クリスマスの祈り
「まさか」
「亮がクリスマス・イブにデートなんだって」
久美が嬉しそうに言った。
「おお、受験生やるな、相手は幾つ?」
「同じ高3この前の娘」
「そうか、私がその歳ならバーキンは高すぎるからエルメスの
エプリンのブルーなんかどう?」
「いくらするの?」
「16万円くらい」
「ああ、聞いた相手が悪かった、僕が買ってプレゼントするんだよ」
「お年玉たんまり溜め込んでいるくせに、惚れた女にお金を使わないでどうする」
「いや、まだ惚れちゃいないよ」
「でも私は、高校のときバーキンが欲しかったわよ」
「彼女はそんな子じゃないって」
「亮、高校生の女の子は意外と大人なのよ、キスを求めてくるかもよ。歯を磨いておけ」
千沙子はニヤニヤと笑った。
「そうだ、姉さんもう着なくなったパーティドレス無い?」
亮はローラン・ギャロスが正装なのを思い出して言った。
「有るわよ、彼女のサイズは?」
「身長158cm、体重48kg、ウエスト58cm、バスト70のB
足のサイズ24cm、高校生だからヒールは5cmくらい」
「亮、さすがね」
久美が手を叩いた。
「亮、ジロジロ見なかったでしょうね」
「当たり前だよ、姉さんやっとDカップになったね。体重2kg増えたけど」
「こら!変態」
翌日、亮が図書館行くと沙織は来なかった。
その次日も来ず、亮はメールを送ろうとした3日
亮の肩を優しく触る沙織の手があった。
亮は沙織に飲食室へ行く合図を送ると
毛糸の帽子をかぶって暖かそうな格好をしていた沙織うなずいた。
「ごめんなさい、アルバイトが忙しくて」
「受験生なのにアルバイト?」
「うん、ちょっとお金が必要だから」
「そうか、クリスマスイブの日のレストランの予約取れたから」
「本当、嬉しい」
「それで、築地の教会で3時の礼拝に行ってそれから銀座で食事どうかな?」
沙織は銀座と聞いて少し驚いて返事をした。
「うん、良いよ」
「それで、姉のお古なんだけど」
亮は紙袋を沙織に渡すと黒いドレスが入っていた。
「わあ、素敵なドレスと靴」
「レストラン正装なんだ」
「ええ?それって高級レストラン」
亮は黙ってうなずくと沙織が首を振った。
「やだ、私そんな所行った事ないしマナー知らない」
「大丈夫だよ、使うナイフとフォークは僕が教えるよ」
「普通のファミレスでよかったのに」
「ファミレスじゃ予約がとれないから」
「團君がお金持ちだって本当だったんだ」
「えっ?」
「少し考えさせて、私には吊り合わない」
沙織は潤んだ目で亮の顔を見て袋を亮に返して走って行った。
亮は自分の出来る事を精一杯した事で沙織を傷つけた事を悔やみ
それから、沙織は現れる事がなく、亮は嫌われたと思って
自分から連絡を取ろうと思わなかった。
12月23日の昼前に
沙織の友人の良子と弓子が図書館に姿を現した
「團さんすみません、沙織に会ってくれませんか?」
弓子が悲しそうに言うと亮は何か問題が起きたかと心配になった。
「は、はい」
「沙織、入院しているんです」
良子が涙ぐんでいた。
「どうしたんですか?」
亮は自分の心臓がドキドキするのがわかった。
「急性白血病で先週倒れたの」
弓子は大声を上げて泣き出した。
「すぐに行きましょう」
亮たちは渋谷からバスに乗って国立病院へ向った。
病室に入ると血の気がなく真っ白な顔の沙織がベッドに横になっていて
頭に暖かそうな茶の帽子をかぶっていた。
「あっ、團君」
沙織は亮の顔を見ると布団で顔を隠した。
「沙織さん、大丈夫?」
「再発しちゃった、白血病」
隣に立っていた母親が亮に頭を下げた。
「あなたが團君、娘がいつもお世話になっています」
「初めまして、團亮です」
亮は丁寧に頭を下げた。
「1年くらい前からあなたの話をしていたんですよ、素敵な男性がいるって」
「はい・・・」
亮は1年前と言われて何も言えなくなった。
「それに、明日のクリスマス・イブの日に食事に誘ってもらったって
大はしゃぎだったんですよ」
「ママ、二人きりにさせてくれる?」
沙織が懇願すると母親と良子と弓子は部屋を出て行った。
「ああ、明日デートしたかったなあ、せっかくプレゼントを買ったのに」
「少しだけでも動けないの?」
「うん、調子はいいんだけど・・・」
沙織は髪の抜けた頭にかぶった茶の帽子を指差した。
「かつらをかぶればいい、それに女性は室内で帽子を取らなくていい」
「そうなの?知らなかった。このがりがりの胸は?」
「ネックレスで隠せばいい」
「目の下のくまと紫の唇は?」
「カバーメイクすればいい」
亮は興奮して言った。
「ありがとう、團君」
「うん」
亮がうなずくと沙織が恥ずかしそうに言った。
「ねえ、リョウって呼んでいい?」
「リョウ?」
「うん、亮という字はアキラよりリョウって呼んだ方がかっこいい」
「いいよ、君だけに特別に許す」
亮が笑うと沙織も笑った。