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コンティニュー・ロール  作者: 如月いさみ


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120/126

親友の道

卒論用の小説を書き終えて漸く一息ついた9月初旬。

泉谷晟も卒業制作のプログラムを作成し終えて本格的に就職戦線へと突入を始めることになった。


大手のIT企業の募集に応募し面接に向かう日も増えて時々だがアルバイトを休む日も多くなった。


允華はいつものように夏月家へ出向くと桃源出版での連載の企画書を茂由加奈子と作成し

「この修正で通ってくれると良いけど」

と椅子に身体を預けた。


加奈子は最終チェックを行い

「これならいけると思うわ」

でも

「私も連載の企画書を作るの初めてなのよね」

と言い、印刷すると直彦の部屋で田村出版の子供文芸に載せるための児童文学の小説をチェックしている津村隆の元へと持って行った。


やはり、編集者として津村隆は茂由加奈子にとっては大先輩だったのである。

その時、一本の電話が入った。


允華は電話に出ると

「あれ?春彦君?」

と受話器の向こうがにいる人物、夏月春彦の名前を呼んだ。


春彦は明るい声で

「お久しぶりです、允華さん」

あの直兄は元気ですか?

と聞いた。

「携帯に掛けても繋がらなくて」


允華は慌てて

「うん、いま児童文学小説の佳境に入ってると思う」

待ってて

と受話器を置いて直彦のところへ向かった。


ちょうどその時、扉が開いた。

「おは…ん?允華」

どうしたんだ?


面接を終えた泉谷晟がアルバイトに来たのである。

久しぶりのアルバイトであった。


允華は「晟、久しぶり。面接どうだった?」と聞き、直彦の部屋の戸を開けると

「先生、春彦君から電話です」

携帯が通じないって心配してますけど

と告げた。


それに直彦が携帯を手にすると

「…充電忘れてたな」

と言い、立ち上がると

「今行く」

と足を進め、晟を見ると

「晟君、面接終わったのか」

お疲れさん

とリビングに入ると受話器を手にした。


「春彦、すまない」

携帯の充電が切れていただけだ


そう言い

「それで、二足の草鞋になるが…大丈夫か?」

と告げた。


允華は晟と共にリビングに入ると目を向けた。


隆は二人を見ると

「あー、暫く直彦の部屋でお茶でもするか?」

茂由君も

と告げた。


允華は隆を見ると

「何か、あったんですか?」

春彦君

と聞いた。


晟も心配そうに

「そうそう、春彦君は俺達にとっても弟みたいなものだからな」

と允華と顔を見合わせて頷き合った。


直彦は受話器を離すと

「隆、もういい…それに聞かないといけないこともあるからな」

と言うと

「すまない、春彦」

と告げ

「本とノートか…」

と聞いた。

「ああ、なるほどな」

ノートは送る

「本は確認してから送れそうなものだけ送る」


そう言うと受話器を置いて振り向いた。


直彦は晟を見ると

「そう言えば、晟君」

就職の方はどうだ?

と聞いた。


晟は不思議そうに

「あ、ええと」

今日のところは無理かなぁとおもいます

「他に3か所から内定をもらってはいるんですが…ちょっと迷ってます」

と告げた。


直彦は笑むと「そうか」と言い

「その…本はこれからも使うかな?」

と聞いた。


晟は驚いて

「え!?」

と声を出した。

「いや、春彦君が使うなら俺のことは気にしないでください」

春彦君の本だし


允華は慌てて

「でも、春彦君は探偵になるんじゃ…何故、今更コンピューター関係のノートや本を?」

と突っ込んだ。


隆はふぅを息を吐き出し

「…実は春彦君にコンピュータシステムの改修を頼もうかと思ってな」

二足の草鞋で悪いとは思ったが

「俺たちの中でそっち方面に役立ちそうな人間が春彦君くらいだからな」

と苦く笑った。


直彦も隆も…東雲夕弦や末枯野剛士もまして允華の兄である白露元もIT関係は出来る方ではなかった。

もちろん、允華自身も、である。


言うなれば一般的なエンドユーザーとしてはそれなりに使えるがSEやプログラマーとしてはダメだということである。


晟は目を見開くと

「あの、俺もそっちの人間ですけど」

と告げた。


直彦はきっちり

「晟君は晟君の人生がある」

君が進みたい道を選んで欲しい

「春彦も探偵業は続けさせるようにフォローしていくつもりだから心配しないでくれ」

と微笑んだ。


允華は晟と直彦と隆をそれぞれ見た。

だから、先程津村隆は自分たちに声をかけて離れさせようとしたのだ。


晟に気を遣わせないためである。


加奈子は晟を見ると

「そうだよ、先生たちも気を使ってくれてるんだし」

晟君がしたい仕事が出来る会社ならそっちを優先させるべきだと私は思うわ

と告げた。


晟は腕を組むと少し考え

「先生は俺が春彦君を助けてそのシステム改修に加わることは…嫌か良いかで言うとどちらですか?」

と聞いた。

「正直に言ってください」


直彦はふぅと息を吐き出すと

「だから、君の内定を気にしていたんだが」

と言い

「正直に言うと俺は君を信用している」

だから春彦の上に立ってメインでしてくれると助かる

「かなり難しい作業だからな」

と告げた。

「それに、この仕事に信用できない人間を加えることはできない」


晟は笑みを浮かべると

「俺を雇って下さい」

と告げた。

「後悔はしません」


加奈子はフフッと笑うと

「言うと思ったわ」

と言い

「もし、良ければ先生、仕事内容を話してあげてください」

それで嫌なら晟君ちゃんと就職すると思います

「晟君はその辺りも信用できますよ」

と告げた。

「チャンス、あげてください」


晟は頭を下げると

「お願いします!」

と告げた。


允華も頭を下げると

「俺からも!!」

と告げた。


直彦と隆は顔を見合わせると頷いた。

隆は晟に

「晟君、話を聞いて自分には向いてないと思えば正直に断って欲しい」

いやいやでは続かない仕事だからな

「だが、もし受けてくれるならそれ相応の給料は払う」

と告げた。

「俺が雇い主だ」


晟は頷いた。

「わかりました」


翌日、允華は晟から笑顔で

「俺、隆さんの下で働くことにした」

すっごく面白そうな内容だった

「春彦君も詳しいから一緒にやっていけると思う」

とワクワクした表情で報告を受けた。

「だから、就職を辞めて…大学院生になることにした」

知識をもっと高めたい

「それも俺としては楽しみなんだ」


スッキリとした態度であった。


允華は遠慮してとか気を使ってとかではなく、やりたい事をやれると興味津々な雰囲気の晟に笑みを浮かべると

「うん、頑張れ」

と告げた。


コンティニューロール


その話の発端となったのは春彦が開催した九州特別家系会合であった。

允華はその話を兄の元から聞く事になった。


夕食後のお茶の時であった。


月は自分の部屋で勉強をしに行き、リビングダイニングで二人だけとなった。

元は允華を見ると

「紅茶を入れるが飲むか?」

と聞いた。


話があるということだろう。

大体は想像がついた。


允華は頷いて

「うん、ありがとう。兄さん」

と答えた。


元は笑いながら

「そう言えば、お前に紅茶を入れてもらった時は薄くて…美味しくなかったな」

と告げた。


允華はバツが悪そうに笑い

「俺、夏月先生のところでも食事の準備チームから外されているんだ」

先生もだけど

と告げた。


元は噴き出して

「夏月か、わかる」

学生の頃の調理実習の時に大変なことになったな

と笑い、丁寧にティーソーサーで紅茶を入れると允華と自分の前に置いた。


「春彦君から九州会議の連絡があった事は話したと思うが」


允華は頷いた。

「うん、システムを改修するって話だよね」

晟のことで聞いた


元は頷いて

「そうだ、津村から連絡を受けてお前にもちゃんと話しておいた方が良いと思ってな」

泉谷君のこともあってお前には言い難かったが

「もう良いだろう」

と言い

「九州会議では特別な家系と関連のない資産家も交えての会議だった」

と告げた。


允華は「特別な家系配下でない資産家も参加したんだ」と呟いた。


元は頷いて

「それで特別な家系の配下でない資産家からは商工会議所で問題が生じていないかを吸い上げる一方で表面を変えずに根底を変更していく方法はどうかという意見が出たようだ」

と告げた。


允華は驚きながら

「それって特別な家系とはあまり関係のない資産家だよね?」

そこからそんな意見が出たの?

と呟いた。

「俺は特別な家系の配下だと恩恵があるから存続をって言うのはあるかもしれないと思ったけど…九州って春彦君が言ってた通りに他の区域とは違う部分が多いみたいだね」


元は頷いた。

「恐らく九州は特別な家系によって安定しているからこそ経済や色々なことが崩れるのを恐れているのだと俺は思う」

確かに特別な家系の内部では恐ろしいことが起きている

「だが、彼らからすれば今の状況を保ちつつ内部の混乱は内部の影響内で納めて欲しいと思っているんだろう」


允華は「なるほど」と言い

「それでどうしてシステム改修に?」

と聞いた。


元はそれに

「九州の特別な家系でも今のシステムや家系の在り方は問題だと思っているらしい」

それで来年の新年度…つまり4月を目処に方向性を話し合って決めると言っている

「その話し合いでシステムの形を変えたいとなった時には改修が必要だということだ」

お前の廃藩置県をするにもシステムを一気に崩壊させては全てのバックボーンが無くなると社会が混乱する

「徐々に移行するためにもシステムは改修する必要がある…秋月家と島津家の在り方をかえるにも、問題となっている当主とそれ以外の家族の在り方を変えるにも」

と告げた。


允華は「そうだよね」と言い

「そう言うことだったんだ」

と呟いた。


元は允華を見つめ

「関東には津村、そして、白露、もう一つ神楽があった」

神楽の本家自体は途切れてしまったんだが

「その神楽の流れを組んでいるのが海埜七海だ」

母方が神楽の出で資産家の海埜七生と結婚し生まれたのが海埜七海だ

「春彦君の雇い主」

と告げた。


允華は目を見開いた。

「あの人も」


元は頷いて

「津村は咲良の本家から流れを継いでいるので…システムの設計書など書類は津村が恐らく保管していると思う」

システムを最初につくったのは咲良家康と言う女性だったからな

「それは津村が探してくれている」

ただ色々あったから見つかるかどうかわからないそうだ

と難しい表情を浮かべた。

「咲良家は元々神楽と結婚で繋がったがそれが分断して一人は津村家の当主と結婚して合流し、神楽を継いだ方は男児が生まれなくて分断を繰り返して少し前に断絶した」

まあそういう色々なことがあったのでそのまま引き継がれていない可能性もある


允華は驚いて

「そんなことがあったんだ」

咲良から津村の流れは白露と同じで本家は分岐していないのかと思ってた

と告げた。


元は苦く笑って

「白露はある意味…義母のような人物が要所要所で存在して本家の分岐を断ち切ってきた」

と告げた。

「俺は今でも義母を憎み恐ろしい人だと思うが、ある意味では白露家の本家を守り続けた存在の一人かも知れない」


允華は視線を伏せると次男である自分を『異家』と選別し、元の子供でない太陽を生んだ義姉を死へ追いやった義母の役割の重さを感じずにはいられなかった。


正しいのか。

間違っているのか。


そう問われると允華は『間違っている』と思っている。

だが、そうまでする存在がいなかったら本家は他の家系のように何処かで分岐をしたり、途切れたりしていた可能性があったのだ。


元はふぅと息を吐き出し

「津村家で引き継がれていれば問題なく見つかるだろうが、万が一、神楽の方に引き継がれていたら…分岐分岐で…探すのは困難になる」

そうなると泉谷君と春彦君でシステムのデータを取り出して再構築からになる

と告げた。


允華は顔をしかめながら

「かなり大変な作業になるね」

と告げた。


元は頷いた。

「そうだな」

だが信用できない人間を加えることはできない

「二人に頑張ってもらうしかないな」


允華は頷いて

「そうだね、俺も協力できるところは協力していくようにする」

と言い

「それから、九州会議のこれからの話し合いでどうなるか分からないけど…俺はその更に先に特別な家系とこの日本の形を考えていくようにする」

廃藩置県は悪くないと自分では思っているけど

「その100年先、200年先の形が見えていなかったと思う」

それも考えたいと思う

と告げた。

「きっと、それは俺だけの中では考えつかないものだから、春彦君や兄さんチームや色々な話を聞きながら来年の新年度を目処に形を作っていきたい」

良いかな?


元は大きく頷いて

「そうしてくれ」

俺達は現状を把握することで手一杯な部分がある

「だから俺はお前のその100年先200年先の形を考える力に期待している」

それは夏月の弟の春彦君にも言える

「お前と背を向ける考え方を持っている部分もあるがそれはそれで大切な部分だと思っている」

お前と春彦君なら背を向け合った部分を上手くつなぎ合わせてより良いものを築いてくれると思っている

と告げた。


允華は頷いて

「うん、俺の足りない部分を春彦君は持っている」

だから俺はある意味彼を認めている

と言い

「話してくれて、ありがとう、兄さん」

と笑顔を見せた。


元は笑顔で

「俺も、お前とこうやって話をできる日が来たのが嬉しいと思っている」

と目を細めた。


自分たちも色々あった。

互いに背を向けていた時期もあったのだ。


だが、互いが互いを思いやる気持ちさえあればこうやって向かい合える日が来るのだ。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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