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リトライチケット  作者: アクイラ(((・・;)
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第一フロアが優しくない件について ~絶望の始まり~


     【噴水広場】


(まぁ、こうなるよな)


 ナビゲーターの双子の最悪な演説のおかげで一斉にログアウトしてしまい、広場には事態を飲み込み切れていない者や、まるでゲームの話じゃないかと小躍りしながら喜ぶ者、レインのように逸早く行動し始めた者とに別れた。

 

「まずは情報収集だよな」


 『所持項目(ストレージ)』を開くと何もないことに気づき、《BOSS》や体力という単語から武器やアイテムの存在を示唆した雨宮は手持ちを揃えるべく周辺の散策を開始していた。

 噴水広場で配布されたのは10万G(ゴル)のゲーム通貨。


「物価と拠点になる宿とかも調べないと」

「あのー、レインさん。順応早すぎません?あんなこと言われてすぐ行動起こせるとか異常ですよ。事前の映像ではこんなことなかったですし、本当だったら犯罪ですよ」

「ゲーム上の演出ならそれでいいよ。でも本当なら俺達はやばいことになる。この通貨だってこのままだと底をつく。どんな《BOSS》であって情報がなければ勝てない。暗中模索で体力0になったら後悔しきれないだろ?」

「じゃあ2人ならもっと情報集まりますね」


 アイコンが点滅する。

 『フレンド申請』のアイコンだ。



    《フレンド申請》


 プレイヤー:ナツキからフレンド申請が来ています。


   承認する  or  拒否する


 ※フレンド相手には無料でメールを送ることができます。

 ※フレンド相手以外にメールを出す場合は100Gかかります。


「これって本名か?」

「そうですけど、問題ですか?」

「まぁいいや。ナツキは正義感強いか?」

「人並みには」

「なら止めよう。ここからは別行動にしたほうがいい。【スキル】の能力によってはプレイヤー同士の殺しあいだってあり得る」

「どうして言いきれるんですか?」 


 雨宮はこれから起きうるかもしれない事態が粗方予感できていた。仮定であったなら問題ではない。だが実際に起きてしまってからでは取り返しのつかない可能性への予防線を張っているのだ。


(ナツキだけなら何とかなるかもしれない。でも助けを求められたら切り捨てられるだけの人間性もない)


「いまログアウトしていないのはどんな奴らだと思う?」

「ん?ゲームを楽しんでる人かレインさんみたいな人ですよね?」

「多分、【スキル】で事態の異常性に気づいている奴らだよ」


 そして少なくともこの世界で無意味になった【スキル】がある。【スキル・死に戻り】や【スキル・再生】といった一度死んでから生き返るといったものは効果がない。

 そうなった者が大人しくしていればいいが、自暴自棄になればそれこそパニックになる。


「それにお金がなければ助けを出すメールも出せない」

「ならプレイヤー全員で情報を共有すれば」


(きっとナツキの言っていることは正しいのだろう。だからこそ背中を預けるには危うい)


「組むなら条件つけていいか?」

「モノによりますね」

「俺達での情報は口外する人間は2人で相談してから、それでいいなら」

「・・・・・は?」


 思わぬ反応に雨宮は驚いた。


「そんなんでいいの?」

「え?」

「てっきり首輪や発信器をつけて管理されて、挙げ句の果てには『くっ殺せ』とか『どうせエロいことするんでしょエロ同人みたいに』なことされるんだと思って」

「俺を何だと思ってるんだよ、結構真面目に考えてるんだぞ」


 雨宮は底無しの彼女の明るさに根負けした形で『承認する』を押す。

 

「よし、じゃあ私は一旦ログアウトしますので、そうですねぇ夜9時に噴水の前でまた」

「分かった、俺はもう少し情報を集めてからログアウトするよ」


 ログアウトしたナツキを見送り、情報収集を続ける雨宮は路地裏に人影を見つけ、顔だけ出して覗く。

 自分の肩を抱いて(うずくま)り、震えている少年だ。

 声をかけるべきか思案していると、アイコンが『お知らせ』と『メール』の部分を点滅し始めた。




   《クエスト配布のお知らせ》


 現在、噴水広場近くに6つのイベントクエストを配置しました。難易度はそれぞれですが、【スキル】やアイテムを手に入れよう!

 ※このクエストは一度クリアされると消滅します。

 ※このクエストは誰かが受注中だと割り込みできません。



(てことは、)


 雨宮は目の前にいる少年に近づくと、彼の頭上にアイコンが浮かぶ。



   《イベントクエスト:ドレスコード》


 目の前にいる人物の衣装を変えよう。

 衣服のレベルによって報酬が変化します。


   受注する  or  受注しない


 迷うことなく受注する。

 そして、よく観察し適切な姿を想像。


(あれ?)


 雨宮は違和感を覚えた。

 目の前にいる人物はNPC、いわゆるゲーム内のキャラクターだ。つまりプレイヤー逹が仮の話とはいえ死ぬかもしれない恐怖を感じているのに対し、彼にはそれがない。

 つまり『別の理由』で震えているのだ。


(衣服の感じからして寒さからくる震えじゃない。なら、)


 雨宮は呉服屋から、なるべく"目立たない地味な服"を選び、眼鏡などの小物を購入する。

 戻り様、NPCにそれを手渡すと、



   《クエスト:ドレスコード》


   クエストがクリアされました。

クエスト達成報酬【特殊スキル:王家の威光】を獲得しました。



「よし!」


 クエストクリアの手応えからガッツポーズを取る雨宮。

 彼の推測通り、何者かに追われている少年を匿うことがこのクエストの目的だったのだろう。

 そんな喜びを隠せない雨宮を、絶望の底に叩き落とす事件が起こる。


「だ、だれか助けてくれー」

「ーーーッ!」


 悲痛な叫びが噴水広場にこだまする。

 見れば、噴水近くに赤いバンダナで口を覆い短刀を持った男逹が、雨宮が助けた少年と瓜二つな少年を踏みつけ、クエストを受注したであろうプレイヤーに刃を突き立てようとしている場面だった。


「【スキル:ばんぶ、】」


 【スキル】を用いて対抗とするプレイヤーだが遅かった。

 思わず体が硬直し、その光景を傍観してしまった自分をこのあと戒める出来事が目の前で起こった。

 刃が、プレイヤーの男の命を引き裂いたのだ。


「あっ、」


 役目を終えたようにバンダナの男逹、そして少年、さらには殺された男が消えた。

 消えたところは、たった1つ。そこに彼がいた証とでも言わんばかりに『☠️GAME OVER☠️』の文字が数秒浮かび、とうとう跡形もなく消えた。

 現実味はない。心のどこかでまだ、これはゲームだと言い聞かせて無理やり平静を保っている状態だ。

 せっかく手に入れた【特殊スキル】の存在など忘れ、ふと我に帰る。

 配布されたクエストは6つ。

 つまり残り4つが存在し、自分と同等のモノなのだとしたら、


「聞いてくれぇ!」


 広場全体に響かせる勢いで声をあげる。


「配布されている《クエスト:ドレスコード》は、変装させて身分を隠すさせることがクリア条件だ!豪華に着飾った分返ってくるようなものじゃない!だけど、クエスト内容が変更されるかもしれないから気を付けてくれ!げほぉっ、」


 慣れない大声を出したせいか、酸欠になりかけ勢いよく酸素を取り込む。

 いまできることはこれくらいだ。

 先程の光景を見て、不用意に動こうとするやつなんていない。


(あとはナツキにメールしておかないと。・・・またログインした人が気を付けるためには)


「ねぇ、あんた」


(掲示板でも探すか?それともネットに投稿、いやリアルバレは嫌だしなぁ)


「おいってば!」

「うぉっ」


 肩を後ろに引かれ、よろける雨宮は足を絡ませそのまま転倒。

 思い切り打ち付けた頭の痛みにもだえながら、自分の視界に陰りが射したのを感じ、恐る恐る目を開く。

 柔らかく照りつける日射し。その近くで影を作る二本の白い足。そしてそのてっぺんには足にも負けない白い布地。


(・・・これは不可抗力だよな)


 弁解する暇もなく、強烈な蹴りが腹に突き刺さったのは言うまでもなかった。

 

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