報酬と離別
聖女として引き取られた理由。
国を守護する聖女と王族と縁を結び国を発展させる為。
つまり妹聖女オランジェルがいれば事足りると判断されたのだ。
そっか結構今まで頑張ってきたんだけどな・・・。
「今日まで大儀であった、望む褒章はあるか?金品か婚約者を望むのらば縁の用意を・」
「いいえ、陛下。ひとつだけ願いがございます」
わたしの望みは・・・許されるのであれば!
***
貴族街と平民街を結ぶ大通りを私は急いだ、生家侯爵邸へ!
城で育った私にはなにもかも新鮮に映る街並み、馬車に乗るのが勿体ないと徒歩を選んだ。
先触れは出したが馬車で来なかった私を、応対した執事が訝しい顔をした。
応接室へ案内され数年ぶりに会う両親に緊張を隠せない、なんていえば良いだろう?
(ただいま?なにか違うか、お久しぶり?かな)
数分後、ドアの外から賑やかな足音と窘めるような女性の声が届いた。
「誰誰!?おじい様かな?」
バンッと開けられたドアから元気な男の子が顔をだした。
面差しが妹に似ていた、弟・・・かしら?
「だーれ?新しいメイド?」
「これ、失礼よション!・・・聖女様失礼しました」
「お母さま」
「・・・何用でございましょうか?」
母の硬い表情でわかってしまった、ここへ来るべきではなかった。
生家としての居場所ではなくなっていたのだ。
「そうですか、聖女ではなくなったですね」
「・・・突然の訪問もうしわけありませんでした。これを受け取って欲しかっただけですので」
わたしは報奨金(退職金)の袋を差し出した。
メイドからそれを受け取った母は顔を顰め「はした金で追い出されたのね」と辛辣な言葉を吐いた。
こんなもの要らないと冷たく返された、そういえばお茶すら出されていない。
「お、お邪魔しました!」
私は屋敷から脱兎の如く逃げるように去った。
恥ずかしくて辛くて悲しかった、走って走って・・・気がついたら城下町の噴水公園らしきにいた。
サワサワと吹く風に噴水の飛沫が顔にかかった「冷たくて気持ち良い」
周りの人々はわたしに無関心のようだ、城で暮らしていたころの誰かしらの視線を
気にしなくて良い身分になったのだと漸く実感した。
水か涙かわからない雫になぜかほっとしていた、目の熱さが消えるまでそこに佇んだ。
「馬鹿ね、弟がいたことすら教えて貰えなかった・・・家族じゃなかったんだわ」
年に4回届く文には季語を混ぜただけの定型挨拶しかなかった。
***
王宮にて
「世間知らずで醜女なリモネル嬢は生きていけるのか?」
「あら、平気よ、姉はもともと一人が好きなのよ、孤独死しても本望よ」
「ハハッ酷い事いうなぁ」
わざとらしく肩を竦めてみせる王子、心配など口先だとすぐにわかる。
「だって聖女のチカラを出してたのは私だけよ?一生コバンザメみたいに寄生されたくないわ」
「たしかに恩恵にあずかるだけって邪魔だったな」
二人にとっての姉聖女は穀潰しだけの存在に成り下がっていた。