第三フロアで夢いっぱいな件について ~叡知の書~
【噴水広場 : ユーリの店】
「おっ、いたいた。おーいユーリちゃーん」
「ドラゴンさん、シノブさんも。どうしたんですか?」
「・・・ここだと目立つから。・・・中入れてもらってもいい?」
ユーリの建てた店。
情報を集約するために従業員は彼女のみ。誤った情報を流さないために彼女にいくこの世界において重要な役割を持っている。
そのため、彼女がログインしているかどうかは行動の指針としての機能も持っている。
「分かりました。【スキル:全魔法使用可能:音声遮断】」
案内されたのは店の奥。
彼女の【スキル】によって空間を区切り、音声を遮断することによって漏洩を防ぐ。
「【スキル:全魔法使用可能:完全記憶】」
これが彼女が情報屋たる由縁。
すべての情報を1人で統括するために必要な処置だ。
「それでお話とは?」
「・・・《BOSS》討伐時の報酬を聞きたいの」
「特別報酬ですね。話してなかったですね。ネビュラスマーメイドでは経験値やお金の他に【スキル】と『特殊武器』が手に入りました。まずは」
ユーリはアイコンを操作し、
「『特殊武器:叡知の書』です」
「やっぱ『EXA』か」
出てきたのは分厚い本。その表紙にはレインの剣同様に『EXA』の模様があった。
「・・・【スキル】は?」
「ネビュラスマーメイドの使ってた【特殊スキル:月の雫】。常時使用型のもので、HPとMPを自動回復していきます。『叡知の書』は私が記憶したことを自動記録してくれますから、記憶と記録で情報をまとめます」
「なんでもまとめられるのか?」
「えっと、多分。私が認知してないことでも例えば『☠️GAMEおOVER☠️』になってしまったプレイヤーのことは自動的に記されます。他にも新たに出現したクエストなんかも出てきますから、店に来ていただいた方には教えていくつもりです」
「・・・ありがとうユーリ。・・・本当に助かる。・・・こんなゲーム早くクリアするから」
シノブは深々と頭を下げ、それに倣うようにドラゴンも頭を下げる。
「頭を上げてください。皆さんだって最前線で闘ってくれてるじゃないですか。先頭を進んでくれているからこそ、みんながついてきてくれてる。それがどれだけありがたいか。だから頼りきってしまってるのが申し訳なくて。なので私に出来ることなら何でも言ってください!」
「・・・ありがと。・・・その言葉だけで救われるよ」
「さっそくで悪いんだけど、『EXA』の場所とか分かるか?集めれば何かしら起こると思うんだけど」
「はい!」
テーブルの真ん中に開かれた『叡知の書』。
「検索 : 『EXA』」
ユーリの言葉でめくられ、とあるページで止まる。
記されたのは『噴水広場』の地図の中で点滅する赤い点。
「ここですね。私の『EXA』に反応してるみたいです」
「・・・でもレインの分が反応してないってことは、所有者がハッキリしてても『現時点での検索結果』に基づくってことだね。・・・あとはドラ、これ渡すから一旦ログアウトしてまた入ってもらっていい?」
「お?おう」
ドラゴンのログアウトを確認し、
「・・・ユーリ。・・・『特殊武器:血濡の日刃』を検索してもらっていい?」
「はい?わかりました」
シノブの狙いが分からないまま、言われた通りにページを開く。
「えっと、『キャンドルシティ』にいくつか反応がありますけど」
「・・・そういうことか」
「???」
府に落ちた顔をするシノブと対照的なユーリ。
そして、LINEで呼び出されたドラゴンが改めてログインしたところで、整理のついたシノブが口を開く。
「・・・もしかしたらアイテムの検索は『現時点で所有者が確定して、ゲーム内に存在する場合』に反応するんじゃない?・・・ドラに渡した『特殊武器』が検索に引っ掛からなかったし」
「ということはまだ所有者が見つかってないってことですか?」
「・・・多分ね。・・・『EXA』は破格の能力がついた『特殊武器』だけどレインのはまだ未知数。・・・あと仮説を立てるなら各フロアに隠されてるかもね」
「レインのが『噴水広場』で初めてのクエストクリアでもらえて、ユーリちゃんのが『プラットホーム』での《BOSS》。なら次は第三フロアってのが普通か」
(問題はどのクエストをクリアすればいいかだな。ユーリちゃんの力だと場所は分かっても内容までは分からない)
「あ、待ってください。ページが」
独りでに進むページ。
そこには新たに点滅する赤い点を
「3つ目の『EXA』所有者が現れました。場所は、、『キャンドルシティ』です!」
(シノブの仮説の通りだったか?第三フロア《BOSS》へのゲートも出てきてない。そっちを調べる方が先か?)
「・・・その本は現状把握にはかなり役に立つけど、攻略本ではないってことだね。・・・出現したクエストは把握できても内容は分からない」
「それでも闇雲に探すって手間がないんだ。ん?待てよ?ユーリちゃん、さっき『☠️GAMEOVER☠️』したプレイヤー分かるって言ったよな?」
「え?分かりますよ」
「もしかして『鮮血の盗賊』の居場所分かったりしないか?」
「やってみます!」
即座に検索が為され、凄まじい勢いでページがめくられる。
そして恐ろしい現実がそこにあった。
「うそ、」
絶句。
ユーリの声が部屋内に響いたのと同時に3人にメールが届く。
《BOSSイベント:アシッドアサシン討伐》
『鮮血の盗賊』首領 アシッドアサシンを倒せ!
※このイベントは強制参加になります
※『噴水広場』『プラットホーム』『キャンドルシティ』の
三フロアをアサシンアサシンが移動中
※各フロアにいる盗賊団員を全て倒せばフロア間の移動可
※現在ログインされてないプレイヤーは対象外のイベントです
「・・・ドラ!ユーリ!ログアウトして!」
シノブの声が飛ぶ。
文面に書かれていないログアウトを逆手にとってクエストからの離脱を図ったのだ。
だが。
「そりゃ対策されてるよな」
苦い顔をするドラゴンがログアウトのボタンは封じられてしまったことを表す。
「・・・ならユーリ。・・・いますぐログインしてるプレイヤー教えて!・・・ログインしてないプレイヤーには私とドラがメールを飛ばすから!」
「え?え?え?」
「・・・はやく!」
シノブはユーリの肩を強く握る。
しかし事態を飲み込むことができていないユーリは狼狽えるだけ。
「ほれ!お前も落ち着け、ユーリちゃん困ってるだろ。あのなユーリちゃん手短に話すぞ。いまこのゲームに俺達は閉じ込められちまったんだ。そしてこれからログインするプレイヤーは何も分からないまま殺されるかもしれない。そういったことがないように、俺とシノブでログインしてないやつに連絡していこうって話だ。ここまで分かるか?」
「はい」
「よし。それにお誂え向きに、この世界を中継してくれてるやつがログインしてることが分かってる。コネは使わねぇとな」
ドラゴンがメールを飛ばしている間にシノブが思考を巡らせる。
レインの影に隠れているものの、彼女の思考は補佐では収まらない。多少の犠牲を良しとしている分、決断力の早さはレインを抜いている場合もある。
「・・・前回皆でログアウトしたのは『プラットホーム』。・・・ってなるとレインとナツキとアラクネがログインしたら『プラットホーム』からになるから急がないと、、、アラクネから『キャンドルシティ』にいるってメール来た。・・・となると分断されたか」
「アラクネちゃん1人が心配だな。ユーリちゃん、各フロアの団員ってどれくらいか分かるか?」
「えっと100体ですね」
「じゃあちょっくら片付けてくるわ」
「1人でやるんですか?いくらなんでも」
「・・・大丈夫。・・・ドラは強いから」
シノブとドラゴンの絶対的な信頼を見せられたユーリ。
しかし数が多すぎる。
「せめてポーション持っていってください」
「サンキュ。あ、ユーリちゃんこれ持っといてくれ」
「銃?」
「信号弾を入れてあるから危なくなったら撃ってくれ。シノブがいても《BOSS》が来たらキツいしな」
ドラゴンは両手にハンドガンを創造し、ホルスターにしまい、新たに両手に創造。他にも手榴弾や弾薬を装着していく。
「傭兵みたいですね」
【噴水広場 : 中央噴水】
「どっから行くかな」
ユーリの店を出て見晴らしのいい『噴水広場』の中心にある噴水で銃を構えることなくだらりと垂らしたドラゴン。
彼は警戒しているようには見えず、散歩でもするかのように闊歩していた。
「シノブほどじゃねぇけど、俺も暴れてみるか」
ニヤリと笑うドラゴンは閃光弾を上空に向かって放つ。
眩い光が数秒『噴水広場』を包み、直後ドラゴンの狙い通りの相手が集合する。
「20体くらいか。ま、少ないけどとりあえず減らしとくか」
溜め息をついていた彼の隙を狙って押し寄せる盗賊。
「何も準備せずにこんなとこいるわけねぇだろ」
ドラゴンの10メートルほど前で爆発が起き、7体が消滅。
盗賊達が踏み抜いた地雷による先制に成功したのも束の間、敵の視界が煙幕で遮られている間に発砲音が響き、更に9体を消滅させる。
「あと5体か。大分見やすくなったな」
話している間にも弾薬を交換し、発砲し、敵を追い詰め、地雷で消滅させていく。
「俺にはレインみたいな頭脳も、シノブみたいな闘い方もできねぇからよ。卑怯だろうが『勝つ』ことを選ぶぞ」
銃、爆弾、軍用刀、徒手空拳。
あらゆる手段を用いて、盗賊を消滅させ、その爆音を聞きつけ次々と新たな敵を呼びよせる。
その数が70を越えた辺りで敵の姿が消える。
「こんなもんかなっと。シノブにメール送っとくか。ん?」
{ バカドラへ }
そろそろ帰ってこい!
「簡潔すぎるわ!」
ツッコミを入れたドラゴンだが、直後に手甲を装備し背後からの衝撃を防いだ。
「悪いなシノブ、もうちょいかかるわ」
【噴水広場 : ユーリの店】
「・・・遅い」
「ドラゴンさんですか?でもメール送ってからそんなに経ってないですよ?」
「・・・ドラはあぁ見えて律儀なの。・・・メールは即返信が来るくらいに。・・・でも連絡すら寄越さずに遅れてるのは普段のドラからは想像できない。・・・ユーリ、アシッドアサシンの居場所分かる?」
「やってみます。検索 : アシッドアサシン」
ページが開かれ、赤い点はこの『噴水広場』のシンボルである中央噴水を指していた。
「・・・ドラの位置は!」
「すぐ、近くです」
「・・・【スキル:神速】!」
ユーリの言葉を聞くな否や、部屋の資料が飛び散るのなど構わずシノブは店を飛び出した。