ブレーメンの音楽隊(もうひとつの昔話 35)
ある村に年老いたロバがいました。
荷物を運べなくなってからというもの、ロバは飼い主から食べ物をもらえなくなってしまいました。
――このままでは飢えて死ぬのを待つだけだ。
そう考えたロバは、村を出てブレーメンの町へ行くことにしました。
ブレーメンの音楽隊に入ろうというのです。
ブレーメンの町に行く途中、ロバはハーハーと息を切らしているイヌに出会いました。
「どうしたんだい?」
ロバはわけをたずねました。
「年老いて猟に出られなくなったんです。それで飼い主に鉄砲で撃たれそうに……」
「だったらボクと一緒に、ブレーメンの町へ行って音楽隊に入らないか?」
「はい、ここにいては殺されてしまうんで」
イヌも一緒に、ブレーメンの町を目指すことになりました。
ブレーメンの町に行く途中、ロバとイヌは道端でぼんやりしているネコに出会いました。
「どうしたんだい?」
ロバがわけをたずねました。
「年老いてネズミを捕れなくなったんです。それで飼い主に川に沈められそうに……」
「だったらボクらと一緒に、ブレーメンの町へ行って音楽隊に入らないか?」
「はい、ここにいては殺されてしまうんで」
ネコも一緒に、ブレーメンの町を目指すことになりました。
ブレーメンの町に行く途中、ロバとイヌとネコは農家の庭先でふるえているニワトリに出会いました。
「どうしたんだい?」
ロバがわけをたずねました。
「年老いて卵を産めなくなったんです。それで飼い主にスープにされて食べられそうに……」
「だったら、ボクらと一緒にブレーメンの町へ行って音楽隊に入らないか?」
「はい、ここにいては殺されてしまうんで」
ニワトリも一緒に、ブレーメンの町を目指すことになりました。
彼らはブレーメンの町を目指して歩きました。
夕暮れのなか。
彼らはついに、ブレーメンの町はずれまでやってきました。
長いこと何も食べていませんでしたので、彼らはおなかがすいてたまりません。そこで相談して食べ物を調達することにしました。
そんなときです。
彼らは運よく森の中に、明かりの灯った一軒の家を見つけました。窓からのぞき見ますと、住人がおいしそうな食事をとっています。
「食べてしまわないうちにやろう」
ロバの合図で……。
イヌがロバの上に、ネコがイヌの上に、ニワトリがネコの上に飛び乗り、それから大きな声を出しながら部屋の中へと押し入りました。
住人は奇妙な形をした彼らを幽霊かと思い、一目散に家を飛び出していきました。
住人がいなくなると、彼らはテーブルに残ったごちそうをたらふく食べました。
その夜。
彼らは警察に逮捕されました。
不法侵入と窃盗の罪です。
今はブレーメンの町の監獄に入っています。