第三フロアで夢いっぱいな件について ~小さな違和感~
「・・・で?・・・いきなり呼び出してなに?」
「これからについてだ」
とある喫茶店に腰を下ろした天童と雪原。
天童の申し出で2人での話し合いの場が設けられていた。
「涼真の発言おかしくなかったか?」
「・・・【スキル】の説明でしょ?」
(さすがに気づいてたか。ってか)
「気づいてたなら指摘するべきだったろ。今のあいつの立場はゲームでは柱になりつつある。それが崩れたらそれこそ全クリなんて不可能だぞ」
「・・・でもゲームである以上はクリアできることが前提。・・・今回のクエストやネビュラスマーメイド戦も散りばめられたヒントをちゃんと見ていればそこまで難しくはなかった。・・・レベル上げをきちんとして、装備やアイテム、事前の作戦を怠った人達が悪い。・・・これはゲームであっても命がかかってるのよ。・・・あらゆるものを使ってでも生き残るしかないの」
(認めなくはないが忍は頭がいいし、相手の心情を思いやれる優しさもある。だからこそ涼真よりも信用が持てる面があるのも事実だが、『目的』のために多少の犠牲を承知で進む癖がある)
「・・・それに涼真が何かを隠していたとしても、私は涼真についていく。あの時からそう決めたの」
天童と雪原、そして雨宮。
彼らが出会ったのは1人のプレイヤーの蹂躙によって緊急メンテが入るほど圧倒的な世界が出来上がっていたゲーム。
【プレイヤー名:シノブ】。
ただそれだけの情報しか開示されておらず、チートや運営の最強NPCではないかとすら噂された存在で特出すべきなのが反射。
間合いに入ったものを凍てついたように磔にし、鬼神の如く圧倒的な手数で追い詰める麗人。
それが《雪鬼姫》。
格闘ゲームのオンラインスコアを総なめにし、都市伝説にまでなった1人のプレイヤーが《RAIN》と《Dragon》名乗る2人のプレイヤーによって倒されたことはネットニュースを一時期埋め尽くした。
「・・・涼真にはともかく。・・・竜也にまで負けるなんて思ってなかったけど」
「勝率的には忍の圧勝だけどな。涼真と違ってまぐれが当たってるだけだよ。それにお前は《エンペラーオンライン》の5本の指に入るプレイヤーだぞ。胸張れよ」
「・・・うん。・・・でもさ、このゲームって課金できないし外的要因で強くなることはできないからプレイヤースキルかが必須になるでしょ?・・・でも《BOSS》戦における功績以上のものを《魔王》と《拳聖》は持ってるとは到底思えないんだよね」
「それは俺も思ってた。だからその2人は【スキル】が破格である可能性が高い。【時間回帰】よりもな」
事象干渉系統の【スキル】は対象の強弱に関係なく作用する。このチートだらけの世界においても1つ郡を抜いている。
身体能力や生成系統が生み出す能力だとすれば、付与する分類に当たり汎用性も高い。
(ナツキちゃんの話だと俺らみたいにチームを組んでる《称号》持ちがいるみたいだし、どうにか協力できるといいんだけど。人数増やせば戦力は上がるだろうけど統率取れなきゃただのデカイ的になるだけだしなぁ)
「・・・動きやすくするならユーリさんが『暁月』に入ってくれれば引き締める役割になる。・・・このチーム尖りすぎてるし全属性使える【スキル】の汎用性も高い」
「なら涼真にも伝えようぜ」
「・・・でもね竜也。・・・それはチームに必要だからといってやっていいことじゃないよね?・・・たしかにユーリさんを仲間に入れれば私達の生存率はグッと高くなる。・・・でも他のサポートに回すならどうしても後手になる・・・ならどうする?」
「離れた位置で連携取るしかないだろ?見渡せる位置で俯瞰的に見れば、、、もしかして」
「・・・遠距離担当お願いね《ドラゴン》」
FPS。
一人称で行われるゲームでは今では銃の腕で競われる際に用いられるゲーム用語。
些細な音を聞き分けていち早く敵の位置を補足し、追撃を許さぬよう一撃で仕留めることから《殲滅》の異名を持ったプレイヤーがいた。
それが天童竜也こと【プレイヤー:ドラゴン】。
《エンペラーオンライン》では武器補給と近接戦を主としているが、彼の本分は遠距離スナイプ。
スナイパーはその先手必勝を常とする。
そして長時間の集中を保つことは尋常ではない精神力を必要とする。それを補い文字通り『目』を補佐する役割である『観測』がある。
狙撃に必要な距離、風速、弾道、着弾にかかった時間。
諸々の情報を元に狙撃主の一撃をより強力無比なものに変えるのに不可欠な存在。
「ユーリちゃんが俺の『観測』をやるって?無理だろ。前みたいに涼真がやるならまだしも、素人に俺の補佐が出来るわけねぇだろ」
「・・・ムカつくけど竜也の銃の腕は認める。・・・涼真が『観測』をやれば必中に近い。・・・でも涼真はあくまでチームの頭脳になってもらう。・・・私が前衛で暴れて竜也が援護して涼真が攻略ポイントの見極め。・・・今まで通りが一番楽」
「他の仲間は?」
「・・・いらない」
(出たよ)
天童は態度に出ないよう小さく溜め息をついた。
雪原という少女は実力があるため、対等以上と認めた相手には全幅の信頼を置いているが、それ未満の相手には容赦がない。この場に久根とナツキがいなかったのは幸いだっただろう。
「・・・正直なところ3人でクリアできないクエストはないとまで思ってる。・・・【クエスト:リングアップ】みたいな人手が必要なのは除いてね。・・・指揮と回復は涼真、武器生成と援護は竜也、特攻と考察は私。・・・ね?・・・他に誰かいる?」
(忍の悪癖が漏れてるな)
おそらく彼女自身も無意識で行ってしまっている癖。
合理的な理詰めで正解を残酷に導きだしてしまう。言われた方に有無を言わせぬ回答を用意されてから発言するため準備するための余裕がない。
それを分かっていながら詰める。
普段の思いやりのある彼女とのギャップがまた言葉に説得力を持たせてしまう。
「だけどよ。涼真だって全能じゃない。どこかで必ず壁に当たる。持てる全てを用いて闘うのが涼真のスタイルだ。そのときに俺も忍もあいつの選択肢になってやらないといけない。俺とお前が一番分かるだろ」
優しく。
諭すのではなく思い出してもらうように天童は優しく微笑みかけた。
この3人の関係は仲間と呼ぶには複雑なものがあった。
「忍が涼真を大切にする気持ちは分かってる。でもあいつは自分の周りだけが無事じゃダメなんだよ。俺とお前が組めば涼真に勝てたかもしれないけど久根ちゃんやナツキちゃんがそれを阻んだ。単純な戦力なら勝てたかもしれないけど、それがあいつの力なんだよ」
「・・・説教?」
「ほら」
天童は大きく手を挙げる。
すると観念した雪原がそれに向かって手を重ね音を鳴らした。
「・・・少し落ち着いた。・・・ありがと」
一種の自己暗示。
彼らが自分達に掛けた儀式。平常にリセットするためのこの行為のおかげで今の彼らの関係があるのだ。
「まずはこのゲームクリアしないとな。どうする?アイテム揃えに行くか?」
「・・・それよりも行きたいところがあるの」
「誰だよ?」
「・・・ユーリさん。・・・ネビュラスマーメイドのラストアタックで【スキル】が手に入ってるかもだし」




