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虹色彼女  作者: もりまる
6/6

名前も知らないのに



ボーと不抜けた顔で家に帰る。



なんだか色々起こりすぎた。そして冷静な判断が出来なかった。




あんなに脈無しの子に告白だなんて僕らしくもない。僕はもっと慎重派だったはず。






すると、廊下が何やら騒がしい。



バン!と大きな音と共に僕の部屋の扉が乱暴に開かれる。



その騒ぎの主は妹の咲であった。



咲きは髪を乱し、息を切らしている。



いつもは目が合うといつもはシカトぶっこいてくる生意気な妹が、なんと自ら僕に寄ってきた。




天変地異が起こるのではないだろうか。



ただ、血相を変えた咲を見て只事ではないと感じた。




「ど、どしたの」





「ねぇ!ラッキーみなかった!?」




妹の言うラッキーとは、妹が大事に飼っているハムスターである。




背中に小さな星マークに見えなくもない模様があるので、そう名付けられた。





「知らないけど、ラッキーがどうかしたのか?」





「……」





「…いなくなったのか?」





「……う゛ん」





妹の声は掠れていて、息も荒く、目元は赤く腫れていた。




必死に探していたのだろう。






「いつからいないの?」




「…今日。学校から帰ってきたらいなかった」




「ゲージにはいれてなかったの?」





「入れてたに決まってるでしょ!でも最近自分で抜け出せるようになってて……」





「それじゃ尚更鍵とか閉めなきゃだろ…。」





「だって…!いつもはゲージから出ても私の部屋のどこかにはいたし……!」






久々に会話が成立してる…。


まぁ妹からしたら、今僕と喋ってる事は不服だろうが、四の五の言ってる余裕がないのだろう。



藁にもすがる気持ちなのだろう




まぁ当たり前だが、最近咲には一方的に避けられていて、会話らしい会話をすることはあまりなかった。




今なら少し偉そうにしても、何も言ってこないだろう。




咲には申し訳ないが、この時だけ失恋したことを忘れられた。




「じゃあ咲の部屋から抜け出して、家の中または外に抜け出したんだな?」





「多分…。家中探してもいないし、窓が開いてたから、外に行っちゃったのかも…。」






「外か……。……あ。」





「何?なんか思い当たる節でもあるの?」





もしかして、さっき西野さんが助けようとしてた鼠はラッキーだったんじゃないか…?




きっとそうだ…。



暗かったから、背中の星までは確認出来なかったが、

鼠にしては小さく、尻尾がなかった。



毛並みも良さそうだったし、

ラッキーかもしれない。





というか、あれラッキーだろ…。





やっべぇ。




ラッキーは僕が西野さんを邪魔したせいで、ノラ猫に連れてかれてしまった。





言えない…。




僕のせいでラッキーがアンラッキーに出くわしてるとは咲には言えない。





すると咲は不審そうな目で、頭を抱える僕を覗き込む。




「ねぇ、聞いてるの?なんか思い当たる節が……」




「へっ!?な、ないないないない!見てないよ決して絶対!でも僕も探してみるから!今日は夜遅いし外には出ない方がいいよ!」




我ながら嘘が下手くそだ。






「……本当?じゃあよろしくね」





咲は何か言いたげだったが、自分の部屋に戻っていった。




はぁ。騒がしい奴だ。ただ、おかげで気は紛れた。




ラッキーは無事だろうか…。




なんか西野さんが、また探しに行ってくれたみたいだけど、明日聞くしかないな……。





でも二度と話しかけるなって言われたし、どっちにしろフラれた後じゃ話しかけにくいな。




僕も一緒に探しに行くべきだったかもな。





もう今日はいろんなことがあって疲れた。




風呂入って寝よう。







――――――







やらかした。






朝っぱらから僕は頭を抱える。





き、昨日僕は西野さんに…告白してしまったのか…!




急に恥ずかしさと後悔が心臓の動きを活性化させる。




恋慕の情を抑えきれなかった昨日の僕が憎い…。





今、僕は

[昨日の夜にポエムを書いて翌日の朝に冷静になって見ると、

破り捨てたくなるほど、臭く恥ずかしいことが書いてあった症候群]




まさにそれに陥っているのだ。




まぁ、つまり夜の暗闇、閉鎖的または危険な空間などは、

人間の心をハイにし、小さな幻惑効果がある。



修学旅行の夜のあれだ。




まぁ、ちょっと違うかもだが、

とにもかくにも昨日の出来事を非常に後悔している僕がいる。




学校に行くのも恥ずかしい。


今日は休んでしまいたいが、それは現実逃避に過ぎないか。




西野さんとクラスメイトである以上、

会わない日なんてないんだから。




それに、ラッキーの件についても聞かなければならない。




よし。また怒られるかもしれないが、ラッキーの事だけでも聞こう。




理由を話せば分かってくれるはずだ。




まぁあんなにハッキリ拒絶されたのだから、

もう未練はない。多分。



ラッキーのことを聞いたら、もう二度と話すことはないだろう。




辛いが、仕方ないのだ。




リビングではやはり落ち着かない表情で朝食をとる咲。



無論、僕もだ。





朝食の味なんて分かっていないのだろう。





無論、僕もだ。





妹が静かなのは何よりだが、さすがに兄としては、妹のこんな姿を見ていて気分は良くない。



ざまぁなんて決して思ってない。



ごめん。少し思ってた。兄失格。





―――――――



時刻は8:25分。




1現が始まるまで、まだ西野さんに話しかけるには充分な時間がある。





そして今、僕は教室の自席に座っている訳だが。





草太は他のクラスメイトと会話している。




西野さんは、いつものように、教室中央の席で坦々と本を読んでいる。




それにしても、昨日の西野さんと大違いだ。





ようは普段は猫を被ってるということだろうか。




そして、昨日は僕のことをクラスメイトと知らず素を出してしまった…。




そう推測してみる。





そして他言無用と言われ、二度と話しかけるなとすら言われた。




つまり口封じ。




つじつまが合ってしまうのが何とも言えない。




何故今こんな分かりきった考察をしているかというと、ただの時間稼ぎだったりする。



こんなことしたって何も解決しないのは分かっているが、緊張で体が動かない。



まぁラッキーのことを聞くだけだ。



ただそれだけだ。




それを終えれば何もかも終わりなんだから、

最後くらい勇気をだそう…。





決心し、僕は深く呼吸をすると、ゆっくりと席を立つ。







そして、僕はゆっくりと教室を出て、





――――トイレに向かった。






…なんとでも言うがいい。




僕はこういう人間なんだ。



別にトイレに用もなく、

ただ鏡に移るなんの特徴もない顔を眺める。




いつもより念入りにしてきた、ヘアスタイルを細かく直す。




何を今更僕は色気付いているのだろうか。





教室に戻ったら次こそは西野さんの席に直行だ。




別にトイレに用もなく、

ただ鏡に移るなんの特徴もない顔を眺める。




いつもより念入りにしてきた、ヘアスタイルを細かく直す。




何を僕は色気付いているのだろうか。





教室に戻ったら次こそは西野さんの席に直行だ。






そして、教室にもどり、




自分の席には向か――――わず、





西野さんの席の前に立つ。






よしできた。ほんと偉い。自分を褒めちぎりたい。






西野さんも僕に気づいたのか、目線を本から上方、つまり僕に合わせる。




ちょうど上目遣いになり、思わずキュンとしてしまう。やっぱりカワイイ。カワイイ再確認!




「に、西野さん…!昨日はあの……。はは…。」






あまりにも不自然な言葉だが、雑巾から絞り出したこの勇気をまず評価していただきたい





すると、一気に教室全体が静まり返り、一斉に全員の視線がこちらに向く。





そりゃそうだ。




クラスで最も消極的で人見知りな僕が男ならともかく女の子に話しかけている。



それも学園一の美少女西野さんに。




西野さん自身も僕以上に人付き合いがないというか、僕が見た限り皆無に等しいので、この2人が話し合う姿は珍しく思えるのだろう。





もちろん視線が集中して、僕は逃げ出したい衝動にかられたが、なんとか持ちこたえる。




すると、西野は本をパタンと閉じると、




「何?」




と、少し冷たい声が飛んできた。




そして、彼女は昨日と打って変わり、驚くほど無表情で、逆に怖かった。



やはり話しかけたことを怒っているのだろうか。




彼女の大きく丸い瞳は眠そうな目蓋のせいで半月状になっていて、ジトッとした表情。




眠いのか、僕を蔑んでる表情なのか定かではない。



彼女の黒い真珠のような瞳には僕はどのように映っているのか。





やはりドキドキが止まらない。心臓が破裂しそうで息苦しい。




彼女の前に立った瞬間、僕の心は赤外線受信して、バイブレーションする。っていうクソみたいなポエムを今思いつきました。





おかげで何の用件で来たのか忘れてしまった。




「いや…あの…その…き、昨日はごめん!」




と、とりあえず謝ろう。



困った時にはとりあえず謝るのが僕の癖でもある。








「ん。別に大丈夫」





彼女の表情や仕草は昨日とはなんか別人のようで、まぁよく考えれば周りにはクラスメイトもいる。



昨日が例外だっただけで、この冷静沈着な彼女は僕が今まで見てきた彼女そのものであって、

違和感を感じる必要はない。



僕が恋した彼女も今の彼女だ。



彼女は演技が上手いのだろうか。



まるで別人のような表情の使い分けだ。




いつもは今のように無表情で、物静かで、少し冷たい瞳をしている。




しかし、昨日とは表情というか、顔の筋肉の使い方が違うというか、昨日の目は常に睨むように見開いていて、怖かった。




まぁ、どちらも可愛いんだけど。




「…もういい?…えっ。ちょっと君来て。」




話を終わらせようとしたらしいが、なにかに気が付いたように、西野は席を立ちサッサと教室をでる




なんだろうか。




喜び半分、不安半分。





いや、嘘だ。喜びは9割を占める





ただ、どのような形であれ、西野さんと話し、行動するところを、

クラスメイトに見せつけてやるのが、爽快だった。



西野さんは振り向きもせず速歩きでどこかに向かう。




見失わずに追いかけるのがやっとで、彼女はこちらに合わせる素振りもなく、階段を上がる。




はい。デートですこれ。もはやデート。




一体どこに向かうと言うのか。






いつのまにか学校の最上階に来たようだが、

すると西野さんは現在立ち入り禁止となっている屋上の扉を開けた。





「きて。」





ようやく、彼女はこちらを振り向き、そしてまたすぐ扉の向こうに躊躇いもなく出ていった。





おいおい…、屋上は立ち入り禁止じゃ…。




まてよ…

立ち入り禁止ということは僕と西野さん以外誰もいない。





西野さんは…さ、誘っているのか?その可能性は天文学的な数字だが。



生唾を飲み、僕は屋上に一歩二歩と足を踏み入れる。





前を歩く彼女のスカートは風で軽く翻し、思わず目は釘付けになる。






み!見えない!





と、言うのはさておき。








彼女は立ち止まり、振り返ると、距離があるのに良い香りがした気がした。





だが、彼女の動きはトリッキーで、今度は急に僕に向かってズカズカ歩き出す。




思わず僕は後退りするが、後ろは壁。





彼女は僕を壁に押し付ける。



か、壁ドンだーーーー!


これが噂のーーー!





きゅ、急展開だ…。




まさか、



『昨日はごめんね…。ほ、本当は私もあなたが…!』



みたいな展開だろうか。





その刹那。






僕の後ろの壁が大きな悲鳴をあげる。





その壁には西野さんの白く細い腕が突き刺さっていた。





な、なにが起きたの…?





まぁ、とりあえず告白フラグは壁と共に壊れた。




最初からそんなルートはないかもだが





そう西野さんはコンクリートの壁をも貫く拳を僕の左頬をすれすれのところに繰り出したのだ。




彼女は腕を引き抜くと、コンクリートの欠片がボロボロと落ちる。



この校舎は発砲スチロールで出来ているのかな?




「貴様…。話しかけるなと言ったろう」




ドスの聞いた声で僕を間近で阿修羅の如く睨みつける




ひええ。恐可愛い……。



完全にいつ殺されてもおかしくない状況で、僕は機転を利かせる。



「ご、ごめんなさい…!あ、そうだ!ハムスター!…昨日、西野さんが探してたハムスターは見つかった?」




ベストなタイミングで本題を思いだし、その場しのぎにはなりそうだ。





『あ…? あぁ、あの後、探したら見つかったよ。猫に食べられる寸前だったが無事だ。だが、貴様には関係ないだろう。そんなことを聞くために貴様は私との約束を破ったのか?」




…少し胸が痛むが、正当な理由があったのだから仕方ない。





「ごめん…。でも、そのハムスターは多分だけど、僕の妹のハムスターなんだ。背中に小さい星マークがあるんだけど。」



…少し胸が痛むが、正当な理由があったのだから仕方ない。





「ごめん…。

でも、そのハムスターは多分、僕の妹のハムスターなんだ。

背中に小さい星マークがあるんだけど。」




「ん?そうだったのか。飼い主を探してたところだから助かる。

ちょうどハムスター持ってきたから、貴様の妹のハムスターか確めてくれ」





西野さんは、手品のように制服のポケットからハムスターを取り出した。




なんで、持ってきてんだよ…。と突っ込める立場ではないので、心中に収めハムスターを受けとり確かめる。




うん、確かに背中に星っぽいマークがある。



なんとか一安心だ。





「うん。確かにうちのラッキーだ。ありがとう!妹も喜ぶよ。」




とは言いつつも、今日一日中ハムスターを服のポケットに入れておかなければならないとなると、先が思いやられる。



「ラッキーというのか…。かわいい名だな。良かったな公二郎」



どさくさに紛れて名前付けてたんかい。



西野さんは僕の手のひらに乗るラッキーを覗き込む。その優しい言葉は全てラッキーへ向けられていた。



少し表情が緩んでいる。




その表情は初めてみる表情で、彼女の新たな一面を見れた気がする。




それが、僕に向けられたものでないとしても、僕は嬉しかった。









「じゃあ。私は教室に戻る。

もう一度言うが、今度こそ二度と話しかけるなよ。」



え、えぇーー。切り替え早っ!



引き留める間もなく、

彼女は何事も無かったかのように屋上を出ていってしまった




初夏なのに、風が肌寒く感じた




なんだこの祭りが終わった後の帰りの電車みたいな喪失感は。




夢から覚めたようで、




まるで数秒前まで、そこにいた彼女の存在自体が夢想の世界だったんじゃないかとすら思う。





気がついたら、頬が濡れていた。



今朝の天気予報は降水確率0%だったのに。







とにかく…今は教室に戻ろう







僕は屋上の出口をふと見ると、










教室に戻ったはずの西野さんが、

半分だけ顔を出し、こちちを覗いていた。




どういうこと?結局なにがしたいんだよ。




「うわ…。泣いてる…」




半分だけ冷めた表情を顔を出してる西野さんは僕を見てドン引きしていた





あぁ…見られた…





「い、いや…。目にゴミが入っただけだよ!あはは…。」






「……」





…なんだろう。この空気は。




なんで、西野さんは戻ってきたのだろう。





二度と話しかけるなって言ってきたばっかなのに…。




自ら、再び来たってことは、話しかけていいんだよね?




僕はゴシゴジと涙を拭き、軽く咳払いする。






「あ、あの…。なにか…?」





彼女は顔を半分出したまま、無表情でピクリとも動かない。



な不抜けた顔で家に帰る。



なんだか色々起こりすぎた。そして冷静な判断が出来なかった。




あんなに脈無しの子に告白だなんて僕らしくもない。僕はもっと慎重派だったはず。






すると、廊下が何やら騒がしい。



バン!と大きな音と共に僕の部屋の扉が乱暴に開かれる。



その騒ぎの主は妹の咲であった。



咲きは髪を乱し、息を切らしている。



いつもは目が合うといつもはシカトぶっこいてくる生意気な妹が、なんと自ら僕に寄ってきた。




天変地異が起こるのではないだろうか。



ただ、血相を変えた咲を見て只事ではないと感じた。




「ど、どしたの」





「ねぇ!ラッキーみなかった!?」




妹の言うラッキーとは、妹が大事に飼っているハムスターである。




背中に小さな星マークに見えなくもない模様があるので、そう名付けられた。





「知らないけど、ラッキーがどうかしたのか?」





「……」





「…いなくなったのか?」





「……う゛ん」





妹の声は掠れていて、息も荒く、目元は赤く腫れていた。




必死に探していたのだろう。






「いつからいないの?」




「…今日。学校から帰ってきたらいなかった」




「ゲージにはいれてなかったの?」





「入れてたに決まってるでしょ!でも最近自分で抜け出せるようになってて……」





「それじゃ尚更鍵とか閉めなきゃだろ…。」





「だって…!いつもはゲージから出ても私の部屋のどこかにはいたし……!」






久々に会話が成立してる…。


まぁ妹からしたら、今僕と喋ってる事は不服だろうが、四の五の言ってる余裕がないのだろう。



藁にもすがる気持ちなのだろう




まぁ当たり前だが、最近咲には一方的に避けられていて、会話らしい会話をすることはあまりなかった。




今なら少し偉そうにしても、何も言ってこないだろう。




咲には申し訳ないが、この時だけ失恋したことを忘れられた。




「じゃあ咲の部屋から抜け出して、家の中または外に抜け出したんだな?」





「多分…。家中探してもいないし、窓が開いてたから、外に行っちゃったのかも…。」






「外か……。……あ。」





「何?なんか思い当たる節でもあるの?」





もしかして、さっき西野さんが助けようとしてた鼠はラッキーだったんじゃないか…?




きっとそうだ…。



暗かったから、背中の星までは確認出来なかったが、

鼠にしては小さく、尻尾がなかった。



毛並みも良さそうだったし、

ラッキーかもしれない。





というか、あれラッキーだろ…。





やっべぇ。




ラッキーは僕が西野さんを邪魔したせいで、ノラ猫に連れてかれてしまった。





言えない…。




僕のせいでラッキーがアンラッキーに出くわしてるとは咲には言えない。





すると咲は不審そうな目で、頭を抱える僕を覗き込む。




「ねぇ、聞いてるの?なんか思い当たる節が……」




「へっ!?な、ないないないない!見てないよ決して絶対!でも僕も探してみるから!今日は夜遅いし外には出ない方がいいよ!」




我ながら嘘が下手くそだ。






「……本当?じゃあよろしくね」





咲は何か言いたげだったが、自分の部屋に戻っていった。




はぁ。騒がしい奴だ。ただ、おかげで気は紛れた。




ラッキーは無事だろうか…。




なんか西野さんが、また探しに行ってくれたみたいだけど、明日聞くしかないな……。





でも二度と話しかけるなって言われたし、どっちにしろフラれた後じゃ話しかけにくいな。




僕も一緒に探しに行くべきだったかもな。





もう今日はいろんなことがあって疲れた。




風呂入って寝よう。







――――――







やらかした。






朝っぱらから僕は頭を抱える。





き、昨日僕は西野さんに…告白してしまったのか…!




急に恥ずかしさと後悔が心臓の動きを活性化させる。




恋慕の情を抑えきれなかった昨日の僕が憎い…。





今、僕は

[昨日の夜にポエムを書いて翌日の朝に冷静になって見ると、

破り捨てたくなるほど、臭く恥ずかしいことが書いてあった症候群]




まさにそれに陥っているのだ。




まぁ、つまり夜の暗闇、閉鎖的または危険な空間などは、

人間の心をハイにし、小さな幻惑効果がある。



修学旅行の夜のあれだ。




まぁ、ちょっと違うかもだが、

とにもかくにも昨日の出来事を非常に後悔している僕がいる。




学校に行くのも恥ずかしい。


今日は休んでしまいたいが、それは現実逃避に過ぎないか。




西野さんとクラスメイトである以上、

会わない日なんてないんだから。




それに、ラッキーの件についても聞かなければならない。




よし。また怒られるかもしれないが、ラッキーの事だけでも聞こう。




理由を話せば分かってくれるはずだ。




まぁあんなにハッキリ拒絶されたのだから、

もう未練はない。多分。



ラッキーのことを聞いたら、もう二度と話すことはないだろう。




辛いが、仕方ないのだ。




リビングではやはり落ち着かない表情で朝食をとる咲。



無論、僕もだ。





朝食の味なんて分かっていないのだろう。





無論、僕もだ。





妹が静かなのは何よりだが、さすがに兄としては、妹のこんな姿を見ていて気分は良くない。



ざまぁなんて決して思ってない。



ごめん。少し思ってた。兄失格。





―――――――



時刻は8:25分。




1現が始まるまで、まだ西野さんに話しかけるには充分な時間がある。





そして今、僕は教室の自席に座っている訳だが。





草太は他のクラスメイトと会話している。




西野さんは、いつものように、教室中央の席で坦々と本を読んでいる。




それにしても、昨日の西野さんと大違いだ。





ようは普段は猫を被ってるということだろうか。




そして、昨日は僕のことをクラスメイトと知らず素を出してしまった…。




そう推測してみる。





そして他言無用と言われ、二度と話しかけるなとすら言われた。




つまり口封じ。




つじつまが合ってしまうのが何とも言えない。




何故今こんな分かりきった考察をしているかというと、ただの時間稼ぎだったりする。



こんなことしたって何も解決しないのは分かっているが、緊張で体が動かない。



まぁラッキーのことを聞くだけだ。



ただそれだけだ。




それを終えれば何もかも終わりなんだから、

最後くらい勇気をだそう…。





決心し、僕は深く呼吸をすると、ゆっくりと席を立つ。







そして、僕はゆっくりと教室を出て、





――――トイレに向かった。






…なんとでも言うがいい。




僕はこういう人間なんだ。



別にトイレに用もなく、

ただ鏡に移るなんの特徴もない顔を眺める。




いつもより念入りにしてきた、ヘアスタイルを細かく直す。




何を今更僕は色気付いているのだろうか。





教室に戻ったら次こそは西野さんの席に直行だ。




別にトイレに用もなく、

ただ鏡に移るなんの特徴もない顔を眺める。




いつもより念入りにしてきた、ヘアスタイルを細かく直す。




何を僕は色気付いているのだろうか。





教室に戻ったら次こそは西野さんの席に直行だ。






そして、教室にもどり、




自分の席には向か――――わず、





西野さんの席の前に立つ。






よしできた。ほんと偉い。自分を褒めちぎりたい。






西野さんも僕に気づいたのか、目線を本から上方、つまり僕に合わせる。




ちょうど上目遣いになり、思わずキュンとしてしまう。やっぱりカワイイ。カワイイ再確認!




「に、西野さん…!昨日はあの……。はは…。」






あまりにも不自然な言葉だが、雑巾から絞り出したこの勇気をまず評価していただきたい





すると、一気に教室全体が静まり返り、一斉に全員の視線がこちらに向く。





そりゃそうだ。




クラスで最も消極的で人見知りな僕が男ならともかく女の子に話しかけている。



それも学園一の美少女西野さんに。




西野さん自身も僕以上に人付き合いがないというか、僕が見た限り皆無に等しいので、この2人が話し合う姿は珍しく思えるのだろう。





もちろん視線が集中して、僕は逃げ出したい衝動にかられたが、なんとか持ちこたえる。




すると、西野は本をパタンと閉じると、




「何?」




と、少し冷たい声が飛んできた。




そして、彼女は昨日と打って変わり、驚くほど無表情で、逆に怖かった。



やはり話しかけたことを怒っているのだろうか。




彼女の大きく丸い瞳は眠そうな目蓋のせいで半月状になっていて、ジトッとした表情。




眠いのか、僕を蔑んでる表情なのか定かではない。



彼女の黒い真珠のような瞳には僕はどのように映っているのか。





やはりドキドキが止まらない。心臓が破裂しそうで息苦しい。




彼女の前に立った瞬間、僕の心は赤外線受信して、バイブレーションする。っていうクソみたいなポエムを今思いつきました。





おかげで何の用件で来たのか忘れてしまった。




「いや…あの…その…き、昨日はごめん!」




と、とりあえず謝ろう。



困った時にはとりあえず謝るのが僕の癖でもある。








「ん。別に大丈夫」





彼女の表情や仕草は昨日とはなんか別人のようで、まぁよく考えれば周りにはクラスメイトもいる。



昨日が例外だっただけで、この冷静沈着な彼女は僕が今まで見てきた彼女そのものであって、

違和感を感じる必要はない。



僕が恋した彼女も今の彼女だ。



彼女は演技が上手いのだろうか。



まるで別人のような表情の使い分けだ。




いつもは今のように無表情で、物静かで、少し冷たい瞳をしている。




しかし、昨日とは表情というか、顔の筋肉の使い方が違うというか、昨日の目は常に睨むように見開いていて、怖かった。




まぁ、どちらも可愛いんだけど。




「…もういい?…えっ。ちょっと君来て。」




話を終わらせようとしたらしいが、なにかに気が付いたように、西野は席を立ちサッサと教室をでる




なんだろうか。




喜び半分、不安半分。





いや、嘘だ。喜びは9割を占める





ただ、どのような形であれ、西野さんと話し、行動するところを、

クラスメイトに見せつけてやるのが、爽快だった。



西野さんは振り向きもせず速歩きでどこかに向かう。




見失わずに追いかけるのがやっとで、彼女はこちらに合わせる素振りもなく、階段を上がる。




はい。デートですこれ。もはやデート。




一体どこに向かうと言うのか。






いつのまにか学校の最上階に来たようだが、

すると西野さんは現在立ち入り禁止となっている屋上の扉を開けた。





「きて。」





ようやく、彼女はこちらを振り向き、そしてまたすぐ扉の向こうに躊躇いもなく出ていった。





おいおい…、屋上は立ち入り禁止じゃ…。




まてよ…

立ち入り禁止ということは僕と西野さん以外誰もいない。





西野さんは…さ、誘っているのか?その可能性は天文学的な数字だが。



生唾を飲み、僕は屋上に一歩二歩と足を踏み入れる。





前を歩く彼女のスカートは風で軽く翻し、思わず目は釘付けになる。






み!見えない!





と、言うのはさておき。








彼女は立ち止まり、振り返ると、距離があるのに良い香りがした気がした。





だが、彼女の動きはトリッキーで、今度は急に僕に向かってズカズカ歩き出す。




思わず僕は後退りするが、後ろは壁。





彼女は僕を壁に押し付ける。



か、壁ドンだーーーー!


これが噂のーーー!





きゅ、急展開だ…。




まさか、



『昨日はごめんね…。ほ、本当は私もあなたが…!』



みたいな展開だろうか。





その刹那。






僕の後ろの壁が大きな悲鳴をあげる。





その壁には西野さんの白く細い腕が突き刺さっていた。





な、なにが起きたの…?





まぁ、とりあえず告白フラグは壁と共に壊れた。




最初からそんなルートはないかもだが





そう西野さんはコンクリートの壁をも貫く拳を僕の左頬をすれすれのところに繰り出したのだ。




彼女は腕を引き抜くと、コンクリートの欠片がボロボロと落ちる。



この校舎は発砲スチロールで出来ているのかな?




「貴様…。話しかけるなと言ったろう」




ドスの聞いた声で僕を間近で阿修羅の如く睨みつける




ひええ。恐可愛い……。



完全にいつ殺されてもおかしくない状況で、僕は機転を利かせる。



「ご、ごめんなさい…!あ、そうだ!ハムスター!…昨日、西野さんが探してたハムスターは見つかった?」




ベストなタイミングで本題を思いだし、その場しのぎにはなりそうだ。





『あ…? あぁ、あの後、探したら見つかったよ。猫に食べられる寸前だったが無事だ。だが、貴様には関係ないだろう。そんなことを聞くために貴様は私との約束を破ったのか?」




…少し胸が痛むが、正当な理由があったのだから仕方ない。





「ごめん…。でも、そのハムスターは多分だけど、僕の妹のハムスターなんだ。背中に小さい星マークがあるんだけど。」



…少し胸が痛むが、正当な理由があったのだから仕方ない。





「ごめん…。

でも、そのハムスターは多分、僕の妹のハムスターなんだ。

背中に小さい星マークがあるんだけど。」




「ん?そうだったのか。飼い主を探してたところだから助かる。

ちょうどハムスター持ってきたから、貴様の妹のハムスターか確めてくれ」





西野さんは、手品のように制服のポケットからハムスターを取り出した。




なんで、持ってきてんだよ…。と突っ込める立場ではないので、心中に収めハムスターを受けとり確かめる。




うん、確かに背中に星っぽいマークがある。



なんとか一安心だ。





「うん。確かにうちのラッキーだ。ありがとう!妹も喜ぶよ。」




とは言いつつも、今日一日中ハムスターを服のポケットに入れておかなければならないとなると、先が思いやられる。



「ラッキーというのか…。かわいい名だな。良かったな公二郎」



どさくさに紛れて名前付けてたんかい。



西野さんは僕の手のひらに乗るラッキーを覗き込む。その優しい言葉は全てラッキーへ向けられていた。



少し表情が緩んでいる。




その表情は初めてみる表情で、彼女の新たな一面を見れた気がする。




それが、僕に向けられたものでないとしても、僕は嬉しかった。









「じゃあ。私は教室に戻る。

もう一度言うが、今度こそ二度と話しかけるなよ。」



え、えぇーー。切り替え早っ!



引き留める間もなく、

彼女は何事も無かったかのように屋上を出ていってしまった




初夏なのに、風が肌寒く感じた




なんだこの祭りが終わった後の帰りの電車みたいな喪失感は。




夢から覚めたようで、




まるで数秒前まで、そこにいた彼女の存在自体が夢想の世界だったんじゃないかとすら思う。





気がついたら、頬が濡れていた。



今朝の天気予報は降水確率0%だったのに。







とにかく…今は教室に戻ろう







僕は屋上の出口をふと見ると、










教室に戻ったはずの西野さんが、

半分だけ顔を出し、こちちを覗いていた。




どういうこと?結局なにがしたいんだよ。




「うわ…。泣いてる…」




半分だけ冷めた表情を顔を出してる西野さんは僕を見てドン引きしていた





あぁ…見られた…





「い、いや…。目にゴミが入っただけだよ!あはは…。」






「……」





…なんだろう。この空気は。




なんで、西野さんは戻ってきたのだろう。





二度と話しかけるなって言ってきたばっかなのに…。




自ら、再び来たってことは、話しかけていいんだよね?




僕はゴシゴジと涙を拭き、軽く咳払いする。






「あ、あの…。なにか…?」





彼女は顔を半分出したまま、無表情でピクリとも動かない。



『……。』





彼女は僕を弄んでるのか?




なんだか感情の上下が激しい子だな。と思った。



まるで二重人格のようだ。



からかってるのかもしれないが…。





「あの…ちょっとこっち来てくれませんか?」





なぜか敬語になってしまったが、彼女には通じたらしく、

彼女はトコトコと僕をジッと見つめながら、歩み寄って来てくれた。






最近の女の子って本当に分からない…。



まぁとりあえず…






「あの、なんで見てたの?」





「おもしろかったから」






やはり…からかってたのか…




純情な男心を傷付けられたよ。



というかツっこんでいいのだろうか。




気になってはいたが、

彼女の感情は上下が激しいというより、

まるで、人が入れ替わったかのような…。




人間裏表があるが、ここまで極端な前例は見たことがない。



彼女の言動とその後の行動が矛盾しすぎている。




教室で本を読んでる彼女



竹刀を僕に向けてきた彼女





今、ここにいる彼女はおそらく前者、

僕が一目惚れした彼女だ。




もし、この姿が猫を被った彼女の仮の姿であるなら、

彼女の気性の荒い一面を知っている僕に、

猫を被る必要があるだろうか・・・いや、ない。



彼女に聞いてみるべきだろうか?





「あ、あの…」




「なんで告白してきたの?」






僕の言葉に覆い被せるように、

彼女の口からは思いがけない一言。



本当にこの人は読めない。


トリッキーすぎる。




それに、彼女の表情は真剣なのか無表情なのか判断しにくい。



多分…無表情なんだろうけど




それにしても、なんて答えにくい質問を平気で聞くのか…。




まるで



ねぇ、どんな気持ち?

私にフラれてどんな気持ち?



と弄ぶように言われてるのと変わらない。




まぁ、幸か不幸か彼女の表情にはそのような悪意は見られないが。




なんで告白したのか?と聞かれても、理由は分かりきっていることだろう。





そりゃあ、好きだからに決まってる。




そんな分かりきった言葉を彼女は回りくどく再び聞いてくる。



もう一度、告白させられるようなもんだ。


しかも答えはもう分かっているのに




ただでさえ、精神ボロボロなのに…こんなのただのオーバーキルに他ならない。




死んだ人間にマシンガンを撃ち込むようなもの。



まぁポジティブに考えれば失うものはない。



たぶん。




まぁ、もう一度当たってマシンガンで蜂の巣にされてやろうじゃないか。






「そ、そりゃあ…好き…だからだけども…。」









は、恥ずかしい…!



二度目とはいえ恥ずかしい!




一方、予想通りに彼女の表情は変わらない。





しかし、一瞬だけ彼女のジト目が大きく開いた気がした。







「名前は…なんて呼べばいい…?」





「え」




な、名前…?




えっ…二度と話しかけるなって言ったのに…。





高志の混乱は増すばかりであった。






でも、これは…まさか、彼女とまではいかずとも、

最低友達以上の関係を築いていく人に言うことだよな…




…これは喜ばしいことではないか。






「ぼ、僕は渡部高志!気軽に高志でいいよ!」




彼女にまだ自己紹介すらしてなかったので、

フルネームも言う。





少し調子づいた僕は、更に続けて言う。





「あっ、西野さんのことはなんて呼べばいいかな?そういえば下の名前なんて読むの?空子(ソラコ)さんでいいのかな?」






ここで、調子に乗った僕は墓穴を掘ることになる。



本当に僕はバカだと思う。




西野さんの表情は変わらないが、少し強張ったようにも見えた。





「……たかこ」




ボソッと聞こえるか聞こえないかのような声で言った




「…たかこ?」






「うん。空に子どもの子で空子(タカコ)





な、成る程。



分からんわ!



ずっとソラコか、クウコだと思ってた。





「じゃあ…僕はタカコさんって呼べば…」




「…名前も知らないのに?」






僕の言葉を遮り、西野さんは何かを言った。





「え?」








「名前も知らない相手に告白なんかしたの?」






彼女の言葉は、口調こそ厳しいものではなかったが、

僕の心にグサリと深く刺さった。




僕は焦るあまり、すごく失礼な事を彼女にしてたのではないだろうか。




「授業始まるから…。」





そう言って彼女は屋上を後にした。




もちろん僕も授業なので、すぐに屋上を出た




僕は何も言えずに彼女の5m後ろを付いて教室に戻った。





そのたった5mが果てしない距離に感じた。







教室に戻ると、草太が嬉しそうに話しかけてくる。




「おい高志!お前西野と話してたんだよな!おいおいお前もやるときはやるんだなー!」





草太の冷やかしは、右耳から左耳に通り抜け、

僕の頭の中には西野さんの放った一言





【名前も知らないのに】



が授業中ずっと頭の中を駆け巡っていた。



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