第一フロアが優しくない件について ~いきなりバッドエンド?~
騒音が止み、目を見開くと自宅であることを忘れてしまうほどに目の前の景色は魅力的に映り、否応なしに興奮を駆り立てていく。
確かめるように触れた建物の質感は本物のそれと錯覚するには十分なほどリアルなものだった。
「これぞ異世界って感じだよな」
「そうですね」
ひとりごとのつもりで呟いた言葉に返事が返ってくるとは思わず、声の主に顔を向ける。
自分よりも少し背の低い少女がいつの間にか隣に立っていた。
「あなたもプレイヤーですよね?」
「そうだけど」
「初期配置の位置が近かったみたいなので挨拶をと思ったんですが迷惑でした?」
「そんなことないですよ」
当たり障りない会話。
そして互いに騒音から逃れるために、やむなく参加を承諾したことを確認すると、自然とステータスや【スキル】の存在になっていく。
「たしかにあの争奪戦は凄かったですね。私も焦りましたけど、なんとか【スキル】ゲットできましたけど」
「俺もそんな感じだよ、お?」
会話もほどなくして、視界の端にアイコンが浮かぶ。
雨宮が視線を向けると彼女も同様の反応を見せる。
お互いに指をアイコンに合わせ、タップすると、
《 クエスト:噴水広場へ集結 》
プレイヤーの皆様は《エンペラーオンライン》の抽選に当選された幸運の持ち主の方々です。
つきまして運営より『プレゼント』がございます。
是非とも参加くださいませ。
「『プレゼント』ってことは武器とかのアイテムですかね?」
「多分な。とりあえず向かってみるか」
別のアイコンから『所持項目』を開き、『地図』を開く。
噴水広場は目の前の建物を隔てた先にあるようで、すぐそこのようで特に理由もないので、2人で歩くと既に多くのプレイヤーが集まっていた。
学校でサボったであろう学生や中年のサラリーマンまで多種多様な人物逹が顔を揃えている。そんな人で埋め尽くされている一角で賑やかな場所があった。
「え?ほんもの?」
「うっわ顔きれい!」
「サ、サ、サ、ササ、サインください」
つま先立ちをして覗きこむと、女性の輪に囲まれた男性らしき影が黄色い歓声を浴びていた。
(有名人が当選したのか?)
「あぁ、『ブロッサム』の望月潤じゃないですか」
「そういえば5人で《エンペラーオンライン》の当選企画番組やってたな。アイドルで顔がよくて運まであるとか最強か」
「レインさんだって顔は悪くないと思いますけどね」
雨宮の肩を土台に一角を覗く少女もまた、綺麗とかわいいを足して2で割ったような顔をしている。
自分の顔の使い方を知ってるコミュニケーション能力だよなぁ、と静かに分析していると、新たにアイコンが点滅する。
広場全体で全員がタップするような動作をすると、噴水のてっぺんに、先程のナビゲーターの2人が現れる。
《みなさま、ようこそお集まりいただきました。『初期設定』以来でございます。これから皆様にはこのゲームで『全クリ』を目指していただくわけなのですが、各フロアには《BOSS》が存在し、倒す・またはクリアすることによって《特殊スキル》が与えられます》
《《特殊スキル》は《固有スキル》と同様にオンリーワンのもの。プレイヤーとしてはそそられますよね?》
《あ、そうですそうです。1つだけ言い忘れてました》
《特殊スキル》やオンリーワンなど、ゲーム好きには堪らない単語が飛び交い、噴水広場は色めき立っていた。
雨宮もそれは例外ではない。
高い倍率の抽選で手に入れ、抑えきれない思いでログインしたプレイヤー達だ。
そんな興奮冷めやらない空間は、
《体力が0になったプレイヤーは現実でも死にますので》
地獄に叩き落とされた。
先程までの熱はなくなり、賑わいは消えていた。
「ありえないね」
《ありえない?ジュン様》
「いくら技術が進歩したとはいえ、ゲームで人が死ぬなんてあえりないってことさ。それにお決まりのログアウト不可ってやつかい?」
《どうやら注意書きをよくお読みにならなかったのでしょうか?どこぞのラノベのようにクリアするまでログアウトできないなどということはありません。24時間以上のログアウトがなければいい。毎日の日課くらいに思えばいいのですよ》
みんなの代弁をしてくれた望月だが、理解は出来ても納得できないといった顔を見せる。
他のプレイヤーも声に出さないだけで同じ気持ちだろう。
《《さぁ、命がけのゲームをはじめましょうか》》