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リトライチケット  作者: アクイラ(((・・;)
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第五フロアは救いが少ない件について   〜 音のない雷鳴 〜



   【プラットホーム】



 時は少し遡り。

 崩壊の足跡が近づく第2フロア『プラットホーム』をシノブは全力疾走で駆け抜けていた。


(・・・焦ったらダメなのは分かるけど)


 制限時間という枷が如実にプレイヤーを煽ってくるため、普段は冷静なシノブであっても例外なく焦りを見せていた。

 全力で駆けているシノブのMPは驚くべき速さで消費されていく。そんな中シノブの視界に数人のプレイヤーが映る。

 その内の1人に駆け寄り、


「・・・何してるの?」

「あなたは確か《神姫》の。実はさっき第1フロア『噴水広場』から逃げてきたんですけど、装備もアイテムもほとんど置いてきてしまって。崩壊に巻き込まれたプレイヤーも何人か見ました」

「・・・それは分かったけど、ここにいたら巻き込まれるよ」 

「大丈夫です」


 シノブは息を呑んだ。

 顔を上げた少女の瞳は生きる気力を完全に失っていたからだ。

 

「私はもう少ししたらログアウトします。そうしたら1日は生きられるでしょう?その間に家族にお別れを、」

 

 少女が次の言葉を紡ぐより早くシノブが頬を叩く。

 

「な、なにを」

「・・・選べ」


 冷たく、重い言葉が放たれる。


「・・・いまここで私に殺されるか、足掻いて上のフロアに行くか」

「私だって、あなたみたいな才能があれば生きようと思いましたよ!でも私の【スキル】も何もかも闘いには向かないし、」

「・・・無駄口を叩くな。・・・死ぬか生きるかを選べ」


 幾度と繰り返した問答。

 もはや彼女に他者を気遣うだけの余裕はない。

 今の彼女を繋いでいるのは利害のみ。最愛の者達を生かすために他者を道具としてしか見ていない。

 その為、生きたいと願い、協力し合う気のある者以外は引導を渡す気でいた。

 

「何やってんだ!」


 今にも振り下ろされそうな刀を握る手を横から掴みかかる男性プレイヤー。殺気の籠った目のままその人物へ目を向けると、そこに見知った顔がいた。


「・・・ヒムロ?」

「やっぱりシノブだったか。どうしたんだよそんな顔して」


 シノブから見たヒムロの顔はとても寂しそうな顔をしていた。

 そこで改めて自覚する。

 自分を本当に繋ぎ止めていたものの存在を。


「・・・涼真が、倒れちゃったぁぁ」

「涼真?」


 突然溢れ出すシノブの涙にヒムロも女性プレイヤーも驚きを隠せない。だが、殺気は薄れ涙を流す彼女の姿は彼女をただの女の子に映させた。

 自分達の前を歩き先導してくれていたトッププレイヤー達は自分達と何も変わらない巻き込まれた存在なのにも関わらず彼女達に重荷を背負わせてきた。

 そんな彼女の泣き声に他のプレイヤーも顔を覗かせる。

 

「シノブ、何があった?涼真ってのは」

「・・・レイ、ンだ、よ」

「ーーーッ!?」


 その場にいた全員が目を丸くした。

 このゲームに参加しているプレイヤーならその名前を知らない者などいない。

 トッププレイヤーの中でも、全プレイヤーの精神的な支柱になっていたプレイヤー。それが倒れたということが何を示すかは目の前のシノブを見れば一目瞭然だったからだ。


「どうすりゃいい?」

「・・・鍵が、欲しいけ、ど。・・・時間、も人員も足ら、ない。・・・どこに、あるか、も分からない」

「鍵ってのは『謎の鍵』だな。俺は仲間と『噴水広場』を虱潰しに探したけどなかった。このフロアも粗方見たけどそれらしいもんはない。『キャンドルシティ』に向かおうぜ」

「・・・でも、見落としがあったら」


 そこまで来てシノブは気づく。

 

「・・・【叡智の書】、そう【叡智の書】」

「???」

「・・・あれは《智天使》が持ってた。・・・でもドロップアイテムになってる可能性も」

「おいおい勝手に整理すんな、教えろ」

「・・・所有者が分かってればどこにあるか分かる【EXA】があるの。・・・でも所有者は『☠GAMEOVER☠』になってる。・・・ヒムロならどうする?」

「どうするって言われても無いもんは探せねぇだろ。でも待てよ。攻略に必要ならまた出てくるんじゃねぇか?どこで手に入れたんだよ?」

「・・・第2フロア《BOSS》ネビュラスマーメイド討伐報酬」


 そこまで言われればヒムロでも分かる。

 《BOSS》の中でも、とりわけ時間の掛かるネビュラスマーメイドの攻略。音階になぞらえたモンスターを撃破した上で状態異常を引き起こす厄介な相手。

 

「・・・速攻で倒すとしても《BOSS》撃破にはどうしても頭数がいる。・・・でもヒムロがいるなら思ったよりも早く勝てるかも知れない」

「俺の【スキル:唯我独尊】なら状態異常を無視して攻撃できるからな。周りのモンスターは」

「・・・私だけじゃ手が足りない。・・・だから《BOSS》のいる場所に向かう途中で拾えた人を引き入れる。・・・生きる気がある人以外は足手まといになるから」

「崩壊の速度が分からないが悠長にはできねぇ。急ぐぞ」

「・・・私が先に挑んでるから後から追いかけて」




「・・・さてと」


 【特殊武器:春雷】を携え、たった1人で《BOSS》に挑む暴挙に出ている。

 HPとMP共にアイテムで全回復済み。

 

(・・・幸いなのは《BOSS》のいる場所から始められることだね。・・・前回のような階段を登る必要がないのは体力的にも助かる。・・・そして攻略方法が音階の順番にモンスターを撃破しネビュラスマーメイド本体を倒せばいい。・・・はずだったよね)


 シノブの視界、そこにいるのはネビュラスマーメイド本体のみ。

 だが前回と異なる点が1点。

 ネビュラスマーメイド本体の囲むように8つの球体が浮かび上がっている。


「・・・攻撃パターンが変わった?」


 球体の1つがネビュラスマーメイドの生み出した水柱の着弾した瞬間、四方八方にその進路を変えてくる。

 

「・・・【スキル:神速】」


 速度を持ってこれを回避したシノブはその球体の正体を看破する。球体の正体はネビュラスマーメイドの攻撃を多方向へ拡散する媒介だと。事実球体同士を経由して出来た水柱の繋がりは檻のようにシノブを囲む。


「・・・ギミックが多少増えたとしても関係ない。・・・【スキル:韋駄天】。・・・【スキル:神姫】」


 シノブの保有する速度強化の三重掛け。

 それは第2フロア《BOSS》であろうとも圧倒し、水柱の檻を掻い潜りダメージを与えていく。

 MPに関してもポーションで回復を取りながら攻撃できるほどに余裕がある。

 そうして残り3分の1ほどになったネビュラスマーメイドが新たな武器を手にする。

 注視したした武器には【特殊武器:反転聖杯】の文字。


(・・・反転!?)


 ネビュラスマーメイドが握る聖杯に水柱が集まり、溢れた瞬間にシノブの身体が重くなったような錯覚に陥る。

 自分だけが世界に置いていかれるように、周りの景色が自分より速く動いている。

 そんなシノブの横腹を水柱が貫く。


「がはっ、」


 ダメージはそこまでだが、水柱は1本ではない。

 連撃がシノブを貫き続ける。

 

(・・・このままじゃマズい。・・・)

 

 絶え間なく迫る水柱。

 以前の水柱の攻撃は複数名いたために標的が散っていたのだと今頃になって理解したシノブは愛刀を放り、ポーションを宙に投げ、【スキル】を発動する。


「・・・【スキル:韋駄て】」

〈〜♪〜♪〜♪〉


 まるでシノブの【スキル】発動に合わせたようにネビュラスマーメイドが歌声を響かせる。

 それは麻痺状態を誘発する歌声。

 相手の動きを封じた上で容赦なく水柱はシノブに迫る。

 

(・・・初見なら死んでたね)


 宙に放り投げたポーションがシノブに当たったことで砕け、中に入っていた状態異常回復の液体を被る。

 そして即座に【スキル:飛雷神】で水柱を躱し、体制を整える。

 

「・・・やっぱり1人じゃキツいか」


 アイコンを操作して長刀を左手に装備。

 能力は付与していないただの使い捨ての武器だが、これはシノブの見出した勝ち筋。

 フィールド上空に【特殊武器:春雷】を投げ飛ばし天井に突き刺す。そして空いた手にもう1本長刀を握る。


「・・・さぁハメ殺しの時間だよ」


 二刀を構えシノブは走り出す。

 

「・・・【スキル:神速】。・・・【スキル:神姫】」

〈〜♪〜♪〜♪〉

「・・・【スキル:飛雷神】」


 転移先はネビュラスマーメイドの頭上。

 そこから身動きは取れないが刀を持った腕が先に重力によって落ちるため、結果的に落下を利用した攻撃として【スキル】によって速度の上乗せされたダメージが入る。

 だが歌を止めればシノブが【特殊武器:春雷】を持って更に速度を上げて攻撃を仕掛けてくるのを学習したネビュラスマーメイドは

最後の武器を取り出す。

 聖杯が水で満たされその効果を発揮する。

 ドクンッ!とシノブの体が再び妙な感覚に陥る。


「・・・私は2度も同じ攻撃はくらわないよ」


 聖杯の水が溢れる瞬間に合わせてシノブはアイコンを操作して自分の装備を変更していた。

 頭部:なし

 衣装:鈍重のタイツ(上)

 両腕:鈍重のタイツ(中)

 腰 :鈍重のタイツ(下)

 靴 :鈍重の金靴

 経験値を上げる代わりに攻撃力と速度を著しく低下させる【特殊武器】たが、今のシノブにはこれでいい。

 

「・・・聖杯の能力は【スキル】による効果のみを反転させるんでしょ?・・・ならこれで終わり!」


 歌声による状態異常には上空からのハメ殺し。聖杯による反転には装備の変更による対処。

 完全に場を制したシノブだが、相手の一挙手一投足に目を配り続け、アイテムの投擲や装備の変更も指先1つ間違えられない状態は神経を擦り減らす。

 

「・・・【スキル:神速】」


 紫電一閃。

 フィールドに一本の稲妻が走り、ネビュラスマーメイドのHPが0になる。

 このゲーム始まって以来の快挙となる《BOSS》の単独撃破がなされた。

 

「シノブ!」

「・・・ヒムロ。・・・遅いし、その左手どうしたの?」

「ごねてたプレイヤーと争ってたら欠けただけだ。それより遅いってまさか、倒したのか?」

「・・・ブイ!」


 指を2本立て勝利宣言。

 ヒムロが連れてきたであろう他のプレイヤー達もゾロゾロとフィールドに入ってくるが、どうにも顔が険しい。


「よし。でも急ぐぞ。崩壊速度が上がってる」

「・・・分かった。・・・いそ、」


 シノブの視界がグラつく。

 

「おい!大丈夫か!?」


 倒れるシノブを間一髪で受け止めたヒムロから見たシノブは鼻血を垂らし、目の焦点が定まっていなかった。

 体が小刻みに震え、両手に握ってる長刀は手から滑り落ちた。

 それに呼応するように頭上から崩壊した瓦礫が落下してくる。


「・・・ちょっと無理したからね。・・・でも狙い通りコレは手に入った」


 震える指でアイコンを操作し、討伐報酬で改めて出てきた【EXA:叡智の書】をヒムロに押し当てる。


「・・・ヒムロ。・・・これドラに渡してもらえる?」

「ふざけんな!なに諦めた顔してんだよ!」

「・・・自分の体は自分で分かるよ。・・・私ね、体弱くてそれを馬鹿にされて家から出られなくなっちゃったの。・・・それでゲームにのめり込んでた時にね。・・・友達が欲しくて頑張ったら強くなりすぎちゃって。・・・最初は仲良く遊んでた人も段々私とやりたがらなくなって、1人になって。・・・でも涼真と竜也だけは離れないでいてくれて。・・・美晴も。・・・だからね?お願い」


 もはやその手には力はなかった。

 ただ伸ばしているだけで本を受け取ったら崩れてしまいそうなほど。無理もない。先に限界を迎えただけで、雨宮より雪原が疲労していないことなどありえなかった。

 そこに追い打ちをかけるように《BOSS》の単独撃破。

 頭も体もとうに限界を超えていた。

 

「・・・ドラは信じてくれないかもだし、何かに使えるはずだからコレも」


 【特殊武器:春雷】と『ROLAND商会の紹介状』が出現するがヒムロはそれを拾わない。

 崩壊速度が更に加速し床が抜け始め、降ってくる瓦礫が進路を阻んでくる。

 

「そこのアンタ」

「は、はい」

「悪い。このアイテム達をもってドラゴンってプレイヤーに渡してくれねぇか?」

「???」

「頼む」


 逃げるプレイヤーの1人を呼び止め無理矢理にアイテムを持たせるヒムロ。そのプレイヤーは先程シノブが生死の問いかけをしたプレイヤーだった。


「分かりました!任せてください!でもお2人も行きましょう」


 手を伸ばした少女の腕を無慈悲にも降ってきた瓦礫が阻む。

 

「行けっ!」

「でも!」

「行ってくれ!」


 瓦礫による粉塵が晴れると少女を突き飛ばすために伸ばした右腕の肘から先が欠損してしまっていた。

 アイコンを操作するための指先。

 両手が欠損したヒムロはもう回復のためのアイテムを取り出すこともできない。

 そんなヒムロの瞳から放たれた覚悟が少女を走らせた。


「行ってくれたか」

「・・・置いていってよ。・・・あなただけなら走れるでしょ?」

「バカ言え。惚れた女を放っていけるほどクズじゃねぇよ」

「・・・カッコつけても私、好きな人いるよ?」

「安心しろ。そんなんで諦められらほど頭良くもねぇよ」


 崩壊が彼らを飲み込んだのは、思いを託された少女が光の渦を通ったのとほぼ同時だった。





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