出会い
プロローグ
「やっと完成したね。これがパパのやった仕事よ」
「うん」
目の前には朝日を浴びた深い渓谷が見え
断崖の上には巨大な風車が何本も立っていた。
「あれな~に」
5歳の黒いスーツ姿の男の子が聞いた。
「ドライアイス工場よ。あれで地球温暖化を防止するの」
「それっていい事?」
「そう、世界の子供たちの未来と希望を作るのよ」
「凄い!」
「そう、パパはすごい人なの。
あなたはパパの意志を継いでいきていくのよ」
「はい、ママ。パパは今何処にいるの」
「ずっと遠いところよ」
この谷底かそれとも異世界に行ってしまったのか?
「今からテープカットよ、さあ行きましょう」
男の子と手をつないだ女性が言った。
渓谷の上には巨大なドームがありそこに工場が建てられており
その前にはセレモニー台が用意されサングラスにスーツ姿の男たち
テレビカメラが何台も設置されカメラマンが待機していた。
「やりましたね、キャシー」
男たちは次々とキャシーと握手をした。
「ありがとう」
そこに49代アメリカ大統領ラルフ・スチュアートが登場しキャシーと握手をした。
「キャシーおめでとう」
「ありがとう、ラフ」
「キャシー、私の前にコメントもらえないか。彼の功績をたたえてくれ」
キャシーは息子の手を繋いで壇上に上がった。
「みなさん、この施設は地球温暖化防止の為に作られた二酸化炭素から作る
ドライアイス工場です。発案は私たちの敬愛する日本人ダン・アキラです」
キャシーが言うと会場から大きな拍手が起きた。
「この施設はシベリア、グリーンランド北極に近い部分、そして南極大陸
に作られまもなく始動します。この施設の効果は2年後に地球の
温度を1度を下げます彼は謎のウイルスからアメリカを救いました。
そして今から地球を救うのです」
再び大きな拍手が起こるとキャシーは男の子を抱き上げた。
キャシーはマイクに顔を近づけて言った。
「RYO I LOVE YOU」
続いてラルフ・スチュアートが演台に立つと手を振った。
「みなさん、こうして私が大統領になれたのもダン・アキラが私と妻の
命を救ってくれてからなんだ。そして彼はアメリカを助けてくれた。そして我々は世界を救う」
ラルフはそう言って手を振った。
「ダン・アキラの功績をたたえよう。グッド・ジョブRyo」
大統領の演説が終りボタンが押されるとドームからドライアイスが
落とされ谷底を埋めていった
1章出会い
10年前の12月12日
図書館は大きな窓から暖かい日が差して
職員が白いブラインドを落としていた。
團亮はテーブルの脇に重ね置いた本を読み
多くの受験生が辞書を調べながら真剣に勉強をしていた。
向かいに席にはいつも顔を見かける女子高校生と
目が合いそのたび毎に女子高生は微笑みかけていた。
「あのう・・・」
後ろからその女子高生が亮に恐る恐る声をかけた。
「はい」
「古文の勉強しているんですか?」
女子高生はテーブルの上の本を見ていった。
「あっ、はい」
「古文は得意なんですか?」
「まあ、それなりに・・・」
亮は邪魔をされるのが面倒だった。
「ムサシ高校の人ですよね」
「ええ、あのう。ここは図書館なのでお話は外で良いですか?」
亮はテーブルの上の物をそのままに女子高生を室外に誘った。
女子高生はニッコリと笑って亮の後を追いていくと
後ろから二人の女子高生がそれを見て笑っていた。
図書館の中の飲食が出来る部屋では数人の人が
テーブルにパンと牛乳を置いてのんびりとしていた。
亮と女子高生が椅子に座ると亮はまるでお医者が
患者を診る様子でとても17歳の高校生に思えない
言い方をした。
「どうしました?」
「私、北川沙織といいます。東島女子高校の3年の」
亮は名前を告げられて自分が名乗らない訳にもいかなかった。
「團亮です。僕も3年生です。ムサシ高校の・・・」
「大学はどこを受験するんですか?」
沙織は顔を亮に近づけて真剣な顔で聞いた。
「普通に東大ですけど」
「すごい!東大だと・・・」
「理Ⅲ、医学部です」
「じゃあ、理数系得意ですよね」
「はあ、国立大学なので普通に何でも」
亮は男子校なので女子高生には慣れておらず沙織が迫ってくるようで苦手だった。
「今度勉強教えてくれませんか?」
東島女子高は偏差値70の優秀な高校で
12月の今頃の時期、2月のはじめのセンター試験の勉強を教えてくれという
質問が不思議だった。
「ええ、分からないところが有ったらどうぞ」