第五フロアは救いが少ない件について 〜 我が道は修羅の道 〜
【極彩迷宮】
何重にも重ねられた【六花亥光】によって磔状態にされた《適応獅子》と、背後にいる残ったの9名を庇いながら剣を地面に突き立て、片膝をつくYAIBA。
《適応獅子》が口に咥えた剣を輝かせた瞬間、YAIBAも行動を開始する。鏡を叩き割ったような音と共に砕ける氷の花弁が、再度展開される。
「これ以上は殺させるわけにはいかないでござる」
一瞬でもタイミングを間違えればフィールド内を駆けてプレイヤーを斬殺していく目の前の獅子。
気配感知の【陸の型 観音白雪】もフィールド全域に範囲を伸ばさざるを得なくなっている。
そしてここまで一気にプレイヤーが減少したのには《適応獅子》唯一にして絶対の【スキル】にあった。
「しまっ、」
それはYAIBAの瞬きと額から落ちる汗が偶然にも瞳に触れてしまった瞬間が重なったために起きた、ほんの僅かな隙だった。
咥えている剣を宙に放り投げ、それが地面を突き、吸い込まれるように沈んでいくと代わりに10本の剣が出現する。
そして獅子の上空に浮かぶ【スキル:十剣物語】。
「【漆の型 霜突き・牛鬼 氷輪】」
YAIBAの背後に出現する7本の氷の剣。
その内の1本を握り、もう片方に【特殊武器:雪羅】を握ることで背後に残る6本と合わせた変則八刀流。
闘いは《適応獅子》から始まる。
一振りの剣が主の元に飛来し、それを咥えた瞬間《適応獅子》の身体がその場から消え、次の瞬間にはYAIBAの十字に構えた剣に凄まじい衝撃が襲いかかる。
「まずは1つ」
攻撃を終えると砕ける剣。
だが次の剣が飛来し、咥えられ、横薙ぎに振るわれた斬撃が飛んでくる。
「【弐の型 白茨・白蛇】」
剣を滑らせて流れるように捌いていくなか、3本目の剣を咥える《適応獅子》。咥えられたのは身の丈は軽く超えるほどの大剣。
それは極大の斬撃を飛ばし、圧倒的な質量でYAIBAに迫る。
対して即座に【雪羅】を手放し、無手状態でのみ発動できる【スキル:流水】で上空に跳ね飛ばす。
《適応獅子》の3本目の剣が砕け、4本目が咥えられる。
すると《適応獅子》の姿が7体に増える。
「ここまでは」
ようやく一息つくように、待機していた氷の剣を飛ばして6体の分身を消滅。
思い出したように、そして悟られぬように深く呼吸を整える。
一振り目ーーー神速の抜刀術。
二振り目ーーー多方向からの斬撃。
三振り目ーーー圧倒的な威力。
四振り目ーーー分身による撹乱。
どれも攻略する度に砕けるため使い捨ての【スキル】を内包したアイテムなのだとYAIBAは推察。そして残り6本の剣による攻撃を対処することと、剣が砕ける度に一定量減少する《適応獅子》のHP。
それらを踏まえた上でYAIBAが導き出した答え。
「やはり特殊勝利条件の《BOSS》でござるな」
最高到達が八振り目。
だがプレイヤーが死ぬ度に《適応獅子》のHPが満タンまで回復してしまうため、必然的に全員を庇う事を余儀なくされている。
そして五振り目ーーー。
《適応獅子》の背中から隆起したのは、剣と呼ぶにはあまりにも不格好な形をしていた。
大砲のような見た目とその下にいる獅子を覆うバリア。
「皆さん、お願いします!」
周囲に飛散する4枚の極小円盤型ターゲット。
パリンッ!と他のプレイヤーの対応も早く3枚を迅速に破壊。
だが残り1枚の速度が異様に上がり始める。
(早くしないとっ)
ターゲットを時間以内に破壊しないと放出されるレーザー光線。
最初はターゲットから攻撃が来るかと待ち構えていたところ、レーザー光線によって7名が塵と化した経験からYAIBAは狙いを定め、
「【捌の型 銀嶺朱雀】」
抜刀による剥離した斬撃がターゲットを破壊し5本目を砕くと同時に《適応獅子》に向かって駆けるYAIBA。
既に次の剣が咥えられている。
それも二振り同時に。
片方の剣が砕けたと同時に麻痺状態を示す⚡️マーク。
(強制的な状態異常の次は)
次いで7本目が砕け、上下左右前後の6方向から迫る剣。
「【拾弐の型 六花亥光】」
同じく6方向から斬りかかる剣技ですぐさま叩き落とし、7本目までを攻略。
「走って!」
直後、全プレイヤーに照準を合わせた重力の塊が落ちる。
それは巨大なクレーターが出来上がるほどで、移動が間に合わなければ為す術なく死に至らしめるものだが、2度目ということもあり数人がダメージを負いながら生還を果たす。
五振り目ーーー制限時間。
六振り目ーーー強制状態異常。
七振り目ーーー多方向からの斬撃。
八振り目ーーー重力による圧殺。
残り2本の攻略に対して、プレイヤー残数は9名。
【伍の型 雪原の花園】で負傷プレイヤーの回復をするが、その場しのぎにしかならないことは理解しているYAIBAは、ここで倒し切ることを決断する。
「【拾壱の型 白刃雪鼠】」
残るMPのほとんどを費やし、刃を宙に漂わせる。
先程までの剣への対処に【拾壱の型 白刃雪鼠】を使わなかったのは燃費の悪さ一点。
そしてそれが結果として九振り目ーーー不可視の斬撃から全員を守る盾になった。
初見殺しであった不可視の斬撃を幸運にも防いだYAIBAは最後の剣へと神経を尖らせる。
構えは居合。
【拾弐の型 白刃雪鼠】の幕を周囲に展開し、触れた瞬間に抜刀。
YAIBAは理解している。
《適応獅子》が自分しか狙わないことを。
「速さ勝負でござる」
心を殺し、五感全てを目の前の獅子に注ぐ。
獣の姿が消えた瞬間、目の前に張っていた幕が素通りしたかのように斬り裂かれたと同時に【雪羅】が振るわれる。
キンッ!と鋼の撃ち合う音が周囲を埋め尽くし、やがて訪れた静寂の後に1本の剣が砕けた。
「ーーー次は負けないでござるよ」
紙一重。
《適応獅子》最後の一振りは何の能力も持たない純粋な力比べをするものだった。様々な能力を有する剣を持つ獅子が最後に用いたのは敵への敬意を込めたもの。
まさに真剣勝負と呼べる闘いにおいてYAIBAは敗れた。
彼女は【スキル:龍眼】によって瞳に龍を宿し、未来視を行ったことで勝利を収めたからだ。
そして彼女はもう1つ真剣勝負のために人の道を外れた。
この真剣勝負は、あくまで《適応獅子》の狙いがYAIBA自身に向いていなければならない。その為彼女は【白刃雪鼠】で他のプレイヤーの命を絶ち、フィールド内に自分と獅子の一騎打ちの場を設けたのだ。
結果としてそれは実を結び、地面に倒れながらも獅子の剣を破壊し第6フロアへの参加券を手に入れた。
目的のために手段を選ばなかった彼女はまさにこう呼べるだろう。
ーーー《魔王》と。




