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リトライチケット  作者: アクイラ(((・・;)
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第五フロアは救いが少ない件について   〜頂の景色〜



   【素流道場】


 畳の香りが鼻を抜ける。

 どこか懐かしい感覚を呼び起こされたシルファの前には、《武神》が正座していた。

 

〈まぁ座れ〉

「、、、まぁ座れ?」


 思いもよらない発言にシルファは身体の力が抜ける。

 他のプレイヤー34名も動揺が隠せていない。いままでの敵は顔を見た瞬間イコール戦闘開始だったため。当然の反応だろう。

 《武神》に倣うように正座し、全員に差し出された緑茶を啜る。


「はっ!お前らおかしいんじゃないのか!?敵から差し出されたモン飲むとか!毒とかに決まって、」

〈安心しろ。未熟な身ながら《武神》を拝命しているオレにも誇りくらいある。やるならばこの拳でやるさ〉


 豪快に緑茶を飲み干し、軽く受け流すと、馬鹿にされたと感じたのか先程声を上げたプレイヤーが刀を取り出し斬りかかる。

 だがその刃は《武神》に届かず紙一重で躱され、その勢いを利用したのかプレイヤーごと後ろに投げ飛ばされる。


「【流水】!?」

〈【流水】を知っているのか。貴様も武術家か?〉

「いえ、私の仲間が使えるというだけで私は使えません。私は剣士です」


 自身の【特殊武器∶天鏡剣】を取り出し《武神》に見せつけるように鞘から刀身を見せる。

 

〈僅かだが闘気もある。闘いながら成長する者もいる。ではそれにふさわしい舞台を整えよう〉


 パンッ!と柏手が打たれる。

 一瞬の浮遊感。

 すぐに落ち着いたが、次には重圧がのしかかる。

 《熾天使》にも似た重圧、一度経験したシルファであってもそれは変わらない。

 だが経験者と未経験者は違った。

 シルファが辺りを見渡すとほとんどのプレイヤーは重圧に負けて膝をつき、必死の思いで呼吸をしようと胸や首を押さえている。


〈この程度の殺気を飛ばしただけで、嘆かわしいことだな〉


 《武神》は正座したまま。

 不動でありながら、一瞬にして場の制圧を完遂していた。


〈さて、まともに動けそうなのは貴様だけだぞ?やるか?〉

「・・・・・」

〈どうした?まさか怖気づいたか?〉

「お話ができそうなので聞くんですけど、あなたは何のために闘うんですか?」

〈そうだな。適当な設定を植え付けられ架空の存在である某の生きる意味を見出すのであれば死なぬこと。だがゲームの登場人物である某は倒される運命。ならば己が存在を刻むにふさわしい相手と相見えることだけだ〉


(随分とメタ的な発言だけど、自我がありそう)


 でも、と立ち上がり剣を構える。

 

「死ねない理由なら私にもある」

〈なら始めようか。己の存在を相手に刻む闘いを〉


 対して《武神》の構えは先程【流水】を発動させた脱力。

 畳を踏みしめ、勢いよく駆け出し、下から上に斬り上げる。

 脱力から流水が如く受け流そうとする《武神》だが、その周囲に陰りが差したのを感じ、半身よじると雷が落下した。


「もらいました!」


 不意打ちによる《武神》の体制をずらしたことと、落下する雷を【天鏡剣】で受け止め帯電させることに成功したシルファは全力で剣を振るう。

 

〈【スキル∶神楽】〉

「なっ!」


 半身よじった回転をそのままにシルファと背中合わせになり、そのまま背後を取る《武神》。

 

〈【スキル∶紅蓮】〉


 纏っている闘気が拳に集中し、赤く染まる。

 完全に崩された体制。

 《武神》の容赦ない拳が叩き込まれる。

 受け身を取る余裕もなく、背中からメキメキと嫌な音が鳴りながら道場の天井、壁、畳が高速で視界を駆け抜けていく。


〈【スキル∶紅蓮】〉


 再び赤く染まった闘気が拳に集中する。

 

(なんですかあの威力。目の前で爆発が起きたのかと思うくらいなんですけど)


〈先に言っておくが某の【スキル】と呼ばれるものは3つだけだ。【流水】・【神楽】・【紅蓮】。某が修練を重ねて辿り着いた究極系だ〉


 それは実にシンプル。

 来た攻撃を受け流し。

 捌き切れなければ躱し。

 最たる一撃にて屠る。

 こと肉弾戦等において、不要なものを排除した洗礼された動き。

 だが。


〈流石に簡単にはいかないか〉


 《武神》の背中に焦げたような痕がついていた。

 それは対処できないと判断したシルファが苦し紛れに放った雷。

 落雷の座標も威力も不十分であったため、《武神》にとっては微々たるものだが、確かな一撃。


〈あの一瞬の攻防でよく反応したな。目がいいのか〉

「次は確実に当てます」


 【天鏡剣】の効果を広げ、自身の半径1メートルから3メートルを豪雨で覆う。豪雨の範囲内だった《武神》の視界を妨げる。

 そして突きの動作から放たれた雷を躱そうとした《武神》は豪雨の範囲外に逃れようと走るが、雷の速度には勝てないと悟り、倒れているプレイヤーが持っていた剣を手に取り、雷が触れた瞬間に大きく後ろに投げる。

 避雷針の要領で後ろにいなされる雷を尻目に豪雨の範囲外へ到達する《武神》を見てシルファは驚愕する。


「これが《武神》」


 姉であるフィロリアも肉弾戦等においては《十傑》で頭一つ抜けていたが、これはまったく違うもの。

 荒々しく激流の連打だったフィロリアとは正反対の武術。

 

「【スキル∶天候操作】」


 距離が取られたことはデメリットだけではない。

 それは十分な溜めの時間が設けられているとも取れる。

 シルファは天候操作を行い、環境を整える。常に自身にとってベストな環境で闘える強みを活かし剣を握る。

 そして《武神》が動く。

 再び放たれる直前の雷に対して、先程と同様に他のプレイヤープレイヤーの武器で捉えてそのまま後ろに流し、歩みを進める。

 

「【スキル∶天候操作  暴風】」


 次いで竜巻を発生させ、周囲の物を巻き込み強引に叩きつける。対して《武神》は、まるで結び目を解くように【流水】で乱雑な気流を捌いていく。

 

(これでもダメなの)


 自身の剣技の拙さを理解しているシルファは、どうしても【スキル】に頼ってしまう。そして彼女の中で闘い方が確立されるものの、豪雨で目眩まししてからの雷撃と竜巻の2パターン。

 彼女の戦闘経験の少なさもだが、幸か不幸か彼女の周りがサポートしていた事が1番の要因となってしまっている。

 無茶をしても支えてくれた仲間の存在に、悪く言えば依存してしまっていたのだ。


〈どうしたぁ!この程度かぁ!〉


 徐々に弱まる竜巻。

 近づいてくる《武神》。

 

(え?)


 無意識だった。

 シルファですら自身の足が後ろに引いてしまったことに、豪雨で出来た小さな水溜りに足が濡れるまで気づいていなかった。

 

〈見込み違いだったか〉

 

 竜巻を捌き終えた《武神》は、落胆の声を漏らす。

 遊んでいたわけではなく、強者との闘いを楽しんでいた《武神》は、目から容赦が無くなる。

 背筋に悪寒が走る。

 シルファに合わせて抑えていた闘気が、溢れ出し楽しむ余裕すら無くして全力で殺意を向けてくる《武神》を見た瞬間、シルファの中で何かが切れた。

 膝が思い出したように震えだし、剣を握っている両手の感覚も薄い。近づいてくる《武神》を目で追う以外のことが出来なくなっている。

 呼吸すら意識してようやくできる状態のシルファの目の前には既に拳を構えた《武神》。

 

〈さらばだ、名も知らぬ剣士よ〉


 ゆっくりと迫る拳。

 極限の緊張状態によって引き伸ばされた時間は、思考を加速させるが今のシルファにとっては死へのタイムリミットを長く感じさせるだけの絶望。

 だがまたも無意識に、彼女の口は言葉を紡いでいた。

 

〈ーーーッ!?〉


 拳で壁に激突するシルファと、妙な手応えを感じ目を見開く《武神》。

 

〈何をした!?〉

「・・・・・」


 壁に埋まったままのシルファは返事をしなかった。

 ゆらりと立ち上がったシルファの目は先程までとはまるで違っていた。


(身体がおかしい。ふわふわしてる。それより私生きてる?)


 現実味のないシルファは意外なことに冷静な視野を持てていた。

 何故か追撃に来ない《武神》。

 《武神》の踏みつけや、シルファの攻撃によって悲惨になった床や壁。

 パリンッ!と鏡を叩き割った音。


(でも、確かに聞こえた)


 その頬を伝う一筋の涙。

 受け継がれ、新たに獲得した3つの【スキル】。

 

「ありがとう、お姉ちゃん」


 体表に出現した薄い膜が《武神》の攻撃を和らげ、即死だった攻撃からの生還を果たし、さらに彼女の半径1メートルの地面が輝き、彼女を照らし始めた。 

 【スキル∶聖鱗】と【スキル∶聖域】。

 《拳聖》と《聖女》の残した贈り物が、彼女の目に光を戻す。

 

「【スキル∶剣聖】」


 取り出したるは【聖剣ヴェルダンディ】。

 彼女の背後で車輪のように円を描いて浮遊する5本の【聖剣】は、シルファが振り上げた手を下ろした瞬間、意志があるかのように《武神》目掛けて飛来する。

 

「【スキル∶天候操作  豪雨】」


 加えての目眩まし。

 《武神》は頼れない視覚を閉じ、気配のみで迫る【聖剣】を手刀で流し、【スキル∶神楽】で避けていく。


〈人が変わったような技のキレ。何か掴んだか〉

「【スキル∶天候操作 轟雷】」


 耳を劈くような雷鳴が道場内に響く。

 それは威力スタングレネードにも似た閃光で周囲を照らし、目を閉じていた《武神》の目蓋を貫くほどには効果があった。


〈今ので目と耳は完全に封じられたか。だが条件は貴様も同じはず〉


 《武神》は気づいていない。

 シルファが発動させた【スキル∶聖域】の効果がいまだに発動し続けていることを。

 その効力はダメージ以外の全ての効果から術者を守ること。

 毒や麻痺などの状態異常を完全無効する【スキル】は、閃光の目眩ましや、轟雷の聴覚阻害なども効かなくなっている。

 他対一には向かないが、一対一においては優秀な【スキル】。

 デメリットとして回復なども無効化してしまうが、それでも今のシルファにはベストな選択と言えよう。

 そして、彼女の発動させ続けている【スキル】はもう1つある。

 

〈これは〉


 それは小さな違和感だった。

 チャプッと聞こえなくなったはずの水音が彼の耳に届く。

 それは膝下にまで届いている、【スキル∶豪雨】によって溜まった雨だった。

 

〈貴様、まさか!〉

 

「【スキル∶天候操作  豪雨】」


 重ねがけされた豪雨によって水位が高くなる速度が上がる。

 シルファは先ほどの攻防で家部や床に穴が開かなかったことから、部屋を水で満たし、《武神》の溺死させることを選択した。

 そうでなくとも肉弾戦等を主とする《武神》の攻撃は水の抵抗を受けて弱まる。

 あとは根比べ。

 どちらの酸素が続くかの勝負に持ち込もうとしていた。

 

〈あの状態からこんな展開になるとは露にも思わなかった。だが、部屋が水で満ちる前に貴様を殺せばこれは止まるのだろう?〉

「そうです。だから動かないでください」


 振り上げられた【天鏡剣】。

 それは【豪雨】によって生じた雨雲に稲妻を宿し、無差別に振り注ぐ。

 シルファも《武神》も、その他のプレイヤーも関係なく、豪雨で溜まった水を伝って炸裂する。

 中には雷の効果で麻痺状態になってるプレイヤーもいる。

 《武神》といえどもそれは例外ではなかった。

 低確率とはいえ、麻痺状態を引き起こし数秒行動不能になった彼は苦い顔をする。その間にも水位は上がり呼吸ができるタイムリミットが迫り、飛来する【聖剣】がダメージを稼いでいく。

 

〈この状態では周囲すべての【聖剣】に対処するのは無理だな。認めよう。そして名を聞かせてくれるか〉

「シルファです」

〈ではシルファ。某もタダでやられてやる訳には行かぬ。精一杯足掻かせてもらうぞ〉


 

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