不安な明日は希望の今日
どんなに嫌でも今日はやってくる。
今日は火曜日。
まだ火曜日だ。
まだ今週4日もあるのか。と鬱になりながらも、重い目蓋を開く。
昨日は電気をつけっぱなしで、寝てしまったようだ。
電気代・・もったいないことしたなぁ。
と頭を掻き毟りながら思いつつ、ベッドから体を起こし、質素な朝食をとる
まぁせっかくのイメチェンなので、髪型もしっかりセットして、
昨日買った服を着る。
また無難な黒い服を買ってしまった。
もう黒い服なら何着も持ってるのに。
つくづく自分に呆れながらも、家を出た。
家を出た時刻は8:30。
少し遅刻気味だ。慣れない髪のセットに時間をかけ過ぎた。
授業開始は8:40。
まぁでも家から学校は先ほど言ったように、徒歩15分ほどだし、
少し急げば、ギリギリ滑り込めるかもしれない。
僕は重い足を急がせた。
学校に着いた頃には授業開始のチャイムが鳴り終わり、
もう間に合わないと半ば諦めつつも、早足で息を整えながら校舎に入る。
そして、息を切らしつつ教室のドアの前に着いた。
やはりもう授業は始まっているようだ。
そう。この全員が自分を集中して見てくるこの瞬間が苦手だった。
この瞬間、時間が止まったように感じた。
でも「おせーよ!」と、からかってくれる友達もいなく、
ただ単に気まずく長く感じる瞬間だった。
クラスメイト達は、「なんだコイツか」「コイツだれだよ」と言わんばかりに再び興味なさげに前を向く。
中には僕を初めて見た奴もいるんじゃなかろうか?
まぁどっちにしろ辛いけど。
『おい。えーと…。
田中!早く席につきなさい。』
先生ですら出席簿で確認しつつも、僕の名前を間違えた。
「…あの、渡部です。」
僕は気まずそうに先生に言うと、
『あ、すまんすまん!
田辺!早く席につけ!ギリギリセーフにしてやるから!』
この先生とは仲良くなれそうにない。
クラスメイトにクスクスと笑われる中。
僕は急いで自分の席についた。
まぁこんなに目立ったことは初めてだけど、こんな恥をかくような目立ち方は嫌だ。
授業はいつも通りでやはり退屈だ。
今日もやっぱりいつも通りのつまらない今日なのか?
果たして髪型や新しい服に気づいた人はいるのだろうか?
いや…いないだろうな。
顔も名前も覚えてないような奴の変化なんて…。
そもそも、見た目をどんなに変えようと、この臆病で人見知りな性格は変わっていない。
結局、誰かに話しかけようとするわけでもなく、基本受け身。
この変わった見た目を見て、誰かがそれを話題に話しかけてくるのを待ってる臆病者だ。
話しかけてくるどころか、この地味で平凡な変化を気づく人もいないだろう。
「あれ?渡部君髪型変えた?」
……幻聴だろうか?
今、確かに目の前の席の渡辺らへんから、僕の名前を呼ぶ声が…。
っていうか、渡辺は僕の方を振り返り、口を開いていた。
「渡部君……?」
「ひゃい!」
思わず声が裏返ってしまった……!
確かに今、僕の席の目の前の、渡辺 草太 (ワタナベ ソウタ)は、僕の名を呼んだ。
背はスラッと高く、くっきりとした瞳。高い鼻。
茶色の少し長めの髪。
しかし不潔感は無く、むしろその長めの髪が高1とは思えない大人の色気を醸し出している。
一言でいえば、「イケメン」
そして、このイケメンは僕の変化に気づいてくれた。
すると草太は整った白い歯を見せながら笑う
「はは!渡部君声裏返ってるよ!
えーと。少し変わったよね?髪型とか……服装もかな?」
なんて奴だ……!
なんて良い奴なんだ…。
妹や親すらも気づかなかった変化に彼は気づいていたのだ。
まずい涙が出そうだ…。
いや感動してる場合じゃない。
渡辺君が困っている。早く返事しないと…。
「う、うん渡辺君だよね?かか髪型も服装も変えてみたんだ。
あ、ありがとうございます。」
舌が回らず、めちゃくちゃだったが、返事はできた。
「ははは!なんでお礼言うの?後、草太でいいぜ!」
眩しいッ!僕みたいな陰キャになんの抵抗感もなく自然体で話してくれている
そう。会話だ……!僕は今、会話をしているぞ……!!
草太くん…!なんて爽やかなんだ!
すまなかった…。君を誤解してたみたいだ…。
イケメンなのに良い奴がいるだなんて都市伝説かと思ってた。
ごめんよ……渡辺君……!
名前が渡辺なだけで、席が僕より前なだけで、イケメンなだけで、友達が多いだけで、
勝手に君を悪者扱いした僕を許してくれ……。もはやもう好き。抱かれてもいい。
こんな内心通り話したら、ドン引きも良いところ。慎重にいこう。
「そ、草太君ね。分かった名前で呼ぶよ。」
「いやいや草太で構わないよ」
はぁーーー!これだからイケメンってやつは!
これだよ…!
僕がやりたかったのはこれなんだよ…!
もう…大丈夫なのかな…。
自分に自信を持っても…。
「ぼ、僕も名前でいいよ!ていうか……呼んでくれると嬉しい……かな」
我ながら少し気持ち悪い返答をしてしまった。
「もちろん!えーと……スマン!名前なんだっけ……?」
少しバツが悪そうに彼は苦笑いして誤魔化す。
流石に僕の名前までは知らないか…。
まぁ落ち込むほどのことじゃない。
僕だって草太の名前を先ほどまで知らなかったし…。
「あっごめん!僕の名前は―――」
『ほら渡辺!田辺!いつまで話してる!授業中だぞ!』
話を遮り、先生はチョークで僕達を指差す
…やっぱりこの先生は好きになれそうにない。




