第二フロアは人間関係が複雑すぎる件について ~奈落の歌声~
「みなさん、来ましたね」
ナツキの声掛けで、『暁月』で集まる。
仲直りの経緯を聞いた彼女から安堵した彼女から本日第二フロアの《BOSS》ネビュラスマーメイドの攻略に行くのではないか?とプレイヤー間で噂しているとの情報が入り、それぞれ新しいアイテムや武器を揃えて集まったのだ。
結果としては確かに集まってはいるものの、プレイヤーは前回より少し少ない印象がある。
ひとえに『☠️GAMEOVER☠️』がちらついているせいだろう。
「それに私達はシャドウウォーカー戦で、注目されてしまいましたからね」
「そういえばレイン、みんなに作戦は話さなくていいの?網でいくなら情報共有したほうが」
「でも、ダメだったときの切り替えが遅くなっちゃうから、僕らだけでいいよ。ドラ、ナツキはポーションの数を確認しながら頼む」
最終確認を終えると、双子のナビゲーターが現れる。
《BOSSイベント:ネビュラスマーメイド討伐》
『黒渦の海』で唄うネビュラスマーメイドを倒せ!
※参加人数 無制限
※支給物資 体力ポーション(中)
MPポーション(中)
※ボスのいるフロア内以外での転移系の【スキル】や
アイテムは発動しません。
※ネビュラスマーメイド or プレイヤーの全滅以外で
ボスのいるフロアは開きません。
クエストを受注しますか?
はい or いいえ
レインは『はい』を選択。
《この場にいる1029名の参加を確認しました》
《それでは皆様、『黒渦の海』の主を倒してください》
《《ご武運を》》
光の渦がプレイヤーを飲み込んだ。
【黒渦の海】
「レイン!」
誰かの声で目を覚ますと、目の前に迫る水玉があった。
完全回避とはいかないまでも、わずかなダメージをもらったレインは即座に【スキル:時間回帰】で元に戻す。
「即死ダメージじゃなかったのはありがたいな」
「レイン、大丈夫?」
「あぁ、他のみんなは」
「別の所に転送されたみたい」
(生産型のドラとナツキが別々なのは痛いな。シノブとはすぐに再会できるとしてもそれまで持つか)
レインとアラクネを含むプレイヤー達がいるのは円形のプレートのようなフィールド。そこには黒い水溜まりがあり、どうやらそこから先程の水玉が放たれたようだ。証拠にレインの背後には小さな水溜まりができていた。
「上を目指していく感じが」
フィールドの一部分には階段が出来ており、上れと言わんばかりになっている。見上げればまたプレートのような円形が見える。おそらく何回かに渡って階層になっているだろう。
「レイン、構えて。来るわよ」
「あぁ」
黒い水溜まり。
それは徐々に人の異形の存在に変わり、鮫の形になった。
敵キャラのアイコンは《ネビュラスシャーク》を名乗る。
「武器何持ってる?」
「投擲ナイフ5本だけだ。前みたいに同じ場所からスタートだと思ってたから」
「絶望的ね。他の人と協力しないとダメね。あ、でも【スキル:操影】あるじゃない。レインの【スキル:時間回帰】なら実質無限に打てるんだから。それに」
アラクネの視線が周囲に向けられる。
初めての敵を前にして、尻込みしているような感じではなく、レインや自分達の動向を伺っている様子だ。
「悪い意味で目立っちゃったわね。私達が先陣を切らないと動かないわよ。命がけの闘いなのに誰かに意見を求めるなんて馬鹿みたい」
「でも動かなきゃ変わらないさ。それに時間もないみたいだし」
今度はレインの視線に倣うと、先程の黒い水溜まりが大きくなっている。
「あれが大きくなったらどうなるのかしらね」
「試してみれば」
「冗談が言えるなら安心ね。で?《探偵》様は何か作戦があるのかしら?」
「そうだなぁ。アラクネの【拘束】で捕まえられたりしない?」
「捕まえたとしても釣りみたいに引っ張ることしかできないわよ?囮やれって言うならやるけど」
「いや、もっと安全な方法があるよ」
『所持項目』から投擲ナイフを2本取り出し、両手に持つ。
「まずは【スキル:操影】!」
視界の端の【スキル】アイコンに視点を合わせ、使用を頭の中で念じる。
思考を読み取ったかのように地面から影の剣山が噴き出し、一直線にネビュラスシャークへ向かう。
(指向性のある影を伸ばす能力か。MPの消費はそこまでないし使い勝手もいい)
直線に進む影の剣山に対して、水玉を飛ばして食い止める敵。
数発の水玉で相殺された【操影】に確かな手ごたえを感じながら、次の手を投じる。
水玉を放ち、わずかな硬直を見せたネビュラスシャークの体に光の鞭が巻き付く。
「捕縛したわよ。今のうちに早く」
「上出来だ。止めるよ」
光の鞭の両端に投擲ナイフを投げ、地面に刺し留める。
身動きが取れなくなったネビュラスシャークに他のプレイヤーも安堵したのか、一気に警戒が薄れる。
「みんな、気を抜くな!」
レインの指摘も虚しく、口から水玉を発射させ、他のプレイヤーに着弾し、わずかに残されたHPゲージを刈り取るかのように、さらに水玉が射出される。
「何度もやらせるかよ!【回帰】!」
迫る攻撃に間に合ったレインは手をかざし【スキル:時間回帰】を使用。『水玉があった場所』を『何もなかった場所』へ巻き戻すことで何事もなかったことにし、最強の防御手段として昇華させた。
「レイン、逃げて!」
アラクネの声で振り返ると、そこには水溜まりが足元にまで延びていた。
「掴まって!」
差し出された光の糸を掴み、即座に倒れこむプレイヤーを抱える。
引っ張ってもらい離脱することに成功したレイン達。
「アラクネ!縛ってくれ」
「この状態でドM発言は、ちょっと引くんだけど」
「んなわけあるか。ネビュラスシャークの口を縛るぞ」
「りょ」
他のプレイヤーは萎縮してしまい、ネビュラスシャークの水玉から怯えて逃げる動作しか取らない。
「ん?」
空中に投げ出されながらレインは大まかな戦場の配置図を認識した。
そして、同時に最初の黒い水溜まりが大きくなりフィールドの外に滝のように落ちているほどになっている。
「他のフィールドも似たような感じだな」
両隣しか把握できないが、そのどちらもから水が溢れている。
レインが抱えているプレイヤーもHPこそ減っているものの状態異常になっていない。触れても無害なのかもしれないと悟ったレインは【スキル】で抱えているプレイヤーと自身に【スキル】を使用し、元に戻す。
「ありがとうございます。助かりました」
「体に違和感はない?」
「? ないですよ」
彼女の反応を確かめているうちに、他のプレイヤーに水玉を射出し続けるネビュラスシャーク。
『所持項目』から投擲ナイフを3本取り出し、ネビュラスシャークの鼻先と両目に命中させる。
すると、パタッと水玉の射出が止まる。
「レイン、何したの?」
「鮫の感覚器官の鼻と、視覚を潰したんだよ」
海で血を流すと鮫が来るので危険というのは有名な話だが、理由は多くある。代表的なのは鮫の血液に対する嗅覚の異常さ。潜水速度は人間の魚類では比べるまでもないだろう。
恐ろしい点として、血液と海水がほぼ同じ性質を持つため、陸ではかさぶたなどに凝固する血液が流れっぱなしになってしまうため、出血死に至るからだ。
(ネビュラスシャークが手負いのプレイヤーから襲ってきたのも類似した理由ならやりようはある)
雷系統の攻撃で感覚器官を鈍らせる。
鮫のロレンチーニ器官と呼ばれる、もう1つの餌を発見するためのソナーのようなものを破壊する。海で鮫を見つけて、ガラケーを投げて感電させたというのは有名な話だが、いまでは漁船に鮫避けの電流を流す装置があるくらいだ。
「やっと隙ができたな」
「「???」」
警戒は怠っていなかったものの、不自然なほどにネビュラスシャークの攻撃が止んだのを感じ、体ごと視線を向ける。
そこにはフィールドで初めての素手でネビュラスシャークに触れた男がいた。
「どっこいせ」
彼はここが命をかけた《BOSS》フロアだとは思えないほどリラックスし、ついには寝転がってしまった。
「えっと、助かったってことでいいのかな?」
「やっぱりな。お前、レインだよな」
「え?」
「それとも、雨宮涼真って言ったほうがいいか」
悪戯な笑顔を見せる男に対する警戒は膨れ上がったが、レインには彼の頭上で動かないネビュラスシャークに否応なしに気が向く。
「安心しろよ。オレの【スキル】知って、、、そうだったな。まぁ気にすんなよ、【スキル:固定】で完全に動けなくしてる」
「応用の効きそうな【スキル】ね」
「アラクネ?」
「レインの【スキル】と似たようなものじゃない?巻き戻しと固定なんて、2人ともビデオデッキみたいなもの選んだのね(笑)」
今のところスパイダーマンみたいなものしか見せてないのだが、そんなことは棚上げしてゲラゲラと笑うアラクネ。
レインの【操影】の連発で撃破したネビュラスシャークの経験値が同じフィールドにいたプレイヤー達に分配される。
《Congratulations》
《音階の主:ネビュラスシャーク討伐》が完了されました。
報酬:経験値
特別報酬:真空の耳栓
「アイテムまでドロップしたな」
「あれ?レインもなの?」
「何言ってんだよ。《BOSS》を含んだ特殊なモンスターを除いて、クエスト貢献度でドロップすんだろ。『EXA』も例外だが」
「あんた、どこまで知ってんのよ」
「少なくとも今のお前らよりかは知ってる。だから来たんじゃねぇか。このままだと何人死ぬか分からないからな」
そういうと彼は広がり続ける黒い水溜まりを【スキル】で固定し、そのまま上のフィールドへと向かっていった。
今度こそ安堵のため息を漏らしたレインは一抹の不安を抱えながらも、メールを仲間に送る。
反応は求めていない。あくまで、自分達の生存報告だ。
「おい、だれか助けてくれ」
「きゃぁぁぁぁ」
「嫌だ!死にたくない!」
矢継ぎ早に聞こえてくる阿鼻叫喚。
「うそ、だろ、」
フィールドが端から崩れ始めている。
前回の《BOSS》シャドウウォーカーのフロアでは端で身を隠すことで難を逃れたプレイヤーも少なくない。
今度はそれを許さないとでも言わんばかりに、闘わないプレイヤーがいた端から崩れていく。
「【回帰】!」
フィールドに手をつき、元に戻すがすぐにまた崩れていく。
「アラクネ!」
「分かってる」
光の鞭を伸ばすが、いかんせんプレイヤーが多い。
なかには飛翔系統の【スキル】を駆使して難を逃れているプレイヤーもいるが、そんな都合のいい【スキル】を選んでいるプレイヤーなんて少ない。
彼らは自分だけの【スキル】で遊ぶつもりだった。
それがいきなり命がけのゲームになったのだ。無理もない。
「重たい」
アラクネの細腕に10人以上の体重がのしかかる。




