第一フロアが優しくない件について ~同盟関係~
「まさか女性プレイヤーだったとはね」
「は、はじめまして」
メールを送り、パーティーの顔合わせをと雨宮が提案しゲームの中とはいえ3人が出会った訳なのだが、どうにも気まずい空気が流れていた。
それもそのはず、死と隣り合わせである可能性が高まり下手な行動が命取りになるかもしれない状況で和気藹々(わきあいあい)としているほうがどうかしている。
「とりあえず、状況を整理しようか」
耐えきれなくなった雨宮が話題を提供。
しかし、3人とも始めたばかりのプレイヤー。
獲られる情報の差はたいしてない。それどころか、雨宮とアラクネにいたっては先程の『☠️GAMEOVER☠️』を、ナツキにより鮮明にさせてしまっただけだった。
「PKの利点がないってのは唯一の救いよね」
「PKってなんですか?」
「PK。私達プレイヤー同士で殺し合うことよ。幸いするメリットがないから大丈夫よ」
「それに良い知らせもあるぞ、【特殊スキル】を取得した」
「「おぉぉぉぉぉ!!!」」
事前の動画で考察され、かなりの盛り上がりを見せた【特殊スキル】。
イベントをクリアすると稀に取得できる【スキル】の中でも、更に希少な【特殊スキル】。
更なるイベントに進むために必須なものもあれば、プレイヤーの能力の底上げをするものなど、あって損することはない代物。加えて【特殊スキル】は所持制限がないため、可能な限り持っておきたい。
「【特殊スキル:王家の威光】。多分、王族との接点が持てるから上手くすれば後ろ楯として大きなアドバンテージだけど、下手すれば王族から追われる可能性があるかもしれない。まぁ『威光』って点から後ろ楯が既にあるのかもしれないけど」
「手探りで攻略情報0から始めるなんて、命がかかってなければ、しらみ潰しにいけるのにね」
「その分、俺達は人海戦術で情報を集めていく。あとはレベルと所持金集めだ」
今度の方針を粗方決め、リアルでの連絡先を交換。
次の集合時間まで、各自自由行動することで一旦解散することになった。
【雨宮家】
「およ?やっと戻ってきたかい」
「やはいぞ、このゲーム」
ログアウトし、ヘッドマウントディスプレイを外して開かれた視界には1人の少年がいた。
「そういうお前はログアウト早かったな、竜也」
「涼真。早速で悪いがやばいぞ」
少年はスマホの画面を見せてくる。
《速報ニュース》
本日、都内某所で《エンペラーオンライン》プレイ中だったと見られる男性が遺体として発見されました。当時、同棲中だったとされる交際相手が部屋を訪れると既に死亡したとのことで、犯人の行方を追っている状態です。
「大方の予想はしてたけど、やっぱ現実だよな」
「そういや、【スキル】どうした?」
「使う場がなかったな。1人絡まれたけど、発言しなかったしな」
「俺みたいに生成型にしときゃよかったな」
雨宮と同じく《エンペラーオンライン》のヘッドマウントディスプレイを手元で遊ばせている少年、天童竜也。
雨宮とは私生活ともに交流があり、学校でもセットで数えられることが多いくらいの関係だ。
「動き足しとしては上々だったな。【特殊スキル】も手に入ったし」
「まじかよ!あ、共有ボード見つけといたぞ。噴水広場の左手奥のギルドカウンターだ。それにどうやら"あいつ"も当選してるみたいだぞ」
「俺ら3人とも強運すぎるだろ」
雨宮、天童、シノブの3人は、とあるオンラインゲームで顔を合わせ、時に闘い、協力し、気にかける間柄になった。
偶然にも同じ学校に通っていることが判明し、なんとなくの交流がある。
(あいつのプレイスタイルなら見つけやすいか)
「他に収穫あったか?」
「ゲーム内での死がリアルに直結する可能性が極めて高い。でも仲間は早めに出来そうだ。リアルでの連絡先も聞いたしな」
「へぇ。何してる人なんだ?」
「2人とも女子高生らしい」
「・・・ジョシコウセイ?は?フタリ?は?は?は?は?」
壊れたレコードよろしく、言葉にかくつきを見せる天童。
これ以上は面倒そうだと悟った雨宮はLINEを起動させ、天童、ナツキ、アラクネ、シノブを招待しグループを作成。
すると、ほどなくして全員が承認し参加を確認。
「お?」
電子音が鳴り、誰かのコメントを知らせてくる。
【EOグループ】
アラクネ:グループ作ったのね。よろしくね
ナツキ :よろしくです。およよ?お初の顔がいますね
ドラゴン:レインの友達のドラゴンだ。
:俺も《エンペラーオンライン》やってるから
ナツキ :あ、パーティー組むんですから私の【スキル】
:教えておきますね。【スキル:万物創造】。
:MPを消費して無機物であれば何でも作れます。
アラクネ:チート級じゃない!
レイン :俺のは時間ギリギリだったから、
:ロクなのじゃないし
:ドラのほうが凄いかもな
ドラゴン:俺のはナツキちゃんの劣化版だな。
:【武器生成】。まぁ名前の通りだ。
アラクネ:シノブさん?シノブさんも当選してるのよね?
レイン :シノブは人見知りで学校でも俺とドラ以外と
:あまり絡んでないんだよ
シノブ :うるさい
ドラゴン:まぁ、時間が合えば一緒にクエスト行こうぜ!
ナツキ :はーい(。・_・。)ノ
アラクネ:りょ(-o-)/
シノブ :ノシ
レイン :それじゃあ、進捗があったらLINEでよろしく
携帯をスリープモードにさせ、天童に声をかけ共に外に出る。
雨宮の住む一人暮らし向けマンション星宮。全5階建ての各4部屋、計20部屋。オートロックで家賃のいい物件を探していた雨宮が見つけた曰く付きなしの掘り出し物。
そこに雨宮、天童はいた。
「んで?5人でパーティー組むのは構わないけど、これからどうする?」
「1人いるだろ?どうしても頑張らなきゃいけないプレイヤーが」
「そんな奴いたか?」
「『ブロッサム』の望月潤だよ。当たってしまったからには逃げられず、メディアも飛び付くネタだ。簡単にはログアウトできない。むしろ彼を活躍させようと押し出すはずだ。となれば情報を集めていくにはもってこいだろ」
「これ以上、素人増えると守りきれないかもしれないぞ」
「俺達3人なら大丈夫だろ。シノブがいざとなれば」
「だけどよ」
VRゲームを幾度となく経験し、それなりの経験値を積んできた雨宮と天童はお互いの力量を認めていた。他のプレイヤーを見下すような真似はしないまでも、どこか頼りなさを感じているのだ。
ましてや、命がかかったゲームともなれば真剣味も強まる。
「さっきの話だと、竜也とナツキが生産系、アラクネが拘束、シノブは多分肉弾強化、そして俺。あとは回復役が欲しいな」
「俺達3人の役割はもう定着してきたしな。でも、お前の今回の【スキル】なんなんだ?」
「回復系といったら回復系だな」
「なら回復役いらなくね?」
「純粋な回復じゃないからさ」
頭に疑問符を浮かべ、雨宮の【スキル】を探る天童。
組むことが多いため、前衛はシノブ、後衛は天童、マルチに動く雨宮という図式がなんとなく出来上がっているため、癖といっても差し支えないくらいに同じ職業についてしまっている。
そんな彼らにメールが届く。
《エンペラーオンライン》のゲーム機と同期させたアプリからのメールだ。
「きたな」
「あぁ」
メールの内容を見て男二人が満面の笑みを浮かべる。