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リトライチケット  作者: アクイラ(((・・;)
32/54

第四フロアは譲れない件について ~ 分岐点 ~


     【青龍館】


 『玄武城』で各国の実力者が集ったのと同時期、『青龍館』にも来訪者がやって来ていた。

 決して望まれない来訪者であったが。


「ゲン!」

「YAIBAか。その刀もらいに来たぞ」


 合図はなかった。

 その場にいたYAIBA以外の誰も視認できないほどの速度で一気に懐に入り込んだ勢いで抜かれる剣。

 

「壱の型 黒裂(くろさき)!」

「弐の型 白茨(しろいばら)!」


 空間を裂くような鋭い居合とそれを受け止める剣技。

 その最中でレインは周囲の把握にかかる。

 索敵に人数を割き、この場にいる『青龍館』サイドはレイン、YAIBA、ナツキ、ドラゴン、ユーリ、ラギ、そして転移【スキル】持ちのカンナの7人。

 対して敵はゲンとアカネ。

 

「今回は止められておらぬし《魔王》と斬り合いたいが、その前に伝言だ。レイン!」

「何だ?」

「ソラからお前に2つ提案がある。その内どちらかでも受け入れれば我々は今後プレイヤーに危害を加えないと約束しよう」

「どういうつもりだ」

「我々とて人殺しをしたいわけではない。だが『全クリ』出来なければ状況は変わらん。ならば足手まといに構ってる暇はない」

「要求は?」

「レインが我々の仲間になるか、ナツキを差し出すことだ」

「YAIBA、ゲンを倒してくれ。アカネは俺がやる」


 レインがゲンとアカネに見えないよう背後に指令を飛ばす。

 彼らが散開した瞬間に背後に隠れていた銃口が火花を光らせる。

 

「後ろに下がれアカネ。弐の型 黒渦(くろうず)


 円形に切り裂かれた空間に弾丸が飲み込まれ何事も無かったかのように消失。

 

「『銃を"拒絶"』」

「はっ!?」


 アカネの一言でドラゴンの持っていた銃が霧のように消滅。


「チートすぎないかい?」

「生きてないものなら【特殊武器(スキルアイテム)】以外なら拒絶できるのよ。『風を"拒絶"』」


 レインの耳に届く風切り音。

 何か引き寄せられるようにマントがなびいたおかげで、その正体に逸早く気づいた彼は右手を構える。

 

「【回帰(リトライ)】!」


 館の床に確かな1本の爪痕を残しレインの前で消える。


「かまいたちか」


 なくなった空間を補うように吸い込まれた風が引き起こす鋭い突風。

 それはレンガにさえ痕をつける鋭利なものとなり、あらゆるものを斬りつけるはずだっが、レインの【スキル】がそれを掻き消す。

 レインとドラゴンでアカネを。

 YAIBAでゲンの初段を抑え込むことに成功したが、実力の底を隠しあっている状態では好転しているかは判別がつかない。


「YAIBA。お前はいくつまで皆伝した?」

「6つでござるが?」

「ならば見せてやろう。(はち)の型  颯爪三虎(そうそうみとら)!」


 一瞬の間に鍔鳴りが3つ。

 にも関わらずYAIBAの衣服には9つの刀傷が刻み込まれた。

 

「まったく見えなかったでござる」

「殺すつもりだったが《魔王》の権限で威力を弱められたか。まぁいい。次で首を跳ねる」

 

 膨れ上がるゲンの殺気。

 冗談でも何でもなく、容赦なく首を斬ろうという濃い殺気がYAIBAの体を硬直させ、思考を鈍らせる。

 

(ここで拙者が倒れれば皆にも被害が出る。それに1位が負けるほどの戦力が『夜桜』にあると知れれば『青龍館』は攻めこまれる口実にもなるかもしれぬ。だから!)


「拙者は負けるわけにはいかない!」


 その時。

 まるでYAIBAの闘志が伝わったかのように『雪羅』が青白い光を放った。

 

「この土壇場で扉を開いたか」

「いいんですか?そこはもう拙者の斬撃範囲内(キリングレンジ)でござるよ」

「やってみろ。捌の型ーーー」

「捌の型ーーー」


 奇しくも同じ抜刀の構え。

 弓を引くかのように張りつめたその空気に思わず皆が手を止める。

 ドラゴンの射撃やアカネの【スキル】を用いれば敵の呼吸を乱すことで味方の勝機に繋がることを理解しておきながら、それを許さない空気が辺りに充満する。


「ーーー颯爪三虎!」

「ーーー銀嶺朱雀(ぎんれいすざく)!」


 9つの爪と、X字に放たれ鷲のような様相で襲う斬撃。

 爪を1つ、また1つと蹴散らし着実にゲンまでの距離を縮める。

 そして5本目に差し掛かったところで鷲が力を失い、7本目と相殺される。

 8本目と9本目の爪。

 それが容赦なくYAIBAのHPを傷つける。

 

「伍の型 雪原の花園!」

「伍の型 失楽園(しつらくえん)!」


 MPをHPに変換する型で辛うじて体勢を立て直すが、

 そのHPの回復が止まる。

 

「貴様とは対局にMPを犠牲に相手のHPを削る毒の空間。諦めろ。貴様ではまだ勝てぬよ」

「"まだ"ではダメなんです。『今』ここであなたに負けることがどれだけの恐怖になるか。拙者は誓ったてござるよ。最強であり続けると。やっと、やっと皆と肩を並べて、胸を張って仲間だと迎えてもらえる。だがら前を向ける限りは拙者は負けない」

「誓った?誰にだ」

「無論、拙者の魂でござるよ!」

「ならば敬意をもって、その魂ごと潰してやる。玖の型 (みだ)狂月(きょうげつ)!」


 ゲンの刀から剥離した巨大な月を思わせる斬撃が、ゲンの振った刀と連動して降る。

 対して『雪羅』を宛がおうとするYAIBAの刀と体に異変が起きる。

 足の踏ん張りが効かず、比喩抜きで浮き足立っている感覚。

 

「に、弐の型 白茨!」


 不十分な体勢ながらも辛うじて技を出したが、押しきられ地面に叩きつけられる。

 回復しないHP。

 一方的な蹂躙。


(どれだけ醜く後ろ指を指されようとも敵を倒すことだけに専念でござる)

 



「手伝わなくていいの?彼女、死ぬわよ」

「「あの程度で?」」


 レインとドラゴンがあっけらかんと言い放つ。

 誰の目から見てもYAIBAの劣勢。

 余力すら感じさせるゲンに勝てる要素など微塵もないのに、彼らは何かを信じて疑っていない。


「《魔王》が消せるならこたらとしても障害がなくなるからいいけど、」


 会話を遮るように手榴弾が投げられ、その背後にはボウガンを構えたレインと弓を引くドラゴン。


(たしかに手榴弾、ボウガン、弓の3種での攻撃は拒絶しきれない。それを見越して息を合わせてきたの凄いけど)


「『空間を"拒絶"』」


 バックステップで視界に3つの攻撃を収め前方に空間を遮断して作った盾で(ことごと)くを防ぐ。

 相手の攻撃の強弱に関係なく拒絶し割断できる攻撃系統における最強の【スキル】の1つであり、空間を拒絶すれば万物を通さない防御系統における最硬の【スキル】でもある。

 だからこそ、わずかながら油断があった。


「アカネ!後ろだ!」

「えっ?」

「壱の型  白狼!」


 虎視眈々と、まるで誘導されたかのように白銀の刃が戦場を駆け抜け、誰も対応できないこの『一瞬』に狙いを切り替えた《魔王》の剣がアカネの体を貫いた。

 

「YAIBA!?」

「拙者達の目的は『夜桜』の人員を削ること。ゲンとの勝負は負けたでござる。でも『暁月』は負けない!」


 すぐさまゲンが加勢に入ろうと近寄るが、ナツキが生成した盾の壁が行く手を阻む。


「壱の型 黒裂!」


 真一文字に盾が裂け、一振りで5枚もの盾を無力化した。

 だが、それ以上の侵入はさせない。

 次の攻撃に移らせないようにドラゴンの狙撃、そしてナツキが出現させた投擲ナイフをレインとナツキが投擲。

 

「『重力を"拒絶"』!」


 足が浮きはじめ踏ん張りが効かない。

 それでも残る力をすべて振り絞り渾身の一撃を放つ。


「弐の型 白茨!」


 本来、防御に使う技だがその真骨頂は複数の地点へ剣を走らせる速度。

 刺さった状態で暴れまわる刃。

 HPがあっという間に削られていく中、


「ゲン、あとは任せるわよ」

「心得た」

「『時間を"拒絶"』!」


 それは異様な光景だった。

 アカネを中心に半径1メートルほどの球体が広がり、歪曲し、やがて薄いベールで包まれ見えなくなる。

 

「ドラ!」


 レインの声とほぼ同時に銃声が響く。

 狙いはアカネ。

 しかし球体に触れた瞬間に速度を失い、力なく落ちる。

 

「とっておきを使ったが《魔王》を温存させられたのだ。結果としては良しだろう。レインよ、いまここで決めろ。我々と共に来るか?」

「この状況でよく聞けますね。仕掛けてきたのはあなた達の方じゃないですか」

「貴様には聞いてない!」


 ナツキの発言にゲンが吠える。


「レイン!貴様が決めろ!」

「俺は、、、」


 場に流れる沈黙。

 レインの一言が今後の分岐点になる。





     【白虎庵】


「ねェ?あとお姉ちゃんだけだヨ?」


 中学生くらいの背格好の少女が両手にナイフを握りながら無邪気に笑う。

 

「あなた、壊れてるのね」

「ン?健康だヨ?」

「人として壊れてるって言ってるのよ」


 『白虎庵』の《国王》カチュアは無惨にも『☠️GAMEOVER☠️』寸前まで追いやられた仲間達に囲まれながらミヤビを睨み付けた。

 仲間も同じ国のプレイヤーも倒れ、残るはカチュアのみ。

 

「とどめを刺さないのはなぜかしら」

「ェ?だって人殺しになるでしョ?人殺しはダメなんだョ?知らないノ?」

「ここまでやっておいてよく言えたわね!【スキル:元素乃王(エレメントマスター)】」

「???」


 特に何かが起こったわけでもなく、ハッタリを疑い始めたミヤビに異変が起こる。


「ーーーッ!?」


 全身に広がる不具合。

 『自己評価(ステータス)』画面には複数の状態異常を示す表示。

 毒、麻痺、混乱、筋力低下、速度鈍化。

 

「陰湿な【スキル】だネ」

「失礼ね。現実(リアル)では製薬会社の人間だから高い演算とコスト不要のこの世界で治験を進めようとして選んだ【スキル】よ」


(どうやら状態異常までは跳ね返ってこないようね。周りの人達は剣とかで魔法系統の【スキル】で傷つけた瞬間に同じ箇所、同じ量のダメージを受けてた。つまり物理的ダメージを与えるのは止める)


 カチュアは距離を取り、毒によるダメージを稼ぐ。

 

「あァ、逃げるなんていけないんだョ」


 背中に迫る嫌悪感。

 全身を掴むその感覚に振り向くとカチュアの右足が足首から先を失っていた。


「え?」


 あまりに異様な光景に情けない声が漏れ、平衡感覚が欠如した体が傾き、地面に叩きたけられる。

 そんななかでも、すぐさま相手に向き直る。

 そして再び異様な光景が目に飛び込む。

 ミヤビの足が右足首から先が消滅していたことではない。ミヤビがそれに対して笑っていたことだ。

 この世界において不必要なほどリアルな触覚。それは体が欠損すればそれに伴う激痛が走る。


「これでお姉ちゃんも『愛』を感じてくれタ?」 

「生憎だけど被虐性愛者(マゾヒスト)じゃないから、こんなんじゃ何も感じないわよ。お子さまには分からないでしょうけどね」


 悪態をつくが、痛みで何度も意識が飛びそうになるのを必死にこらえる。

 

「でも私の親は私を叩いたり殴ったりして『これは愛なんだ!』『お前のためにやってるんだ!』って言ってたヨ?だから痛いっていうの『愛』なんダ」


 ミヤビは言いながらナイフで自身の腕を傷つけ、それに伴ってカチュアを含む周りのプレイヤーの阿鼻叫喚が響き渡る。


「だからネ。私もパパとママに『愛』をお返ししたノ。そしたら皆お前はおかしいんだっテ。何デ?私はおかしくないよネ?」


 カチュアは心の底から恐怖した。

 純粋に人を傷つけることに対して何の疑問を持たない。むしろ傷こそが『愛』であると信じて疑っていない。それは例え仮想世界(ゲーム)であっても躊躇なく自らの足を切るという異常な選択を取れるほどに。


「このゲームは凄いヨ。色んな人に『愛』を届けられル」

「あなたが受けてたのは『愛』なんかじゃない!」


 ピシャ!っと空気が張りつめる。

 その声の主は青い薔薇の紋章を背負った少女。


「ア!お兄ちゃんのリストにあった人ダ!」


 純白な修道服に身を包み、青い宝石の埋まった黄金の杖を持った《聖女》の名を冠する女性がカチュアの前に立つ。


「レインさんの嫌な方の予感が当たりましたね」

「レインの予感?」

「『暁月』リーダーの方です。私達は彼の話に乗って別の国に所属して協力するように話をつけて『白虎庵』に姿を隠していました。『夜桜』が動き出した際のために」

「レインかァ。やっぱリ」


 ミヤビは一瞬の残念そうな顔を見せる。

 

「ねェ。お姉ちゃん達は気にならないノ?」

「何がですか?」

「この世界の目的だヨ。何で私達がこんなことをさせられてるのカ?」

「???」

「そんな奴らが私達を否定するなんて笑えル。ン?」

「どうしまし、」


 アリアが言葉を終える前に第4フロアに轟音が響き渡る。

 大砲のようなその音は凄まじい光を放ち、己の居場所を誇示していた。

 『クアトロキングダム』の4つの国境の交差点から放たれたその光は静かに消えたものの、別のものでその存在感を示した。

 上空に浮かび上がる残り3分の表示。


「こんなときに新しいクエスト?」

「カチュアさん!」


 ザクッと体に鈍い感覚が走る。

 カチュアの体を短剣が貫いていた。


「【治癒(ヒール)】!」


 すぐさま治療を試みると回復こそするものの、HPはまったく変動しない。

 ならばと短剣を抜こうと力を入れるが全く動かない。


「【特殊武器(スキルアイテム):天秤短剣(ライブラナイフ)】。刺さってる術者と対象のHPを同調させる。抜く条件はどちらかのHPが0になるか、私が解除するしかない」

「なら、あんたを殺すわね」

「ーーーッ!」


 風圧が戦場を駆け、ミヤビの体を殴り付ける。

 

「大物が来たカ」



 3つの国における『夜桜』の襲撃。

 そして第4フロアで有力なプレイヤーの振り落としがより強烈になる。

 先頭を走る者。

 暗躍する者。

 様々な思惑が絡み合いクリアへと導くための物語。

 そして、第4フロアにて1つの国と2人の《称号》持ちが命を落とす。

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