新天地は悪魔の鍋・・・ってなに?
*砂漠の知識はほとんどない素人が書いています、ご了承ください
東砦の兵士達に訝しがれ、蔑んだ目で見られた。
それはそうだ、この先は魔物森が広がり、その先には悪魔の鍋と言われる巨大砂漠。世界から捨てられた砂漠にリモネルは目を付けた。
罪人くらいしか旅立たない生き地獄。
国々は忌み嫌われた大地の所有権を主張しない。
かつて国があったと言われる穢れた地は「精霊殺しの大罪」という昏い歴史が残っていたからだ。
メニア王は各国へ痴れ者が砂漠権を所望したことを通達した。
邪魔な元聖女に戻る理由を与えないために。
為政者達に黙認されたのは呪いのとばっちりを受けたくない為である。
万が一、自国が砂漠化などしたらと。
兵士らは王の勅命手形を見せると直立不動で敬礼してくれた。
「道中お気を付けて」とカチカチのパンを餞別にくれた。
ドレスを捨て今の恰好は性別不明の服装だ、ヒラヒラした服では邪魔だから。
「ふ・・・可哀そうって目だったわ」
森を進み人の目が無くなった頃合いで魔法を使う、空気の膜を己に包みふわりと数メートル浮く。
「よし、行け!」
追い風を利用して馬より早く森を移動する、途中で人間の臭いを嗅ぎつけた狼型魔物が襲ってきたが弾き飛ばした。
「意外と丈夫だわ、ラクチンだし120点?」
魔法に名前なんてない、なんとなくイメージで作りだしただけ。
巨大なシャボン玉という見た目だ。
リモネルは想像したものを具現化するのが得意だった。
幼少期に、王城でも披露したが「魔力を上げる鍛錬をしろ」と城勤務の魔法師に鼻で笑われた。
欲深の妹が「宝石だして!」と騒ぎになり、それ以来使えないふりをしてきた。
赤い石?を出してみたら大騒ぎになって「魔力枯れて作れない」って嘯いたんだけど。
「使えないヤツ」と王子に罵られた(あのクソ・・うんこ王子め!)
「そもそも聖女だからって聖魔法以外使っちゃダメって変な縛りだったわね」
バッグから林檎を出しシャリシャリ食べつつ視界を流れていく景色を膜から楽しんだ。
木々の背がだんだん小さくなり森を抜けるとジワリと暑くなってきた。
ゴツゴツした岩だらけの荒野を飛び越え、小石さえみなくなった先が目的地だ。
「うわーあっつぅ・・・」
***
ギラギラと照り付ける陽射しが容赦なく肌を刺してきた。
暑いをこして痛い感覚になってきた、視界の先は地平線がどこまでも続き、銀色に輝く陽炎が目に痛い。
上から下から焦げるようだ、なるほど悪魔の鍋だ。
わたしは氷を想像し掌に乗せた、あっという間に溶けて水になった。
「うん、数分で干からびるわね」
次に滴る雨を想像して歩いてみた、頭上に小さな雨雲を作り雨を降らせた。
ところが誤算だった「ぎゃーーー!熱い!!!なんで!?」危うく足に大火傷の事態。
少量の水では熱砂に落ち即熱湯になってしまうのだ。
慌てて雨雲を広げ分厚くし、雪に変え量を増やした。
ただしそれは霙のような水を含んだものだ、リモネルは本物の雪を知らない。
絵本でしか見たことがないのだから仕方ない。
「おおー移動雪シャワーと名付けようか?」センスがない。
雪雲は私の移動に合わせ従順に追いかけて私を涼ませてくれた。
振り返ると通った跡には水はない、瞬時に蒸発しているようだ。
「こわっ!ほんと地獄ね草木が生えないわけだわ」
砂漠の端でこれである、慎重に進むことにした。
「魔物さえこんな所生きられないかも、魔法ありがとう!」
熱砂が怖いので空飛ぶ絨毯を想像して作った、昔読んだ物語を思い出す。
「砂漠と言えばこれだよねー」
スルスルと絨毯は熱砂の上を移動した、時々熱風が襲ってきたが雪?でなんとか凌ぐ。
オデコと頬がヒリヒリした。
数時間ほど移動しただろうか探査イメージで位置を確認した、砂漠の真ん中あたりへ到達したようだ。
障害物が無いぶん早い移動だ、だが陽はだいぶ傾いていた急がなければならない。
次に地下水脈を探す「うーん、ん?なんだ思ったより浅い?」
土地も低いし昔は川か沼だったのだろうか。
私はバックから分厚い本を取り出し【井戸】を探す、「ふんふん」イメージを頭に叩き込み創造する。
図案のような機具を砂粒を固めて作った、見た目は上出来だが・・・・。
「えーと、ぼーりんぐ?水脈まで穴を掘るのね?」
とはいえ砂漠の砂はサラサラと流れ、掘ってもすぐ埋まる。
図案を凝視し説明書を熟読すること1時間・・・・
「よし!創造!」
掘るのを諦め砂中に円柱の穴を想像して固めてみた。
「湧水がでたら?ええーとわからないけど!次は水が噴き出すイメージ!」
出て!お願い!
私は聖堂で祈った時のように片膝をつき祈る。
雨を降らせ続けても砂地はじわりと暑い、熱砂が体力と気力を奪っていく。
ササササザサザザザザザザッ
「え、なんの音かな・・・ま、まさか魔物?」
地中が揺れている、絨毯の上でも振動を感じて慄いた。
ドドドドドドドドドドドドドッドオン!
「ひっやぁ$%#ag!?」
吹き出す地下水が噴水のように飛び出し私の体を水が打ち付けてくる。
熱砂の下から湧いたとは思えないほど、とても冷たい水だった。
「神よ、感謝いたします。生きる喜びを忘れません」
私は頭を垂れしばらくの間祈りを捧げた。
彼女の周りを青銀の美しい光が飛び回ったが、とうぜん目にするものはいない。