第四フロアは譲れない件について 〜謎の鍵〜
「・・・・・」
戦場には勝鬨を上げる声はなく、荒くなった呼吸を整えるための息遣いだけがあった。
レインもその1人。
第4フロアを終わらせる《BOSS》の打倒に成功した彼らに残ったものは新たな《称号》持ちと強力なアイテムのみ。
代わりに失った《拳聖》と《聖女》の2名が彼らに空けた穴はあまりにも大きすぎた。
「レインッ!」
ドラゴンの声でハッ!としたレインの眼前に伸びる威圧感。
「なんで」
〈花嫁が、死ん、だか、〉
どこにそんな力が残っているのか《熾天使》は立ち上がる。
煌めく焔を束ね花束へと変えていく。
それは死者を弔う献花のようにも、プロポーズをする際に用いる花束にも見えた。
その姿は先程まで命のやりとりをしていた相手だとしても、穢してはいけないもののように神聖なものにレイン達には映ってしまい、手を出せなかった。
「お前のせいで姉さん達は死んだ!返してよ、返し、て、よ」
仇への怒りも、底をついた気力が切れたことによって中断。
ここにいる全員が同じだった。
〈やはりこいつらか〉
1人、また1人と疲労感から気を失っていく中、レイン、ソラ、シノブ、カチュアのみが足を踏ん張っていた。
〈【魔眼】も【聖剣】も花嫁も失った。この場は褒美として見逃してやる〉
「ふざけるな」
レインの怒りを無視してその場から飛翔して逃走する《熾天使》。逃がすまいと攻撃を繰り出そうする面々だがMPは底をつき、カチュアが気絶したのを皮切りにその場の整理を始める。
「くそっ、」
倒れる仲間達に【回帰】を掛けて表面上は完全回復していく。
最後のシルファにも掛けて意識は取り戻したものの放心状態。彼女に至ってはこの第4フロアで2人の姉だけではなく、『青薔薇』というチームが崩壊したのだ。
彼女に残ったのは姉と同じく『聖』の名のついた《称号》だけ。
「レインさん、私、どうしたらいいですか?」
命の掛かったゲームに強制参加させられ、心の支えとなっていた肉親や仲間を1日で失った彼女に空いた心の穴は計り知れない。
そんな彼女と目線を合わせるため、レインは体を屈ませ、
「生きてくれ」
自分の紡ぐ言葉がシルファの今後を左右すると分かった上で、レインは言葉を選ばずに告げる。
「俺がシルファさんに言えるのは生きて欲しいってことだけだ。キミの仲間とお姉さん達が命を賭して残したのはキミの命だ。そしてこの世界では闘わないと生き残れない。だから全てのクエストをクリアして『全クリ』する。1日も早く」
嘘はない。
偽りもない。
この世界において精神的な支柱になりつつあるレインだからこそ、皆の心を辛うじて繋ぎ止めることができる。
全てを巻き戻す【回帰】の力だけではなく、誰よりも傷つき、誰よりも苦悩しながら、誰よりも先頭を歩き続けた彼だからこそ言葉に意味が出てくる。
「そしたらキミのお姉さん達を一緒に弔わせてくれ」
死という現実を緩和させるわけではなく、直面させて立ち上がらせる。それがレインがシルファにできる優しくも残酷な答えだった。
そしてその背後でソラは強かな打算を始めていた。
(これで『聖槍』に続いて『聖剣』もプレイヤー側に来た。だけど次のフロアは)
苦い顔をしながら思案するソラの視線の先で次のフロアへ進むための光の渦が現れる。
(このフロアまでで欲しいものは大体揃えられたし、あとは誰が第6フロアまで辿り着けるか、か)
空間を削り取る攻撃と長距離移動の【スキル∶座標転移】。
制空圏を制する【特殊武器∶朱雀緋翼】。
重力で敵を拘束する【重力銃】。
これらを早々に手に入れていたおかげで、数々の敵に対して効果的に立ち回ってきたソラには、もう1つ切り札として《愚者》としての【スキル】もある。
「悪いな皆、ここから俺達は別行動だ」
ソラの唐突な表明に全員が驚きの顔を見せる。
「・・・どうして?ここまで一緒にやってきたのに」
「だからこそだよ。これ以上情が沸いたら動けなくなる。本当に僕が安堵できるのはこのゲームが『全クリ』された時だけだよ」
1周目の経験を持つソラは目的のためなら《十傑》であっても切り捨てる。
将棋やチェスにおける必要な犠牲。
だがそれは盤面を元に戻してやり直せるという前提があってのこと。その駒が自身の命や肉親や仲間に置き換われば簡単には切り捨てられなくなるのが人の性。
「だから先に行く」
立方体の枠組みで自身を囲み、その場から姿を消したソラを見送り、悲しい戦場跡には疲労で動けない面々。
そんな中、意外な人物が口を開く。
「行きましょう。残りのクエストがどれだけあるか分かりませんけど必ずクリアしましょう。そうじゃないと姉さん達に顔向けできません」
【聖剣】を杖代わりに光の渦へと歩くシルファだが、明らかに限界を迎えた身体では数歩でよろめいてしまう。
「・・・ありがとうシルファ」
「いい発破でござる。であれば共に参ろうぞ」
崩れかけた体を両脇から《魔王》と《神姫》が支える。
彼女達もとう限界は超えているため、お互い体を預けあってバランスを維持している状態。
それでも1人では立てない状態でも支え合って進む。
「・・・みんな、ここまで言われて歩けないなんて言わないよね?」
「だらしないでござるなドラゴン殿、それでも漢でござるか?」
「なめんじゃねぇぇぇ!!!」
ドラゴンを指名し、活力の輪が広がる。
自分の役割を理解しているドラゴンのアドリブもあるが、次第に苦しくも笑みが溢れ始める。
「よし!行くぞ!」




