第五フロアは救いが少ない件について 〜 孤独の魔王 〜
【ドリームエデン】
そこはもう地獄だった。
第1フロア『噴水広場』崩壊の報せを受け、ゲーム全体のタイムリミットが確実に近づいていることをプレイヤー全体が理解し始めた。
しかし現実は残酷。
いままで他者に頼り切っていたプレイヤーは、そもそもの解決策を知らず、知っているプレイヤーはJUNやソラの行動から『謎の鍵』の存在を知ったが彼らは知らない。
残り4本の内、すでにレインが2本、そして、
(どうしよう)
隠し持っていた1本を『所持項目』で確認していたシルファは協力体制にあった者達にも言えずにいた。
姉達との死別という、タイミング的に難しい状態だったとはいえ、《BOSS》戦への参加資格を有している事実。
「そういえば残りの【EXA】は集めなくていいんでしょうか?」
ネットの考察班のおかげである程度既出のアイテムやクエストはまとめられていた。
レインの持つ短剣型【EXA∶王家の威光】。
ユーリの持っていた本型【EXA∶叡智の書】。
アラクネに使用された十字架型【EXA∶代命十字】。
ソラの持つ栞型【EXA∶不在の免罪符】。
復活や強制ログアウトなど破格の能力を有する【EXA】はこのゲームのロゴにもなるほど重要なもの。
「・・・たしかに無視できることじゃない。・・・残り2つの【EXA】を手にできれば有利に攻略を進めるのは間違いない」
「でも悠長に探す時間はないでござる。残り2本の鍵を諦めるのも視野に入れたほうが良いかもしれぬ」
「お前ら!」
ドラゴンの合流。
現実世界とゲーム世界との情報の擦り合せ。
「こうなったら役割を分けよう。攻略組と探索組。崩壊し切る前に見つけ切りたいからシノブは探索でもいいか?レインから1本預かってるからこれで1人を先に向かわせる」
「・・・大丈夫。・・・でもドラの話が本当なら少しでも早く第6フロアにプレイヤーを送り込まないといけなくない?・・・YAIBAを向かわせたいけど、さすがに1人じゃ勝てないでしょ?」
「相性もありましたが《熾天使》が異常なだけ。拙者1人では確実性はないでござる」
「でもやるしかないんですよね」
シルファは自身の持つアイテムを取り出す。
「この1本とレインさんから預かってる1本で私達は先に向かいます。必ず追いついてくださいね」
交わされるハイタッチ。
誰も言葉にしなかったが彼らは全員気づいていた。
『入場券』は《熾天使》が1枚、そしてもう1枚を巡ってソラやゲンが交戦中。つまり残り4枚。この場にいる4人とレインでは1人余ってしまう。
それを承知でYAIBA、シルファが扉に向かい始め、姿が見えなくなった頃、
「気づいてたろ?」
「・・・シルファの鍵?」
「これで残り1本を探すことになったわけだが、涼真を生かすなら俺か忍が死ぬことになる。ジャンケンでもするか?」
「・・・ドラが生きて。・・・いまの私があるのは二人のおかげだから。・・・でもまずは『謎の鍵』を手に入れないと」
「そうだな」
ゆっくりと飲み込んだ言葉。
2人はあえて口にしないが確実に2人のうちどちらかが生き残れる保証はない。
だが2人とも共通の認識は持ってもいた。
自分が死ぬとしても隣の人物だけは生かそうと。
雨宮、天童、雪原の関係性は一朝一夕のものではない。
3人が組んだ際の瞬間火力は、かの《黒龍》を圧倒するほど。
「行くか」
【ドリームエデン∶扉クエスト前】
「ではご武運を」
「YAIBAさんも」
扉の前に立つと待ち構えていたかのようにプレイヤー達が集まる。もはや自力で鍵を見つけることを放棄しての他力本願だ。
YAIBAは、その現状を吐き気がするほどの嫌悪感を抱いていた。
自分達が比喩抜きで死ぬ思いで辿り着いた第5フロア。
ドラゴンの話を聞き、称賛は無く、むしろ罵声や責任を問う声が上がる始末。どす黒い感情が溢れ出しそうなのを堪え、愛刀に手を置き心を宥める。
別の『扉クエスト』ではいまなお闘うソラ達に視線を向け、彼らの行動はそのヘイトを一身に受けるための人身御供だったのではと感謝を向けていた。
《BOSSイベント:無限の修練》
『素流道場』に君臨する《武神》を倒せ!
※参加人数 無制限
※支給物資 体力ポーション(極)
MPポーション(極)
※ボスのいるフロア内以外での転移系の【スキル】や
アイテムは発動しません。
※《BOSS》討伐後、第6フロアへの入場券1枚がドロップ。
クエストを解放しますか?
はい or いいえ
《BOSSイベント:無限の剣成》
『極彩迷宮』に君臨する《適応獅子》を倒せ!
※参加人数 無制限
※支給物資 体力ポーション(極)
MPポーション(極)
※ボスのいるフロア内以外での転移系の【スキル】や
アイテムは発動しません。
※《BOSS》討伐後、第6フロアへの入場券1枚がドロップ。
クエストを解放しますか?
はい or いいえ
「ふむ《適応獅子》の方でござったか」
「交換します?」
(無限の剣成という名前から大量の剣を持った獅子?まさか二足歩行のライオンというわけではあるまい。《武神》は分かりやすい。おそらく肉弾戦。シルファ殿を生き残らせるなら)
「いえ、《適応獅子》の方を任せて欲しい」
「分かりました。では私は《武神》を倒してきます」
それぞれ『はい』を押し扉を潜る。
YAIBAの目の前に広がる広大な砂漠。《呪珠樹》のような森林はなく、ただただ果てしなく広がる大地には夥しいほどの刀剣が突き刺さっていた。
その中央に鎮座するのは機械仕掛けの獅子。
コバルトブルーの鎧を着込み、口に咥えられた1本の刀。
参加人数50名という小規模レイド。
「どこが『極彩迷宮』でござるか」
(見たところ顔見知りのプレイヤーはいないでござるな。ならば最初から全力で、)
「【陸の型 観音白雪・白虎】」
白い装束に身を包んで【雪羅】を構えた直後、自身の右腕が宙を舞っているのに気付いたYAIBAは目を丸くしていた。
驚く暇もない。
《適応獅子》はYAIBAの感知能力が捉えるよりも速く、駆け抜け際に腕を斬り飛ばしたのだ。
それだけではない。
YAIBAの延長線上にいたプレイヤー3人が既に『☠GAMEOVER☠』にされていた。
「《熾天使》やソラのせいで感覚が麻痺していたかもしれぬ」
そう。
本来《BOSS》戦は複数人の実力者で取り掛かって、犠牲を払いながらようやく掴んだもの。
序列1位のYAIBAであってもそれは変わらず、今までの顔馴染みがいないということは同時に何かあった際に誰の力を借りていいか分からないということだ。
即座にポーションを飲み回復し、形勢を整え、改めて自身の敵を見つめる。
すると《適応獅子》の後ろ足の大気が微かに揺らいでいるのが見て取れた。
「瞬間速度では勝てないでござるな」
YAIBAが看破したように、《適応獅子》は爆発的な加速をするために後ろ足に搭載されたブースターを用いており、そのクールタイムとして排気を行い、それによって大気が揺れている。
そして【陸の型 観音白雪】の感知を潜り抜けたことから分かるように《適応獅子》は、あらゆる状況に後の先を取る対応力を持った《BOSS》。
多彩な剣技で状況を打破してきた彼女に対する当てつけのような配役。
後の先を得意とするYAIBAと、後の先を常とする《適応獅子》。
氷で象った刀を生成し両手で構え、《適応獅子》の視線の先を結ぶように刀を十字に立てる。
そして。
「【壱の型 白狼】」
結論からすると、速度の一点においてYAIBAは《適応獅子》に勝てない。だからこそ、反撃の刹那を稼ぐために持てるすべてをフル稼働した。
身体強化を施し、対応力を上げるための二刀流、さらにバックステップでインパクトの瞬間も僅かにずらした。
それが功を奏し、両手に構えた剣を持った手が大きく上に弾かれるが、頬を刃が掠めただけに留めた。
「【壱の型 銀華白狼!】」
横を通り過ぎる突風を道標に、後ろを向き一気に距離を詰める。
クールタイムの間隙を狙い、ダイヤモンドダストを引き連れて駆ける《魔王》は一撃を力を込めて叩き込む。
「【拾弐の型 六花亥光!】」
《適応獅子》を中心に6つの花弁が開く。
身体と【スキル】をカバンが砕けるまで封じる最強の拘束【スキル】の1つ。
初めて生じた完璧な隙。
好機を見逃すまいと足に力を入れた瞬間、体に違和感があることにようやく気づく。踏ん張ろうとした足に力が入らなかったのだ。だがYAIBAは自身の状態を確かめようとした際に更に驚く。
YAIBAの左足が切断されていたのだ。
「【伍の型 雪原の花園・白羊】、【拾壱の型 白刃雪鼠】」
回復をしつつ、走れないことを諦めての遠隔攻撃。
距離があったため致命傷までといかないが反撃に転じることができたことで手応えを感じたYAIBAには高揚感すらあったが、彼女は後に知ることになる。
ーーーここで畳み掛けなかったことの後悔を。




