#1
午後十一時五十八分
深夜のコンビニに1人。いや休憩室で寝ているであろう店員も合わせれば2人か。こんな時間にアイス買ってこいだなんて酷なことをする…姉貴にはあとで料金を上乗せで精算してやるとするか。レジの横に置いてあったベルを鳴らすと、慌てて飛び出てくる30歳前後であろう男に代金と商品を渡し、帰路に着く。レシートはいらない
「ただいま」
時計はもう十二時を回っていた。リビングには明かりがついていない。アイスを買ってこさせた諸悪の根源はどうやら寝てしまったらしい。実際おれもねむいし、代金の請求は明日に……しよ…う
目が覚めた。穏やかな風が頬をくすぐる。体を起こすと辺り一面が草原であり、樹齢何百年かもわからない大樹が陽の光を優しく包んでくれている。
「ここは……どこだ」
昨日おれは……そうだ、ソファで寝てそれで…
「あ、あの」―
振り返ると弱気そうな少女が困惑した様子でこちらを伺っている。
「えっと…おれになにか用かな」
「え、えっと……その、お兄さんが空から落ちてきたから大丈夫かな、って…」
「──そうなのか。特に体が痛むとか無いから大丈夫だ」
「そうですか!良かったです」
「それはそうと……ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか」
「?はい、大丈夫です」
娘はシーカと名乗った。シーカいわく、ここはグィネヴィア王国の辺境のアランカ村という場所らしい。言葉は普通に通じるが、シーカの顔立ちは欧州のそれだ。
「そういや、どうしてシーカはここに来たんだ」
「ここ、すごーくいい眺めですよね。ここでお昼をいただくのが毎日の楽しみなんです!」
確かにいい眺めだ。ここから村も見えて、その先には城壁がそびえ立っている。おそらく王都だろう。
「そうだな」
「あーーーーむ」
横を見ると、シーカが小さな口をめいっぱい開けてサンドイッチを食べているところだった。
「むもういいまうあ」
お腹も空いてきたしありがたくいただこう。
「あむ……うん、うまいな!」
毎日コンビニ飯食ってたおれにとって手作りの料理は久々だった。
「それ、わたしが作ったんですよ!」
「へえ、最近の子供はこんなうまい料理作れるのか」
「わたしはもう14歳ですよ!立派な成人です!」
どうやらこの国では成人はだいぶ早いらしい。ちょっと不機嫌なシーカをなだめていると、もうすっかり日が落ちかけていた。
「あ、もうこんな時間!はやくおうちに帰らないと……」
さて、ここで1つ問題が発生した。おれには泊まる場所も金もない。
「あの、どこか具合が悪いんですか?」
「ああ、いやどこか泊まれる場所ないかな〜って。お金もないしどうしたものかと……」
「……!」
数秒の思考の後、シーカは何かを思いつき、
「レイさん!ついてきてください!」
おれの手を取り駆け出して行った