第四話 灰の勇者
クソッ・・・!
クソックソッ!!
どうして・・・どうしてこんなことになったんだ・・・!
俺はただ・・・国の為に勇者としての努めを果たそうとしていただけなのに。
どうしてこんな事になっちまったんだ!
これも全部・・・あの女のせいだ。
あの女があんな事しなければ・・・
俺は灰の勇者、ソン・シュン。勇者に選ばれる前は暗殺者として働いていた。
理由は単純だ。金が欲しかった・・・ただそれだけ。
世の中は平等じゃあない。食い物も服も武器も、人の命だって全て金で決められる。
俺には3人の兄弟がいて、家は貧乏だった、おふくろも俺がガキの頃に病気で死んじまった。
その病気は決して死ぬような重い病気じゃあなかったんだ。
だから俺は、大金を稼ぐ為に暗殺者としての道を選んだ。
自分の手が汚れようとも、残された兄弟の為に沢山金を稼ぐ。それが俺の生きる理由だった。
そんなある時、首筋に黒い花の紋章が浮かび上がった。
これは、勇者の紋章だ。一目見てそう判断した。
だが、こんな紋章は見たことがない。
勇者と魔王の戦いの歴史の本では、3人の勇者の紋章が載っていたのだが、こんな紋章は見たことがない。
それに勇者は3人だ。4人目の勇者が存在するなんて聞いたことがない。
だけど、こうして実際自分が4人目の勇者としているのだから認めざるを得ない。
俺が勇者に選ばれたと知った兄弟たちは、それはもう喜んでくれた。
「すごいや兄ちゃん!勇者に選ばれるなんて!」
「でも、しばらく会えなくなっちゃうんだよね」
「あ・・・」
「大丈夫だ。何もずっと会えなくなる訳じゃない。魔王を倒したら必ず戻ってくるさ。だから、それまでに待っていてくれ」
「兄ちゃん・・・」
不安そうに俯く弟の頭に手を乗せる。
「ソンウ、兄ちゃんがそんなだと他の弟たちが不安がるだろ?俺がいないあいだはお前が弟たちを守るんだぞ」
「・・・うん、分かったよ兄ちゃん!俺、待ってるから!」
「兄ちゃん!帰ってきたらいっぱいお話してね!」
「おう!」
こうして、俺は村の連中にも祝福され勇者としての努めを果たすために村を旅立った。
この時は、まさかあんな事になるなんて考えてもみなかった。
エフィシェント王国に到着し、王に会いにいくと俺の他にも3人の勇者が集まっていた。
俺が来た事で皆俺に注目する。
「そなたは・・・」
「俺は勇者です」
王の問いにそう答えると、周りがざわめきだした。
そりゃそうだ、何せ勇者は3人だけなのだから4人目の勇者などいるはずがない。
「おいおい、こんな田舎者が勇者って!」
そう言って近づいてきたのは、炎の勇者、ドルマン・ジョンソン。
炎の勇者らしい一つに纏めた赤い髪に、女にモテそうな顔つきの男だ。
「それに勇者は3人。お前知らないのか?4人目の勇者なんて聞いたことがない」
そう言うと、つけていた手袋を外し、俺に炎の勇者の紋章を見せた。
「分かるか?これが勇者としての証の紋章だ。本物の勇者なら紋章があるはずだ」
「・・・」
そう言われ、首に巻いていたストールを外し、首筋に浮かび上がった花の紋章を見せた。
それを見たドルマンは、驚きの表情を浮かべた。
他の連中も同じ反応だ。
「これで分かったか?俺もちゃんとした本物の勇者だ」
「なんと・・・勇者が4人も」
4人目の勇者に戸惑う王。
そこに、一人の女が現れた。
この女がエミリア・キャンベル。このエフィシェント王国の王女で、俺を陥れた女だ。
「良いではないですか父上。4人目の勇者がいようと、勇者であることに変わりません」
「ふむ・・・確かにそうだな。そなた、名はなんと申す?」
「ソン・シュンでございます」
「何の勇者だ?」
「・・・分かりません」
「そうか、なら灰の勇者はどうだ?」
「灰の勇者・・・ですか」
「気に入らんか?」
「いえ」
「では、3人の・・・いや、4人の勇者たちよ。何とぞこの世界を魔王の脅威から救ってくれ」
それが、全ての始まりだった。