第六話 冤罪
翌朝、テーブルに置いたはずの双剣が片方だけなくなっていた。
テーブルの下、棚の後ろ、何処を探しても見当たらない。
「何処いったんだ?」
その時、部屋の外から鎧の音が聞こえてきた。
足音からして複数人・・・この部屋に近づいている。
バタンッ!と乱暴に扉が開かれると、複数の兵士が部屋に入ってきて俺は取り囲まれてしまった。
「どういうつもりだ?朝っぱらから」
「灰の勇者ソン・シュン。お前を国王暗殺の罪で拘束する!」
「は?」
こうして俺は、身に覚えもない罪で拘束されてしまった。
「入れ!」
「待ってくれ!これは何かの間違えだ!俺は何もしていない!」
「うるさい!さっさと入れ!」
ガッ!
「うっ!」
兵士が入ろうとしない俺を足蹴にして牢屋に入れる。
「おい!俺は王をやっちゃいない!本当に何もしてないんだ!信じてくれ!」
「国王陛下は貴様が所有していた剣が突き刺さった状態で死んでいた。聞けば貴様、暗殺者らしいな。何者かに国王暗殺の依頼を頼まれて実行したのではないのか?」
「確かに、俺は暗殺の仕事をしていた。だが今は勇者だ。もう暗殺者じゃあない!だから、誰にも依頼を受けてないし王をやったのは俺じゃあない!朝起きたら俺の双剣の片方がなくなってたんだ。きっと誰かが俺の剣を奪って王をやったんだ!」
「貴様・・・この期に及んでまだしらばっくれるつもりか!」
「おい、もういいだろ。さっさと戻るぞ」
「くっ・・・!」
そう言って、兵士たちはその場から立ち去っていった。
「クッソ!!」
怒りと悔しさに、壁に拳を叩きつける。
いったいどうしてこんなことになっちまんったんだ・・・!
俺がいったい何をしたって言うんだ!?
「畜生・・・!」
俺は・・・ただ神に選ばれたからじゃない。
あいつらの笑顔を守るために、勇者となった。
はっきり言って、金持ちの王族の連中なんかどうでもいい。
俺は勇者として魔王を倒して、国からたんまり金を頂いて弟たちと暮らせればそれでよかったんだ。
それなのに・・・こんなことってないだろ・・・
ズルズルと崩れる様に座り込み、あまりの悔しさに唇を噛み締めた。
それからしばらくして、階段を降りる足音が聞こえてきた。
足音はこちらに近づき、そこで止まった。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこにはエミリア王女が立っていた。
王女はにっこりと笑い、牢屋の中の俺を見ていた。
「災難でしたわね〜シュン様。まさかこんなことになるなんて思いもしなかったでしょうに。同情いたしますわ」
何だ?こいつの態度・・・
王が殺されたって言うのに、どうしてそんなに平然としてられるんだ?
・・・あぁ、そうか。
「アンタだったんだな・・・」
「はい?」
「俺の剣を勝手に持ち出して、王を殺したの・・・アンタなんだろ?」
「あら、気付いてしまいましたか。そう、私がお父様を殺しました」
「どうしてこんな事を・・・」
「あなたを、陥れるためですわ」
「は?」
「だってあなた、王女である私があんなに誘って差し上げたのに誘いに乗ってこなかったんですもの。こんな美しい私の誘いを断るなんて絶対あってはならないこと。だから、あなたには国王暗殺の罪を着せたのです」
「なんだよそれ・・・たったそれだけの理由で王を殺したって言うのか?」
「えぇ」
「ッ!クソ女が!」
「まぁ!美しい私に向かってなんて汚い言葉を!それに、そんな事言ってもいいんですかね?お父様が死んだ今この国を収める王はもういない。となれば、この国の権力はもう王女である私の物ということになります。障害が消えた今、あなたをどうしようが私の自由です。あなたを処刑することだって容易いのですよ?」
「くっ・・・!」
「まぁ、あなたには国王暗殺の罪に問われているし処刑は確実だけど。でも、今ここで私を抱いてくれるなら、処刑はなしにしてあげるけど」
「ふざけんな。誰がテメェみたいなアバズレイカれ女を抱くか!テメェを抱くくらいなら野郎に犯された方がまだマシだ!」
「!そう・・・それならお望み通りにして差し上げますわ」
王女は悔しそうな顔をしてそう言うと、手をパンパンと鳴らした。
すると、階段の方から鎖で繋がれた大柄の男を連れた兵士がやってきた。
鎖で繋がれた男の目は血走っていて息も荒く、涎を垂らしていた。
「紹介いたしますわ。ペットのエドガーです。薬漬けにしてあるのでもう自我はありませんが、常に発情していて何人もの女を狂わせてきました。あなたは、どこまで耐えられますかね〜?」
「ひっ!」
王女が俺の牢屋の鍵を開けて、扉を開けて男が中に入ってきた。
じりじりと男が俺に近寄ってくる。
「やめろ・・・!来るな!!」
「ぐっ・・・ああああああああッッッ!!!」