に立ち去った。
加奈子は「はーい、行ってらっしゃい」と送り出し
「じゃあ、二人は頑張ってね」
とにっこり笑った。
晟は允華を見ると
「墓参りって」
と聞いた。
允華は視線を少し下げて
「俺の義姉さんで…太陽君のお母さん」
と告げた。
晟と加奈子は直ぐに理解した。
加奈子は晟を一瞥し允華を見ると
「先生の…唯一の人ね」
心に咲き続ける一輪の花ね
と告げた。
允華は笑むと
「うん」
と答えた。
そして、紙に視線を向けて
「これまで東京だったんだ」
きっと今回も東京関連だ
と呟いた。
「のの字にトランプのエースとキング」
それに二桁のバラバラの番号か
允華はふぅと息を吐き出した。
加奈子は肩を竦めると
「一番小さな文字が01で一番大きいのが22なんだもん」
23なら区なんだけどなぁ
と立ち上がって
「頑張れ!青年たち!」
と允華と晟の背中を叩いた。
瞬間に允華は「それだ!」と告げた。
晟は「何がそれだ!?」と聞き返した。
允華は携帯を弄って
「前に東京の区って起点から『の』の字を書くように区番号が決まっているって読んだことがあって」
たぶん区の番号だと思う
と告げた。
そして携帯に出た説明文を読み
「カードの『A』はそのまま『1』で『K』は『13』で考えて」
『K』『A』の順で書いているのでそのまま数字に直すと131になる
「東京の区番の頭三桁になる」
と告げた。
「だから一行目の13103-1で港区だからみなとくの一番目の文字『み』か『m』」
ただ13114-6を考えると中野区の6番目の文字を考えるとローマ字でしか成り立たないから『O』しかないので一行目も『M』
「そう考えて全ての文字を出すと『M』『E』『R』『Y』『M』『O』で並び替えると」
MEMORYで思い出になる
允華はそう告げた。
加奈子と晟は同時に
「「おお!」」
と声を上げた。
素晴らしいシンクロである。
加奈子はにっこり笑うと
「じゃあ、私と晟君でお留守番するから解除式の準備宜しく」
と告げた。
…。
…。
それって。
とジッと允華は彼女を見た。
晟は慌てて
「允華が取りに行ってる間に俺達は昼飯の準備しておく」
何食べたい?
と聞いた。
允華ははぁと息を吐き出し
「わかった」
と答え
「じゃあ、パエリアで」
と二っと笑って言うと
「留守番宜しく」
と自宅へと向かった。
加奈子は「よし!腕によりをかけて作らないとね」と笑った。
晟も腕を上げると
「お!」
と答えた。
允華は高砂駅から東都電鉄に乗り成城学園前へと向かった。
時間は11時。
家に帰ってマンションに戻ると1時ごろになるだろう。
允華は規則正しい列車の揺れに身体を任せながらゆっくりとパラパラと座っている人がいる車内で座席に腰を下ろした。
明るい日差しが降り注ぐ。
そこここで雑談を楽しむ人々の声が聞こえてくる。
允華は目を閉じて
「…芹沢は俺の小説を読んでくれていたんだな」
と呟いた。
「ずっと俺を気に掛けてくれていたんだ」
允華は成城学園前の駅に着くと列車を降りて家に帰ると驚く元に
「ちょっと忘れもの取りにきただけ」
と言い赤い袋に入った暗号解除式ボックスを手に家を出た。
そして、夏月家に戻ると食欲をそそる香りと共にリビングのテーブルに出されたパエリアを見て
「本当に、作ったんだ」
と呟いた。
加奈子はそれに
「当り前でしょ!」
と笑った。
晟も笑顔で
「食べようぜ」
と両手を合わせると
「いっただきます」
とスプーンを手にした。
允華は晟を見ると
「晟、俺…芹沢と会おうと思う」
と告げた。
晟は目を見開いた。
「は?」
允華は笑むと
「俺、気付いたんだ」
俺ってさ
「俺だけのことだけしかずっと考えていなかった気がする」
芹沢はずっと俺のことを忘れずに小説読んでくれてたのに
と告げた。
「芹沢が東京を離れても続けていける友達になりたいんだ」
晟は目を見開いたものの笑むと
「ああ、そうだな」
俺もあいつにもう一度会いたいと思う
と言い
「二人で探そうか」
と告げた。
允華は頷いた。
そして、封筒を手にすると
「手掛かりないわけじゃないんだ」
と封筒の消印を指差した。
「これで絞り込めるだろ?」
晟と加奈子はパエリアを食べながら目を見開いた。
…。
…。
思いつきもしなかったのだ。
允華は笑みを浮かべると
「茂由さん、明日午後から来ます」
午前中は晟と人探しします
と告げた。
加奈子は笑むと
「了解」
と言い
「先生には解除式の時に言えばいいわ」
と告げた。
允華と晟は「「はい」」と答えた。
夏月直彦と津村隆は言っていた通りに4時少し前に帰宅した。
允華は赤い袋をテーブルにおいて二人を出迎えると
「解除式をします」
と告げた。
直彦は笑みを浮かべ
「解けたんだな」
と告げた。
允華は頷き
「はい、先生はあれが東京23区の市区町村番号って気づいていたんですか?」
と聞いた。
直彦は頷いて
「ああ、東京は始め15区の時も35区の時ものの字を書くように番号をつけていたって読んだことがあるからな」
それに131は東京都23区の上三桁だからな
と告げた。
允華も晟も「「ほぼ答え出てたんだ」」と同時に突っ込んだ。
直彦も隆もリビングの椅子に座った。
隆は手を叩くと
「じゃあ、解除式開催!」
と告げた。
允華は暗号解除式ボックスを赤い袋から取り出すと
「答えはMEMORYで思い出です」
と6つのルーレットを回した。
そして、ダイヤのはめ込まれた蓋部分を回すとそっと引き抜いた。
中には銀のプレートの付いた鍵が入っていた。
プレートには東都銀行と『0000』の四桁の番号であった。
允華はそれを手に
「これは…」
と呟いた。
隆がそれを手にすると
「恐らく東都銀行の貸金庫の鍵と番号だ」
と告げた。
「どうする?」
そう言って允華を見た。
允華は頷くと
「何があるか見に行きます」
と答えた。
「芹沢の文面ではもしかしたら特別な家系に関係するモノかも知れないので」
それには隆も直彦も目を見開いた。
加奈子は笑顔で
「留守番は私がします」
行ってらっしゃい
と告げた。
晟は戸惑いながら
「お、れは」
と言いかけた。
が、直彦は
「来たければくればいい」
允華君と君の親友のものなんだからな
と告げた。
晟は笑顔で
「はい!」
と答えた。
隆の車で允華と晟と直彦は東都銀行へと向かった。
東都銀行は津村家が母体の銀行である。
隆は銀行に着くと支店長の出迎えを受けて
「貸金庫に案内してくれ」
鍵とプレートはある
と告げた。
支店長は「はい」と答えると
「こちらへ」
と銀行の地下へと案内しプレートを見ると目を見開いた。
「これは…特別な貸金庫です」
私もここに勤めて20年になりますが
「一度も開けたことがありません」
いえ、開設時から開けたことが無いと先代支店長からお聞きしました
隆と直彦は顔を見合わせた。
允華と晟も顔を見合わせた。
地下にある貸金庫室の中央を通り抜けてその最奥にある部屋の前に立った。
「こちらです」
この認証盤の鍵がそちらになります
隆は驚いて
「え?金庫自体のかぎではないのか?」
と聞いた。
支店長は頷いた。
「はい」
この金庫についてはそのカギで認証盤の蓋を開けて
「金庫の解除はこの認証盤で行います」
4人は顔を見合わせた。
直彦は允華を見ると
「とりあえず開けて良いな」
と聞いた。
允華は頷いた。
「はい」
隆は「わかった」と言いカギを支店長に渡した。
支店長は認証盤の蓋を開けた。
その認証盤には隆は見覚えがあった。
「これは」
允華も直彦も晟も何か分らなかったのである。
隆は三人を見ると
「端末だ」
システムの
と告げた。
そして隆は認証盤の上に手を乗せた。
すると声が響いた。
『津村隆と認証いたしますが解除には当主の認証が必要です』
隆は手を離すと
「当主は父だからな」
と答えた。
允華も手を乗せた。
が、答えは見えていた。
『白露允華と認証いたしますが解除できる家系は津村と神楽と秋月と島津と決まっております』
…。
…。
允華は手を離して
「かなり厳重に管理されてますね」
と呟いた。
そして
「でも、先生なら解除できますよ」
直彦はふぅと息を吐き出した。
「わかった」
そう言って手を乗せた。
『秋月家当主秋月直彦と認証いたします。解除いたしますか?』
直彦は三人を見て
「いいな」
と告げた。
それに三人は頷いた。
直彦はシステムに
「解除する」
と命令した。
扉の向こうで機械的な音が響くと扉が開いた。
その向こうの部屋には幾つもの棚があり何かが入っているようであった。
允華は中に入ると引き出しの一つを見て
「先生」
と呼びかけた。
直彦はそれに
「ああ、開けてみてくれ」
と告げた。
允華は引き出しを引いて中身を取り出した。
「これは…」
そう言って晟を見た。
「晟、これわかる?」
直彦と隆も覗き込んだ。
晟は製本されたそれに目を通すと
「…これ何かのシステムのユースケース図だ」
と告げた。
「多分、ほんの一部に過ぎないと思う」
直彦は金庫の中を見渡して
「恐らくここの引き出し全てがシステムの設計書だな」
と告げた。
隆は腕を組むと
「だが、何故」
その芹沢って彼が持っていたんだ?
「この鍵を」
と呟いた。
允華はそれに
「明日の午前中に晟と彼を探し出して訪ねようと思ってます」
その時に聞きます
と告げた。
「封筒に消印があるのでそれを手掛かりにと思ってます」
直彦は允華を見ると
「送られてきた封筒の消印は同じだったのか?」
と聞いた。
允華は頷いた。
「はい」
直彦は笑むと
「頑張れ」
二人とも
と告げた。
允華と晟は同時に
「はい!」
と答えた。
西日本会議が迫る9月18日の夕刻…特別な家系のシステムの設計書がようやく手に入ったのである。
これを元にシステムの改修が出来るようになったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




