第五フロアは救いが少ない件について 〜増殖するG〜
「おいおいおいおい」
第5フロアの開放されたクエスト『真宵の森』。
先行していたプレイヤー達を追って、扉に入ろうとしたドラゴン達はその光景に息を呑んだ。
扉は消滅しており、代わりに上空に『真宵の森』の光景が映し出されている。
《呪珠樹》や森という単語から森林をイメージしていたものとは似て非なるものものだった。
正確には森は存在していた。
ただ1点奇妙な点があるとすれば、その根がプレイヤーに繋がれ、まるで養分を吸い上げるかのようにHPを削っている点。
(プレイヤーがいるだけ吸い上げたHPで回復。大人数で挑んだのが仇になってるのか)
『無限の回復』と謳われる《呪珠樹》は際限なくHPを吸い上げ続け、やがてプレイヤーを死に至らせる。
しかしここまで生き残ってきたプレイヤー。
全員ではないが数人はアイテムや【スキル】を駆使し、根を斬り裂いたりなどして脱出。
ダメージを与えているものの、回復速度が速いすぎるため与えたそばから回復され無意味になっている。事態はそれで済まなかった。有力プレイヤーのJUNについてきただけのファンは後悔の矛先がJUNに向き、彼に向かって怒号が飛び交い始める。
「そんな、自分達でついてきたのに」
シルファが驚きの声を上げるがシノブはこの光景を知っていた。
カチュアに向けられた自己犠牲を強制する現場。
自身の無力さを棚に上げ、目立っていた人物を断罪の相手にする。前回がカチュアで、今回がJUNになったというだけ。
それを煽るように増殖を続ける《呪珠樹》。
プレイヤーから吸い上げたHPで枝分かれし、その成長にプレイヤーを死ぬまで養分とされる。
このままでは全滅が目に見えていた中、YAIBAの瞳がある1点に止まる。画面の端、木々に囲まれている中で小さな光が映った
〈余に触れる気か?〉
画面の中で光は徐々に大きくなり、やがて自身に触れようとする木々焼き払う。
「嘘だろ」
神々しく放たれた焔は、一帯の木々を焼き、《熾天使》の周囲を焼け野原へと変えてしまう。
そこから《呪珠樹》の行動はシンプル。
地中に潜り逃亡を図ろうとする個体と、それを守護するために増殖を繰り返す個体で渡れた。
だが。
そんなことは些末事と言わんばかりに、身に降りかかる埃でも払うかのように横に薙いだ手から剥離した焔が木々の高さを切り揃える。
そもそも《十傑》クラス複数人でようやく相手になっていた《熾天使》は現存する者の中で間違いなく最強。
たとえ第5フロアの《BOSS》であっても、その力量は比べるまでもなかった。
〈絶焔∶燦火〉
自身に向かってくる木々だけでなく、その先にいる本体まで奔る焔。偶然にもそれは他の木々にも映り、これまた偶然にも周囲のプレイヤーを助ける形になっている。
だが映像を観ているドラゴン達は知っている。
この《熾天使》に慈悲の心などないことを。
〈この程度か。悪魔憑きの奴のほうが歯応えがあったぞ〉
彼らは知る由もないが本来《呪珠樹》は増殖力を活かした圧倒的物量でプレイヤーを襲う《BOSS》。
そのため本体の『核』を見つけるために、悪戦苦闘する設計だったのだが《熾天使》はその根底を覆し、フィールド全体を《BOSS》の増殖体ごと焼き払ってしまった。
〈つまらんな〉
幾層にも増殖体を重ねて本体を守りきった《呪珠樹》。
存命を図ろうと他のプレイヤーに木々を伸ばそうとしたが、その手が止まり、その光景に《熾天使》の冷たい視線が刺さる。
そう。
ーーー既に周囲のプレイヤーはいなかった。
先程の攻撃は周囲のプレイヤーを助けるために放ったのではない。
回復と増殖の手段となる他のプレイヤーを殺していたのだ。
〈どうせ見ているのだろ?今から殺しに行くぞゲームマスター〉
拾い上げた『核』を握り潰すと、《熾天使》の姿は消え、同時に扉も消滅。
上空の文字が『扉クエスト 残り5つ』に変わった。




