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グッド・ジョブ エピソード0  作者: 渡夢太郎
二章 再会
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バレンタイン

秀樹と亮は中華料理店の孟林に入った。

「ここに来るのは初めてか?」

「はい、お正月にみんなで和食の『みやび』に行きましたけど」

「爺さんの拓馬は、貿易商の営業のために和食の『みやび』。

フランス料理の『ローラン・ギャロス』焼肉の『銀遊亭』、

そして中華料理の『孟林』を作った」


「はい」

「海外から来きた連中に食べさせても恥ずかしくない料理だ」

「儲かっているんですか?」

「もちろん、いい料理人を雇ったお陰で支店が出来て黒字だ」

「えっ?何店舗あるんですか?」

「札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、大阪、福岡に

 各支店があるから合計で30店舗ある。

他にローラン・ギャロスパティシエが作った

ケーキの店『ル・フルール』も有る」


「えっ、そうなんですか?有名なル・フルールも知らなかった」

「だから、俺が忙しいのが分かるだろう」

「はい、ありがとうございます」

「そういう訳で、正直亮が医者になると言われた時はがっかりしたんだ」

「すみません」


「いや、亮はご先祖は御典医だったんだから

その血を受け継いだと思っていたんだが

でも考えが変わってよかったよ

「はい」

「元々日本物産は医薬品、医療器具の輸入を生業として

輸入家具や宝石を販売する美宝堂が出来たわけだ」

「そうだったんだ」

亮は家業の歴史を知って感動していた。


「うん、それで日本中にある病院のルートを

利用してDUN製薬会社を作った」

「すべての仕事に理由があったんですね」

「これが、個人経営のメリットだ」

「じゃあ、美宝堂はどうして作ったんですか」

「うん、人はどんなにまじめで、優しい心を持っていても

 汚くて醜い格好をしていては誰も信用してくれない。分かるか」

「はい」

「そして、良い物を持っていると見た目だけじゃなくて

精神的に自信とゆとりを持てるんだ」


「分かります。うちに来るお客様は

みなさん背筋を伸ばして堂々と歩いています」

「うん、だから美宝堂では心に輝きを持たせる、

いい商品を売っているんだ」

亮は秀樹に頭を下げた。

「お父さんすみません、今までお父さんの事、

祖先の事、そして美宝堂の事を知りませんでした」


「いいさ。亮、お前は小学校に入った時から

 ずっとトップだった。

 当然周りはそれだけ頭が良いのだから

医者になれと言っていたはずだ」


「はい、お前は金持ちだから医者になれって

 学校の先生にさんざん言われました。

 国立大なら6年間で3,496,800円ですけど、

私学の学費は約10倍の約3500万円で、

他に本代や白衣なんかの消耗品費がありますから

当然私学へ行くのは大変です」


「うん、勉強ができるだけで医者になるやつ、

家が病院だからと言う理由だけで

医者になるやつ、しかし人を救おうと言う志だけで

猛勉強して学費の高い医学部に行くには

あまりにもハードルが高すぎる」


「お父さんすみません。僕は医者になる事をずっと悩んでいました」

「分かっている、心の優しいお前は患者が苦しんで死んでいく

姿を見るに耐えられなかったはずだ」

「はい、その通りです」

亮は亡くなった人の周りを遺族が取り囲んで泣いている姿を想像した。


「亮、お前はDUN製薬に利益をもたらし医学部に入りたくても入れない

志を持った若者の為に無返済奨学金を作れ」

「分かりました」

「うん、いくら美佐江や千沙子が優秀でも、

 これだけの組織をコントロールできる才能はあると思えない。

それは彼女たちも重々知っているはずだ」


「分かりました、姉弟仲良くやっていきます」

亮の返事に秀樹が微笑んだ。

「美佐江は宝石、千沙子は衣服と一つ一つの分野にでは才能を

発揮できるが経営はもっと大きな視野で考えなくてはならない」


「では、僕に万能になれと言う訳ですか?」

「そうだ、すべてを把握する知識だ、

つまり薬で言えば総合感冒薬みたいなものだ」

「分かりました」

「まだ俺も元気だ。たっぷり勉強しておけ」

「はい分かりました、勉強は得意ですから」


「あはは、じゃあ。乾杯だ」

「まだ、未成年ですから」

亮は急に冷静になった。


「相変わらずお硬いな」

「いいえ、法律ですから」

亮はボソッと言った。

「よし、では面白いところへ行こう」

「面白いところ?」

亮はゲームセンターにでも行くのかと思ったが

亮が秀樹に連れられていったのは銀座のクラブ蝶で

亮の目の前に会った事も無いゴージャスな女性が現れ、

亮の息が止まった

「いらっしゃいませ、絵里子です」


~~~~~~~~~~~~~~


2月13日に亮の携帯に良子から連絡が来た。

「明日、チョコレートをお渡ししたいので会っていただけませんか?」

子供のころからずっと男子校だった亮はチョコレートにはまったく縁がなく

2月14日にもらうチョコレートは母親と二人の姉と決まっていた。

亮はめんどくさくなってメールを返さないでいると

美佐江から電話があった。


「亮、秋山良子さんが今お店に来て

明日あなたに会いたいって言っていたわよ」

「ああ、そうですか」

「会ってあげなさいよ、どうせバレンタインデーに

デートする女の子なんかいないんでしょう」

「別にいなくても良いんだけど・・・」

亮は沙織に未練を持っていた。


「乙女が恥を忍んで言っているのよ、彼女がかわいそうよ」

亮は強引な良子がなおさら面倒くさかった。

「分かったよ、姉さんの所へ連絡されたら断りようがないよ」

「OK、明日銀座のル・フルールへ行きなさい」

亮は仕方なし良子に連絡を取った。


翌日の夕方4時にマリオンの前で待っていた良子は

髪を巻き髪にしてピンクのワンピースにキャメル色のコートを羽織って

寒そうに立っていた。


「こんにちは、すみません僕こんな格好で大学の帰りだったもので」

亮はGパンにトレーナーで紺色のダッフルコート

を着て顔を赤くして良子に挨拶をした。

「團君、ありがとう会ってくれて」

「いいえ」

「あのう、どうしますか?」

デートになれていない亮は良子に聞いた。


「うーん、どこかでお茶しよう」

「ええと、ケーキ食べませんか?」

「はい」

良子はニッコリと笑ってうなずいた。

亮は美佐江に言われた通り

M百貨店の裏のル・フルールの方へ向うと

向かいから来たカップルの男が声をかけた。


「良子」

「あっ、高田さん」

「おっ?良子の新しい彼か?」

高田は亮の全身をジロジロと眺めた。

「いいえ、友達です」


良子が目を曇らせ下を向くと亮はそれを察して挨拶をした。

「團です」

亮が頭を下げると高田と一緒にいた女性が

高級ブランドのワンピースを着て

気取った感じで挨拶をした。


「川野です、秋山さんお久しぶりね」

「お久しぶりです」

良子はますます元気がなくなっていた。

「良子、バレンタインデーに一緒にいると言う事は彼に告白するのか?」

「いいえ、別に」

「團さんは大学生?」


川野が聞くと亮はうなずくように返事をした。

「はい」

「ふーん」

川野は亮のジーンズの姿を見て亮の大学の

名前も聞こうとせず高田の自慢話をした。


「高田君は応慶大生でブランド品のネット通販の社長さんなの」

「凄いですね、学生社長」

亮は正直に学生社長を見て凄いと思った。

「ええ、まあ父のアドバイスで」

高田の顔は誇らしげだった。

「高田さんのお父さんはテレビでCMをやっているJP通販の常務さんなの」

川野は自慢げに亮の顔を見た。


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