表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リトライチケット  作者: アクイラ(((・・;)
55/73

第四フロアは譲れない件について   〜命のバトン〜


 レイン達と《熾天使》との闘いが佳境に差し掛かる中、フィロリア、アリア、シルファの姉妹喧嘩もまた終わりに近づいていた。

 圧倒的な回復力と【スキル∶聖焔】によってジワジワとHPを削るアリアに対し、シルファの天候によるアシストで底上げされた威力を叩き込み続けるフィロリア。


(そろそろ本気でや、)


 意識が途絶える頻度が多くなっていることに、いよいよ危機感すら感じなくなってきたアリア。

 幾度となく自身へ精神回復の【スキル】を使い続けているが、それを上回る速度で精神汚染が押し寄せる。

 やがて彼女は完全に《熾天使》へ回復を供給し続けるための道具と成り果てる。

 

「六花亥光!」


(YAIBAさんがサポートに専念しているのが本当にデカい。彼女はこの世界最強の能力で防御、回復、拘束、妨害、その合間に攻撃。全能力が超高水準の彼女が常に周囲に気を配ってくれるおかげで安心感がある。でも)


〈目障りだな〉


 《熾天使》も馬鹿ではない。

 文字通り自身の生命線であるアリアへの危害をみすみす見過ごさず片手間に飛ばした焔によって、最強プレイヤーYAIBAの拘束であっても僅か1秒ほどで灼き溶かす。

 

「六花亥光!」

〈またか〉

「灼かれてもすぐに張り直せばいいでごさる」


 氷の華が散っては咲き、一瞬だった《熾天使》の意識がいつの間にか十分に割かれている。

 【聖剣】による『修正』によって形勢を取り戻していた《熾天使》だが、1人であったならば切り抜けられていたかもしれない盤面にアリアという枷が出来ている。


「姉さん、戻ってきて!」

「有紗、戻ってきなさい」

〈・・・・・〉


 返事はなかった。

 それが彼女の精神が汚染されたのだと分かるのにさほど時間はかからなかった。

 

〈ようやく堕ちたか〉


 《熾天使》は恍惚の表情を浮かべて今までで最大の焔柱を上げ、強引にアリアの側へと駆け寄る。

 世界を『修正』する【聖剣】。

 世界最高の治癒能力。

 

〈ありがたく思え、一撃で殺してやる〉


 無慈悲なる一撃が天から落ちる。


〈【スキル∶絶焔】〉


 それは掌で無理矢理押し固めた太陽のようだった。

 押し込み、押さえ込み、押し固め、そして。

 ーーー周囲に拡散した。


「「ドラ!盾を!」」


 レインとソラの指示が飛ぶよりも早く大量の盾を生成させたドラゴンの影に全員が集まる。

 

〈どこまで保つかな?絶焔∶燦火(ファースト)

「【重力銃(グラビガン)最大出力(フルバースト)


 焔の侵攻を食い止めるが文字通り火力が違う。

 限界まで凝縮されたモノと最大出力であっても急造のモノでは太刀打ちできない。

 一瞬食い止めた炎は威力を僅かに弱めたものの、速度はさほど変わらない。

 ドラゴンが出現させた盾が数枚割れたところで更なる追撃が入る。


〈【絶焔∶弐炎神威(セカンド)

「飛雷神  電影」

「拾壱の型  白刃雪鼠」


 威力を増した焔に対抗するべく《神姫》と《魔王》が向かうが2秒も立たずドラゴンの背後に吹き飛ばされ盾がまた数枚破壊される。


〈【絶焔∶一刀華焔(サード)

「【スキル∶星霊結界】」

「【聖拳】」

「スキル∶天候操作  暴風」


 三段階目の焔の噴出。

 《十傑》クラス6人の攻撃でも侵攻を止めない焔はついに全ての盾を砕き、全員に到達する。


「【回帰】」


 まさに紙一重。

 走り出す角度が1度でもずれれば、ここにいる全員は間違いなく命を落としていた。

 そう思えるほどに《熾天使》の攻撃は凄まじく、全員で紡いだ数秒間がレインが【絶焔】に触れられるだけの時間を稼いだ。


「一撃で俺らを殺すんじゃなかったのか?」 

〈虚勢が見え見えだがな。まぁいい。【絶焔】も連発はできないのが難点だが〉


 倒すべき順番を定めたかのように《熾天使》の掌がレインに向けられる。


〈貴様を潰せば幾分マシになるだろう〉

「気を引き締めろ!」


 《熾天使》がレインの目の前に現れた瞬間、各々が行動を開始する。

 

〈【スキル∶炎獄熱砂】〉

「【星霊結界】」


 空間を抉ったとすら感じる灼熱を最硬の盾が防ぐ。

 その追撃をさせまいと神速の居合が走るが、それを見切ったように身を翻し躱す。


「【聖拳】」


 盾と《熾天使》の間に風圧が強引に距離を取らせる。

 

〈【スキル∶炎獄熱砂】〉

「シノブ!」


 灼熱が届くよりも早く最速の《神姫》がレインを攫い、追撃が入る前に【六花亥光】が決まり、更にドラゴンの弾丸が放たれる。

 対して【聖剣】で拘束を解き、弾丸に対して【焔鎧】で盾を張り、次の攻撃に備えようとした瞬間、空から重力の塊を落とそうとせるソラの殺気が届き視線を上げると背中に弾丸が炸裂していることに気づく。

 【特殊武器(スキルアイテム)邪龍炎弾(イビルフレア)】による弾の転送。

 威力としてはいまひとつではあるが、意識外からの着弾は《熾天使》の意識を傾けさせるのに十分だった。


「もらった」

〈甘いわ〉


 重力の塊が空から落ちるが、【聖剣】の対処が間に合ってしまう。

 刹那の攻防。

 それを制したのは神速の居合だった。

 《熾天使》もシノブの存在は最も警戒するに値した。

 『最強』を囮に『最適』に采配を下し『最速』にてトドメを刺す。

 最善手を打ち続けてようやく掴んだ決定機。

 

「・・・ソラ、やって!」


 カチッと引き金が引かれ、シノブもろとろ重力の塊が降りかかる。すぐに【聖剣】で修正を図ろうとした《熾天使》だが、至近距離にいるシノブがそれを許さない。自分も重力にさらされながら、持てる全ての力を駆使して『最速』を維持してダメージを蓄積させていく。

 頼みの綱のアリアもYAIBAが【六花亥光】で完全に食い止めている。

 この状況を作り出したのはレインとソラという2人の知将による半ば理想を孕んだ作戦を実行できる猛者達の力が大きい。

 だがどこか浮かない表情の精鋭達。

 数々の《BOSS》を打倒してきた彼らにとって、この程度で済むとはとても思えない。全員が死力を尽くし、犠牲を伴ってようやく倒してきた相手がこの程度だととても思えないのだ。

 その予感が当たってしまう。

 バリンッ!と鏡を叩き割ったような音と共に【六花亥光】が破壊され、ついにこのフロアの《BOSS》が真の姿を現す。


「【特殊武器(スキルアイテム)死の砂時計(デスタイマー)】」


 上空に現れた巨大な砂時計。

 それが何を意味するのか即座に理解した全員が破壊に取り掛かるが、灰銀の翼を広げた《聖天使》がそれを阻む。

 人々を癒す錫杖は、いつのまにか命を刈り取る鎌の形へ変貌。

 それを一振り薙ぎ払っただけで、紫色の斬撃が空を裂く。


〈いつまで遊んでいるつもりですか?〉

〈随分な物言いだな〉

〈序列1位の《熾天使》ともあろう者が何という体たらく。私はHPを回復できてもMPは回復できません。なので常時回復を維持します。5分で片付けなさい〉

〈いいだろう〉


 今までの苦労を全て台無しにするように、《熾天使》の状態が見る見る回復していく。

 肉薄しているシノブも流石に苦い顔が隠せなくなっている。

 

(一旦退くのもありだけど、)


 全員がまだ動ける状態であるのが不幸中の幸い。

 レインの中ではここで自分達が退いたあとに狙われる生き残りのプレイヤー達への被害の方が甚大なことを瞬時に判断し、敵に向き直る。

 

〈【スキル∶焔浄監獄】〉


 煌めく焔で編まれた格子状の檻が空間を囲む。


〈さて、花嫁にいいところを見せたいが時間がない。悪いが死んでもらうぞ〉


 焔の壁が徐々に中央に向かって狭まっていく。

 全員が自身の置かれている状態を把握する。

 第4フロアの篩い落とし。

 《黒龍》、《混沌黒龍》、《天使》。

 明らかに戦闘向きな実力者が複数いなければ《BOSS》討伐は不可能。少なからずクエストをクリアして【スキル】やアイテムという手段がなければ生きていくことさえ難しくなってきた。


〈さすがに飛行するだけのMPは残っていないか。軽い身体強化しか使えないが消耗が早いのは貴様らだからな〉


 【聖剣】で周囲を軽く振り調子を確かめると、今までにない冷静な双眸をレイン達に向ける。

 《熾天使》は異様なことに完全に受けの構えをとる。

 理由は単純なものだった。


「・・・みんな!HPが!」


 シノブの掛け声で全員が状態を見ると、HPが徐々に削られていく。ダメージ量が【癒しの涙珠】の自動回復を上回っているため、この場にいる全員が時期にHPが0に至ってしまう。

 

(自分はアリアの常時回復か。待ってれば俺らだけやられるってわけかよ。しかも)


 檻から噴き出す火柱が行動範囲を更に狭め、回復手段を持つ者が少ないプレイヤー側は庇いながらの戦いになる。

 しかもほとんどが《熾天使》に手の内を晒してしまっている。

 完全に受けに回られれば倒すことは更に難しくなるだろう。


「カチュアさん!シノブ!」


 全員がカチュアの元へ集結し、サポートをシノブ。


「【星霊結界・円】」


 ドーム状に形成される結界。

 その中に1人を除いて全員が体制を整える。


「頼めるか?」


 プレイヤーの中で唯一、実力を隠しながら闘っていた者が待ちわびたと言わんばかりに、その刃を光らせる。


「ようやく本気で闘っていいでござるな」


 迫る火柱は到達する前に一定距離で凍結していく。

 サポートに専念し、全力の攻撃は一瞬だったためフラストレーションが溜まっていたYAIBA。


「では尋常に、参る!」

〈来い〉


 その場に氷の塵だけを残した強烈な踏み込み。

 火柱が凍った跡のみがYAIBAの軌跡を辿ることができる。

 シノブに次ぐ速度を叩き出しながら繰り広げられる斬撃は《熾天使》を僅かにだが凌駕するものだった。


〈確かに厄介。そして最も警戒すべきは〉

「【拾弐の型  六花亥光】」


 【聖剣】を地面に突き刺し、片手で剣を起点に逆立ちし花弁の拘束を躱す。

 刀を振り上げ追撃を試みるYAIBAだが、《熾天使》の背後から迫る火柱が宛てがわれ、【漆の型  霜突き・牛鬼】で生成したもう一振りの氷の刀には【聖剣】で防がれ『修正』によって消滅させられる。


〈悪魔憑きの魔剣士に次ぐ頭のキレ、神速に次ぐ速度、さらには曲芸撃ちの道化に次ぐ手数の多さか。万能型といえば聞こえは良いが、特出すべきものは状況判断能力くらい。お前も分かっているのだろう?〉

「ーーーっ」


(分かってますよ。師匠にも、シノブにも、ドラゴン殿にも劣っているなんて分かりきってる。『最強』のプレイヤーなんて言われて序列1位の座についているのに、ゲンにもアカネにも封殺させられた。いま目の前にいる敵にすら勝てないで何が最強だ。いまの私にできること)


「【スキル∶龍眼】」


 金色に輝く瞳。

 数秒後の未来予測を可能にする能力。羽生の『未来視』に匹敵する能力だが、代償としてMPは削られ2秒後のものを映し出す。


(これも羽生殿に比べればまた劣る)


 最高の頭脳の持ち主は私ではない。

 最速の速度の持ち主は私ではない。

 最硬の守備の持ち主は私ではない。

 最適の手段の持ち主は私ではない。

 能力値が高くとも、必ず上には上がいる。


(見ろ!観ろ!視ろ!)


 YAIBAの身体から力が抜ける。

 一切の力みのない脱力。いままでの彼女が圧倒的な力を振りかざしていたのに比べ、研ぎ澄まされたような冷たい空気を纏い、【参の型 雪踏】による自然な歩法で《熾天使》に近づく。

 あまりの戦意の感じ取れなさから一瞬反応が遅れた《熾天使》は火柱を向かわせて反撃に出るが牽制で放たれた【捌の型  銀嶺朱雀】によって凍結。

 懐まで侵入した彼女は【壱の型  白狼】で撹乱し、【拾弐の型  六花亥光】を匂わせる構えを取りながら【陸の型  観音白雪】で感知能力を上げつつ、【弐の型  白茨・白蛇】で攻撃。


〈小癪な〉


 様々な角度から放たれる連撃に対して苦悶の表情を浮かべる《熾天使》。

 火柱では対抗しきれないと判断したのか【聖剣】を振るうが、【漆の型  霜突き・牛鬼】で生成された氷の剣を《熾天使》の手元に出現させ角度を逸らし無手にて流す。

 YAIBAの所有する固有の【スキル∶開祖】は武術の粋を昇華する。その分岐として受け流しの技術【スキル∶流水】が派生した。

 無手にて触れたものに対して作動する受け流し。

 それによって、体制を崩された《熾天使》の体を中心に咲く6枚の花弁。


〈無駄なことを〉


 《熾天使》はただその右手に握った【聖剣】で触れるだけ。 

 花弁に触れるように【聖剣】を手から離し、笑みを浮かべた直後、その顔が曇る。

 

〈貴様ッ〉


 まるで計算されたかのように凄まじい勢いでシノブが【聖剣】を蹴り上げついに《熾天使》から武器を取り上げることに成功する。

 この時点で既にYAIBAとシノブは疲労困憊。

 だがそんな彼女達にトドメを刺そうと強引に花弁を砕き、火球が繰り出されようとしていた。


「やっと僕から目を離したな」


 ズシンッ!とのしかかる重力の塊。

 

「シノブ!合わせてくれ!」

「・・・任せて!」


 上空に転移し、重力で更に加速して落下するシノブと、地面を滑るように斬り上げるレインの攻撃。


〈認めよう。お前らは強い。だが貴様は道連れだ〉


 手を翳し、巨大な焔の光線がレインの体を貫く。

 一瞬の気の緩み。

 レインとシノブによる渾身の一撃が。

 確信した勝利の一撃が。

 警戒をほんの少しだけ解かせる要因になってしまった。


〈まさか、これも避けられるとはな〉


 2人の攻撃で《熾天使》は倒れた。

 だがまだ《BOSS》は攻略できていない。

 それが1人のプレイヤーを殺し、自分の手を血で染めること。その現実逃避をするために、先に《熾天使》と闘っていたのかもしれない。

 そして、そんな感情を誰かに押し付けないように3人の姉妹喧嘩が始まり、終わりを迎えようとしていた。

 


  



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ