第五フロアは救いが少ない件について 〜継続する絶望〜
第五フロア『ドリームエデン』。
ボロボロの状態で辿り着いた5つ目のステージはファンシーな景観だった。
パステルカラーの綿飴やキャンディなど、お菓子で装飾された建築物。空を飛ぶカラフルな風船。地面は踏む度にポヨポヨと音が鳴る。
「分かりやすくて助かるな」
上空に映し出されている文字。
『扉クエスト 残り6つ』。
その言葉を裏付けるように6方向に伸びた道筋に扉が出現する。
その扉上部にはクエスト名が表示されていた。
『不死の女王』
『武の極地』
『進化する獅子』
『真宵の森』
『???』
『天地神』
「この6つのクエストをクリアすればいいのか」
「・・・でもそう簡単には行かないみたい」
ドアの1つを開けようと手を伸ばしたシノブの手がバチッ!と弾かれる。
そして映し出される文字が答えを教えてくる。
「『鍵が掛かっている』か。ってことはこれだよな」
レインは『所持項目』から『謎の鍵』を2本取り出す。
すると2枚の扉が反応を示して、扉全体が光り輝く。
《BOSSイベント:無限の回復》
『紅城』に君臨する《吸血姫》を倒せ!
※参加人数 無制限
※支給物資 体力ポーション(極)
MPポーション(極)
※ボスのいるフロア内以外での転移系の【スキル】や
アイテムは発動しません。
※《BOSS》討伐後、第6フロアへの入場券1枚がドロップ。
クエストを解放しますか?
はい or いいえ
《BOSSイベント:無限の剣成》
『極彩迷宮』に君臨する《適応獅子》を倒せ!
※参加人数 無制限
※支給物資 体力ポーション(極)
MPポーション(極)
※ボスのいるフロア内以外での転移系の【スキル】や
アイテムは発動しません。
※《BOSS》討伐後、第6フロアへの入場券1枚がドロップ。
クエストを解放しますか?
はい or いいえ
「2体の《BOSS》解放クエスト?残り4つもそうなら、6体も《BOSS》を倒すの?」
カチュアの指摘は尤も。
いままさに《BOSS》2体と闘ってきたプレイヤーを嘲笑うかのように合計8体の連戦。
気丈に振る舞っていたレインですら苦笑いが抜けない。
「一旦休もう。色んなことがありすぎた」
誰からも返事はない。
『暁月』以外は軽く会釈をしながら早々にログアウトしていき、ついにはレインも無言でログアウトした。
【雨宮家】
「ふぅ」
重たい空気を吐き出す。
現実世界に戻ってきたというのに、以前までのような和気藹々とした雰囲気は無く、ただ呼吸を繰り返すだけで《エンペラーオンライン》内より現実味が湧いていなかった。
もはや習慣のように伸ばしてしまったリモコンでテレビを点けると、とうとうプレイヤー総数が300人を切り、296人になったことが知らされる。
「《天使》達か」
報道は続き、第4フロアで《十傑》4名の死亡。
将棋の名人、超人気アイドルなど現実での肩書きを持つ者達の訃報が世間に与える影響はやはり大きく、遺族への心無い聞き取りなども始まっている。
そんな雨宮にスマホに着信が入る。
「もしもし?」
「も、もしもし?レインさんの電話で合ってますか?」
「???」
「ごめんなさい、私です。シルファです」
「シルファさん?どうして俺の番号知ってるの?」
「え?シノブさんに聞いたんです」
首を捻って雪原の方を向くと、何も悪びれる素振りもなくピースサインを向けてくる。
(あとでプライバシーについて説教してやる)
「迷惑でしたよね」
「いや迷惑なことはないよ。どうしたの?」
「えっと、第5フロア攻略にあたってゲーム外でも意思疎通が出来ればって言われて、私も心細かったので」
「だったら俺の家に来る?『暁月』のメンバーも揃ってるし」
雨宮はスマホから顔を遠ざけ、自身の住所のURLリンクを送信する。
「えっと、2時間くらいで着きますね」
「じゃあ待ってるよ」
通話を切り、再び顔を向けると目をまん丸にした仲間達がそこにいた。
「涼真?お前なに?ハーレムでも狙ってんの?」
「・・・仕方ないよ、これが涼真だもん」
「ですね」
「こうやって何人も毒牙にかけてきたのね」
天堂、雪原、音刃、久根の冷たい視線が容赦なく突き刺さり、自身の発言を思い出すと傷心中の女性を自宅に招こうとしている男の絵面が浮かび上がる。
「ただ呼んだだけだろ」
「身寄りのいなくなった少女を家に連れ込んで好感度を上げていく。はぁ、同じ男としてその手練手管教えてほしいぜ全く」
「なっ、」
「・・・まぁ冗談はここまでにして」
ヒートアップしかけた場を宥める雪原は自身のスマホから全員にメールを飛ばす。
内容は第五フロアに関しての考察。
「・・・ソラの発言と今回の『扉クエスト』について思ったことは第6フロアに進めるのは6人だけなんじゃないかと思う。・・・そうでなければ大人数で『全クリ』を目指せばいいのにわざわざ敵対宣言をしているソラの意図が無駄になる」
「それは俺も同意見だ。それに作戦会議してる今この瞬間にもクリアする奴が現れたっておかしくない、と言いたいがそれはないだろ」
「どうして?」
「ここまでのクエストを鑑みても《称号》持ちが複数いてようやく倒せると思っていいだろ?涼真の《賢者》みたいな戦闘向けのじゃないにせよ闘えるだけの頭数は必要になるのに残ったのは300人以下。単純計算50人くらいで当たれば問題ないだろうが《天使》との闘いにどれだけついてこれた?」
天堂は淡々と続ける。
「未来視できる《名人》、超高速移動の《剣鬼》、後方支援スペシャリストの《聖女》と徒手格闘最強の《拳聖》が死んだ。第4フロアがどれだけ過酷だったか分かるだろ?」
「つまり最前線で闘っている拙者らが第6フロアに進める可能性が最も高く、それ以外のプレイヤー達に後れを取ることはほぼござらん。逆に言えば我々以外がクリアできるのであればこちら側が少なくとも戦闘力で勝てない通りはないということでござるよ」
まるで議事録のようにないようをまとめる雪原を横目に議論は進む。
第6フロアに進むための6体の《BOSS》。
それが『謎の鍵』を使用することで解放されてしまうためタイミングを計る必要。
現状の戦力。
そして『暁月』としての方針。
欠片のような可能性であっても捨てずにまとめあげ、仮想、予想を織り交ぜた議論をしていると、いつの間にかインターホンが鳴る。
「お邪魔します。あ、こっちでははじめましてになりますね。シルファこと白鳥雫と申します」
「いらっしゃい」
白鳥を招き入れ、議論の続くリビングへ案内すると白鳥の入室に気付いた面々が笑顔で迎え入れる。
「あ!シルファちゃん?めっちゃ美少女なんだが」
「開口一番がそれってどうなの天童くん」
「しかし容姿を褒めるのは第一印象として良いと何かで読んだでござるよ」
「・・・ごめんね?えっとシルファでいいのかな?」
「本名は白鳥雫というので雫でお願いします。」
白鳥に先程纏めた話を伝え、第5フロアの攻略を明日に回すことで落ち着く。
この場にいる全員が《称号》持ちという異様な空間。
文字通りここが全プレイヤー296人の頂点。
《星霊》カチュアはともかく、《影狼》《愚者》の2名への懸念は消えない。ソラの態度からこれ以上の共闘は望めない可能性があるためだ。
「皆さん休んでてください。せっかくなんでわたしの地元の名物を振る舞います!」
意気揚々と袖を捲り、華奢な腕で膨らみのない力こぶを作る白鳥が大きな鞄から何やら食材を取り出してキッチンへ向かっていく。
仲間を失った傷も癒えきらない彼女は何かしていないとまだ心が落ち着かないのだろう。
雨宮は雪原、久根に視線を飛ばし、意図を汲み取った2人もキッチンへ向かう。
「で?俺らを残したのは?」
「判明している第5フロアに共通している『無限』。これだけでも嫌な予感がするけど、それ以外の『回復』と『剣成』って単語から何となくの対処法は立てられるだろ?」
「つまり、《吸血姫》に拙者が向かい《適応獅子》にはドラ殿が向かえと?」
「いつ『卵』の時みたいな時間制限が設けられるか分からない。だとしたらあらかじめ決めたほうがいいだろ。もちろん基本的には総力戦で1つずつ落とす」
「だったらまずは休め。特にお前。電源入れっぱなしの機械みたいにオーバーヒートするぞ」
重たい息を吐き、自分の鼓動が思いの外早いことにようやく気付いた雨宮はゆっくりと深呼吸。
すると緊張の糸がプツンと切れる。
ガクンッ!と視界が揺れ、思い出したかのように疲労感が押し寄せ凄まじい勢いで景色が過ぎ去っていく。
「師匠!」
間一髪で音刃が床との衝突を防ぐが、雨宮の視界はグチャグチャに歪んでいた。
上手く体を保てず立ち直そうとしても膝がバランスを崩してよろめく。
(無理もねぇ。涼真は今までずっと気を張ってたんだ)
天童や雪原達、仲間のフォロー。
ソラ達との連携。
敵の観察。
クエスト打開のための思考。
考えることが多すぎるのが逆にアドレナレンを分泌し続けて、限界を超えてもなお体と頭を動かし続けさせてきたが、それが尽きた雨宮はとうとう気を失った。
「・・・涼真!?」
異変に気付いたキッチンのメンバー、とりわけ雪原は血相を変えて駆け寄る。
「大丈夫。疲れが出ただけでござるよ」
「・・・よかった。・・・でもこのタイミングか」
「このタイミング?」
首だけ使ってもテレビを見るように促すと、その答えはすぐに理解した。
テレビには《エンペラーオンライン》に関する進行度と、今まさに第5フロアの『扉クエスト』を開こうとしているプレイヤーが映っていた。
「嘘だろ」
鍵穴に挿し込まれた鍵が回され1つのクエストが開放されてしまった。
《BOSSイベント∶無限の増殖》
『真宵の森』に君臨する《呪珠樹》を倒せ!
※参加人数 無制限
※支給物資 体力ポーション(極)
MPポーション(極)
※ボスのいるフロア内以外での転移系の【スキル】や
アイテムは発動しません。
※《BOSS》討伐後、第6フロアへの入場券1枚がドロップ。
クエストを解放しますか?
はい or いいえ
ここまでクエストを経験してきたプレイヤー達なら、こんな体制の整っていない場面では『いいえ』を選んだだろう。
だが、そこにいたのは重圧に押し潰されそうな顔をしたJUNだった。
テレビの報道は彼を焚き付け、亡くなったプレイヤー遺族の無念の声や、無責任な者達からの期待を寄せる声が流れ、偶然手に入れてしまったであろう『謎の鍵』も生放送で流れてしまい隠すことも出来ず、半ば無理やり挑戦させられている。
「くそが」
願いも虚しく『はい』が押されクエストが解放された。
「行くぞ」
「・・・落ち着いて!・・・気持ちは分かるけど無策で突っ込めるほどBOSSは甘くないのは分かってるでしょ」
「でもよ、JUNとその取り巻き達が勝てると思ってんのか」
「みんな行って!涼真は私が見てる。いまの私じゃみんなの盾にもなれない」
HPが1の状態の久根は、かすり傷ですら死亡する。
今まで共に闘ってきた彼女は死への恐怖に怯えてしまい、そんな自分が戦力になれない歯がゆさを噛み締め言葉に残る選択を取る。
「任せるぞ」
「お願い」
1時間にも満たない現実世界への帰還は、惜しむまもなく終わった。
強制的なゲーム世界への帰還。
YAIBA、シノブ、ドラゴン、シルファとなって戦場に向かう。
彼らは後に知る。
ーーーだがこの4人で第6フロアの入場券を手に入れられたのは2人だけだった。




