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俺について

初投稿です

田舎、と聞くと、皆どんな情景を思い浮かべるだろう。のどかな風景?1面の田んぼ?それともしわくちゃで死にかけの老人?はは、それは田舎でなくてもそうか。


少なくとも、少なくとも俺は、そのどれも浮かばない。脳裏に浮かぶのは薄汚れた天井と、綺麗なはずなのになぜだかくすんで見える、青い青い空ばかりが焼き付いている。懐かしむべきでもない景色なのに、俺を裏切った景色なのに、どうしようもなく切ない思い出のよつに思えるのは何故だろう。



俺は死んだ。殺された。地元の田舎の神社の中で、時代錯誤にも生贄にされて死んだ。俺の足を、腰を、手を飲み込んでゆく「神様」と呼ばれる化け物を見た。


飲み込まれてしまったら、あとは終いだ。胸いっぱいに瘴気を吸い込んで、俺は死んだ。


走馬灯なんて、嘘だ。


だって死に際、「こんなことならもっと人に好かれるようにすれば良かった」なんて、そんなことしか浮かばなかったじゃないか。




……



そんな前世の記憶を、階段から落ちた衝撃で思い出した。額から血を流し視線だけで上を見上げる俺を、上から覗き込むように確認して去ってゆく昔の仲間たち。


去りゆくその仲間たち5人の中の1人、気がかりそうに俺を見つめるその女の子の唇は、確かに「ごめんな」と動いているように見えた。なあおい、死に際になって、また前世の死に際の思い出が蘇るってどういう事だよ。だらだらと流れ出る血液を横目に見ながらぼんやり空を見つめる。ああ前世と違ってこの世界の空は綺麗だ、くすんでない。


こうなった原因から説明すべきだろう。いや、原因と言えるほど複雑な事でもないんだが。結論から言ってしまえば今世の俺が悪くて、それ以上の何物でもない。


この世界はどうやら幽霊や呪い、いわゆる心霊的なものが科学的に証明されている世界らしい。インチキではなくちゃんとした論文に基づいて働く占い師や霊媒師、実験考証により効果が証明された呪い避けや御札が実在していて、世界に馴染んでいる。

そんな世界の中で、今世の俺は名門の霊媒師一族の息子だった。名前は神嵜(カンザキ) (キョウ)。かっこいい名前だよな。みんなにはコオロギコオロギって訓読みで呼ばれてるから、せっかくかっこいいのに得した覚えがないけど。


前世?ただの限界集落に生まれた若者だよ。それもとんでもない風習が根付いたまんまのどぎつい集落。そこそこ頭は良かったけど、周りに同年代のやつなんてほとんど居なかったから持て囃されることもなかった。まあそれに不満はなかった、コミュニケーションが苦手だったから逆に助けられていた位だ。


閑話休題。とにかく今世の俺は名門の霊媒師の一族の次期当主候補で、周りの期待を裏切らない程度に頑張って生きてきた。それなりの名門校に入って、それなりの成績を出して卒業して、日本唯一の公的な霊媒師団体、日本霊媒師協会に入会した。俺が言うのもなんだが、血筋関係なく結構頑張ったし、同じ志を持ってるやつの中でも結構いい道のりを歩んできたと思う。


……ならなんで今こんな瀕死になってるのかって?

言ったろ、俺が悪いんだって。


霊媒師と言えば仕事の内容は想像に難く無いだろう。幽霊を祓ったり、憑き物を祓ったり、結界を張ったり、時々現代にも現れる妖怪を保護したり(この世界には動物園ならぬ妖怪園があるから底に引き渡す。妖怪はある程度意思疎通が出来るから、どちらかといえばニュアンスは見世物小屋に近い訳だが、そこは人権のない妖怪だからポリコレ的にはセーフらしい)。エリート中のエリートは天皇陛下の体調や今後を占ったりもするらしい。俺には縁がなさそうな話だが。


俺は新人だから、幽霊を祓う仕事をしてた。憑き物や妖怪の保護は対象を傷つけたらまずいけど、幽霊は傷つかないからな。どんなに手荒く扱っても、最悪失敗しちまっても、誰にも責められない。それが常識、この世界の普通だ。……どうにも、俺はその普通に馴染めなかったらしい。


2日前。祓えと言われた危険度:乙の子供の幽霊を、俺は祓えずにわざと見逃した。「最後に家族に会いたいの、明日になったらちゃんとお空に行くから、今だけは見逃して」。そう哀願されて、情に流されて見逃した。馬鹿だと思うだろ?でも、実際対面したら無理なもんだぜ、まだ7歳くらいの小さな子供を殺すなんて。初見で躊躇なく殺せる奴が居たらそいつはキチガイだね。サイコパスやソシオパスなんてかっこいい名前で呼んでやんねぇ、そんなキチガイのあだ名はキチガイ脳みそおケツ野郎か脳ミソイカレポンチオで十分だ。

とまあ、俺は祓うのに必要だった札をビリビリに破ってトイレに流して使ったことにして、上司に嘘をついた。それで大丈夫だったんだ、最初は。


その後、どうやら子供の幽霊は俺との約束通り自ら空へと帰っていった。再婚して邪魔になった自分を事故と殺した憎い憎い母親と、彼女の新しい家族を全員殺して。勿論全員に俺が何をしたのかバレた、バレた故に冒頭のような悲惨な事態になった訳だ。薄情だよな、少なくとも1年は一緒に頑張ってきたのにさ。あいつら、「士道不覚悟」っつって、容赦なく俺を階段から突き落としやがった、新撰組かよ。


ああこれ、またこの世界の独特の価値観なんだけど……。1つ。そもそもこの世界がかなり荒れた世界、っていうのと、もう1つ。実際幽霊やら死後の世界が証明されちまうと、生死の境目って曖昧になるもんでさ。人を殺すのが案外軽い罪だったりする訳。この世界の幽霊、普通に物とかに触れるし。昔流刑が処罰の中でも特に重いものだったのは流される島が未知で未開拓だったからで、現代の日本で「お前は対馬に流刑だ」なんて言われてもちっとも怖くないのと一緒なのかな。ちょっと違うかもだけど。



「(俺、長生きしねぇなぁ。次の人生では目指せ50代。はは)」


飢饉や一揆や戦争のない時代に2連チャンで生まれられただけラッキーだったのに、俺、なんでこう毎回長生き出来ねぇんだろうな。流れ出た血が、素人目に見ても半端じゃなくなってきた。息をしても息をしても息苦しい。赤血球が足りてないんだな、なんてぼんやり考えてみたり。



----------------




「せっかく生まれ変わらせてやったのに、また殺されるとは何事だ。それもお前の不手際で」



……あれ、俺生きてる。

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