序章 聖シャイン勇者ナシロ
室内は黒い壁に囲まれ、床には赤いじゅうたんが敷かれていた。周囲には大理石の柱が伸びており、それらは繰り広げられる激しい戦闘によって至る所が倒壊していた。
白髪の背の低い少女が大槌を振るい、床に叩きつけると轟音を立てながら亀裂が走る。禍々しい剣を持ち、悪魔の顔を模した仮面と鎧付きのスーツを着た男の方足が亀裂に挟まった。
「今よっ、お兄様!」
少女の声に、スーツを着た白い髪の青年が剣の柄を力強く両手で握りしめる。
脳裏に今まで散っていった仲間達の顔が過ぎり、心の中に怒りと憎しみが込み上げてくる。
心を鎮めていきながら、その悲しみに今こそ終止符を打つべく目を見開いた。
「終わりだ……魔王ブラックジョウシ!」
手にした聖剣ホワイトカンパニーを頭上に掲げると、白い光線が剣から放たれて天井を突き破る。聖なる光が、刃の形となって輝きを放つ。
「ザンギョウブレイカァアアアッ!!」
叫びと共に天井を砕きながら清浄なる光が魔王ブラックジョウシに振り下ろされ、その姿が白い光に呑み込まれる。
「くっ……見事なストライキです、聖シャイン勇者ナシロ……!」
光の中で魔王ブラックジョウシの姿が徐々に掻き消されていき、仮面や手に持った禍々しい剣がヒビ割れていく。
「ですが、あなたは一つミスを犯しました。……我が手にある邪剣イホウロードウは、あなたの魂を食い潰す事……でしょう」
魔王ブラックジョウシの手の中で禍々しい剣が砕け散り、そこから現れた黒い霧が勇者ナシロの身体を包み込む。
光が消え去ると、そこには剣の破片と割れた仮面だけが残されていた。
まとわりつく黒い霧に勇者ナシロは顔をしかめながら腕を振り払うと、すぐにそれは消滅した。
「なんだ? なんともないぞ」
勇者ナシロは自分の身体を見下ろすものの変化は何も起こっておらず、身体にも異常は感じなかった。明らかにただならぬものを感じたはずだが、どうやら杞憂だったらしい。
「やったー! さすがお兄様!」
大槌を手にした白髪の少女が笑顔で飛び跳ねて喜ぶのに、勇者ナシロは振り返って唇を緩める。
「ああ。これで、このカイシャは平和になる!」
微笑みを返しながら頷くと、勇者ナシロは聖剣ホワイトカンパニーを鞘に収めた。
やがて、魔王城アットホームを包み込むよどんだ空気が薄らいでいき、柔らかな光が砕けた天井から射し込んで来る。
目を細めてそれを眺めていると、全てが終わった事を実感すると共に心が澄み渡っていくのを感じた。
「さあ、行こうよお兄様! これから楽しい休日が待っているよ!」
「そうだな。帰ろう、皆の所へ」
白髪の少女が軽い足取りでスキップして去って行くのを追いかけて勇者ナシロも駆け出した。
これからカイシャは残業から解放され、全てのシャイン達が定時退勤をする事が出来るようになる。まだ世界にはおぞましき怪物クレイマーが存在するが、元凶を打ち倒した以上いずれは沈静化する事だろう。
その先には幸せな休日が待っている。
心を弾ませながら足を踏み出した時。勇者ナシロは何かを踏みつけてしまい、身体が前のめりになって倒れていく。
そのまま赤いじゅうたんの上に落ちた石の欠片に思いっきり頭をぶつけ、鈍い音と痛みが迸った。
慌てて戻ってくる白髪の少女を視界に移したまま、その目蓋はゆっくりと閉ざされていった。
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