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グッド・ジョブ エピソード0  作者: 渡夢太郎
一章 クリスマスイブ
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奇跡

「じゃあ、明日迎えに来る」

「ねえ礼拝にも行きたい。神様にお祈りしたい」

「うん、病気が治るようにね」

「大学受かったら、二人でいっぱい、いっぱい遊ぼうね」

「うん、テニス一緒にしよう」

沙織は白い細い手を差し伸べて亮は初めて沙織の手を握った

それは冷たくて壊れそうな手だった

「ねえ、お願い私の写真あなたの携帯で撮って」

沙織は凄く素敵な顔で微笑んだ


~~~~~~~~~

亮が帰った後

沙織の様態が悪化し、呼吸器をつけた沙織は救命治療室に運ばれた。

「亮、亮。私を助けて、私を守って」

「沙織」

母親は一生懸命沙織の名を呼んだ。

「亮、亮」

沙織の声が次第に小さくなっていった。


~~~~~~~~~~

亮が家に戻ると久美の手を掴んだ。

「お母さん、ウイッグ持っていない」

「どうしたの?」

亮は白血病の副作用で無くなっていた沙織の髪の事を話した。

「それは気の毒に・・・私は無いけど美宝堂に有るから持ってこさせるわ」

「わざわざ買わなくても・・・」

「良いのよ、彼女。ええと・・・」

「北川沙織さん」

「そう沙織さんへの私からのクリスマスプレゼント」

「ありがとうお母さん」


亮は自分の部屋に入ってすぐに本で何時間も白血病について調べた

その内容はとても否定的だった。

「どうしたら治るんだ、くそ!くそ!」

翌日、亮は千沙子のドレスとウイッグを持って

病室に入るとベッドには綺麗に片付けられ誰も居なかった。


亮は嫌な予感を覚えナースステーションに行った。

「すみません」

「はい」

看護師が答えると亮は沙織がどこへ行ったか聞いた。

「北川沙織さんは何処へ?」

看護師は書類を見ながら言葉に詰まっていた。

「北川沙織さんは転院なさいました、ドナーが見つかって」

「そうですか」

亮は看護師の話を信じなかった。


亮はしゃがみこみ涙を流し放心状態のまま、駒沢から地下鉄に乗り

青山で銀座線に乗り換え東銀座背日比谷腺に乗り換え築地の教会へ向かった。

亮が涙を床に落とす姿を見て大人たちは気の毒そうに思い

女子高生は亮を指差して話をしていた。


まだ恋か分からない惹かれる気持ち

まだ愛と呼べない優しい気持ち

ただ、傍にいれば心が落ち着いた

ただ、傍にいれば楽しかった


君はいつ生まれ?

好きなものは何?

好きな音楽は?

好きな映画は?

どんな食べ物が好き?

一緒に歩くときの服装は?

僕は君を何も知らなかった

君の受ける大学すらも・・・

何処に住んでいるかも・・・


教会に着くと亮はひたすら沙織の無事を祈り続け

涙を流しながら賛美歌を唄った。

亮は肩を落とし神父に頭を下げて教会を出ると

そこに沙織、北川沙織が立っていた。

「沙織さん」

「遅くなってごめんなさい、私この病院に転院したの」

「よかった・・・」

「それでね。それで今日外出許可が下りたの」

「良かった」

亮の目から涙が零れた。


「リョウ、どうしたの」

沙織は聖母マリアのように亮を抱きしめた。

「神父様、神様がマリア様を連れて来てきてくれました」

「團さん、あなたに紙のお恵みを・・・」


亮が渡したドレスに着替えウイッグをつけ帽子をかぶった。

タクシーで美宝堂の8階のローラン・ギャロスへ行った

めったに電話をかけない亮から秀樹のところに電話があった。


「どうした?」

「分割でエルメスエプリンのバッグを売ってください」

「どうした50万円もするぞ、クリスマスプレゼントか?」

「はい、どうしても渡したいので」

「良し!」


「いらっしゃいませ、お二人様ですね」

亮が案内された席はローラン・ギャロスで最も眺めのいい席だった

「わあ、緊張する!」

「大丈夫、僕がいます」

「そう、私にはあなたがいる」

そして、ウエイターが2つのグラスに水を注いだ。

「クリスマスディナーを2つお願いします」


そこへ亮の元にリボンが付けられた袋が届けられた。

「クリスマスプレゼントだよ、沙織さん」

「私も」

二人でプレゼントを交換して包みを渡した。

包みを開けると沙織がくれた包みの中に

モンブランのボールペンが入っていた。


「こんなに高いものを・・・」

亮はプレゼントに付いていた手紙を見ると

可愛い絵文字がたくさん書いてあった。

「團くん、あなたに会えてよかった。ありがとう

 これからもよろしくね」

手紙を見ながら亮は涙を流し外の夜景を見ると

ガラスに映る揺れるキャンドルの向こうに

沙織の横顔の笑顔が見えた。


「わあ、エルメスのバッグ。でも高かったんでしょうもらえないわ」

沙織はエルメスが高いっと知っていたが、それがまさか

50万円とも知らず嬉しそうな顔をしていた。

「そのバッグは沙織さんの歳ではまだ持てないと思います。だからお互い

 大人になった時、それを持って僕とデートしてください」

「そうだね、大人になってもずっと一緒に居られたらいいね」

テーブルに置かれたろうそくの炎は沙織の青白い顔を照らし

輝かせていた。


翌朝、亮は秀樹と久美に言った。

「お父さん、お母さん。僕は薬剤師になります」

「亮、どうしたの急に、外科医になるんじゃなかったの?」

久美は驚いて聞いた。

「どんな優秀な外科医が癌を取り除いても、抗がん剤が無ければ

 再発するかもしれません」

「うん、うん」

秀樹は亮の思っている事が分かって微笑んだ。


「日本人の三大死因はがん、心疾患、脳血管疾患でがん以外は予防も可能です」

「その通りだ、亮。どんな名医でも生涯、人の命を救えるのは数千人だ」

「はい、お父さん。どんな名医でも外科医手術では白血病は治せません、

ましてインフルエンザですら予防する事が出来ません。

でもいい薬が有れば多くの人を同時に救えます。

世界中の人をだから予防医学の見地から薬の研究をしたいんです」


会社経営者の秀樹は亮が医者になる事を嫌っていて

長男の亮には経営者として

グループのトップに立つことを望んでいた。


「やっと分かったな、亮」

一夜でたくましくなった亮を見て秀樹は金庫から鍵を持ってきた。

「亮、クリスマスプレゼントだ」

「何ですか?」

「蔵の鍵だ、あの中に徳川家御典医の先祖が書いた古文書が山のようにある」

「本当ですか?」

古文の好きな亮はとても嬉しかった。


「ああ、色々な薬の製法

と病気の治療方法が書いてあるらしい」

「ありがとうございます」

「おやじがいなくなってから俺は蔵に入っていないが、

あの本を読めるのはお前しかいないと

おやじが言っていたよ、ははは」

「はい」


亮はすぐに蔵の鍵を開けると漢方薬の臭いがして、漢方薬の入っている箱が

棚にびっしりとあり、幾つも箱が有ってその中に何十冊もの古文書が入っていた。

「じいちゃん、すげー」

亮は感動で目がキラキラと輝いた。

その日から亮は蔵に閉じこもって古文書の解読を始めた。


そんな亮の姿を見ていた久美は秀樹に聞いた。

「あんなものを見せて、亮は大学受験大丈夫かしら?」

「大丈夫だよ、もし日本に飛び級があったら、あいつは15歳で東大生だった」

「そうね、あの子はかしこいわ」



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