夕焼け
空を眺めていた。
正確に言うと、空なんてものはないらしい。
地球の外側にあるのは大気と宇宙で、そんなものを知らなかった人たちが、上を見上げたところにあったものを空と呼んだのだ。
青い。
空色だ。
広い。
どこまでも広がって、終わりがない。
終わりはないけれど、人間の限界が勝手に空を終わらせてしまっている。
そういう意味では、誰も本当の空を見ることは出来ないのだろう。
世界中のどこにいても同じ空の下にいる。
とても不思議だと思った。
耳を傾けると、草木の揺れてすれる音などの雑多なカンタービレが聞こえてくる。
これにもすでになれた気がする。
「変わらないものはあると思う?」
小さな女の子の声が聞こえた。
私がバッと飛び起きると、木陰から中学生ぐらいの少女が顔をのぞかせていた。
それは瑠衣だった。
「ああ、変わりたくないと望めば、それはきっとあると思うよ」
これはただの希望的観測に過ぎないと、頭のどこかで理解していた。
私だって成長したくはなかった。
何も考えずにのうのうと生きていたかった。
責任の取り方なんて知らない。
知りたくもない。
「変わりたい?」
「変われるものなら変わりたいさ。でもできない。きっと僕はそれまでの人間なんだよ。」
私は自らを嘲るように言い放った。
「どうして変われないの?」
「どうしてだか自分でも分からないよ。それなのに周りは変われ変われって。なぁ、可能性って何だよ。伸びしろって何だよ!そんなのただの言い訳じゃないか!本当にそれがあるやつはとっくに行動してるんだよ!もったいない?おまえらに僕の何が分かる?そんなこと、僕が一番分かってんだよ!」
私はひたすらに叫んだ。
信じられないほどに声は大きく響いた。
「哀れむな!同情するな!いいから全部俺の好きにさせてくれよ!」
彼女はそんな私をただ見つめていた。
その瞳に映る感情の色は、私には判別できなかったけれど、不愉快な感じはしなかった。
「見てて」
私と彼女はまちを空から見ていた。
耳をつんざくようなサイレンが鳴り響いている。
けたたましい音とともに戦闘機の大群がまちを覆っていく。
来る。
そう思ったときにはすでに、大量の焼夷弾がまちに降り注いでいた。
それは炎の雨のようだった。
焦げ臭い匂い。
悲鳴とサイレンとエンジンの音。
まちは赤く染め上げられていく。
「何をやっているんだ!」
私は責め立てるように彼女に問うた。
「変革よ」
彼女は悪びれる様子もなく。
まるで生命など、元からそこにないようなそぶりで淡々としている。
「やめろ!やめろよ!」
私は語気を荒げて訴えたが、状況は変わることがなかった。
止めることなどできないのかもしれない。も
う燃えていないところなどないのに、燃料は、爆弾は次々に投下されていく。
しかし、焦りはなかった。
これからどうなっていくのか見ていたいという奇妙な気持ちが内在していた。
彼女のほうを向くと、大人になった瑠衣が私に向かって悪戯っぽく笑った。
これは夢だ。
そう気づいてからも、火の海と化した真っ赤な故郷を、ただじっと見つめていた。
私は本日2度目の起床をした。
明晰夢を見ていたことは覚えていたが、その内容がなんだったか、思い出すことはできなかった。
すっきりしたような、後味の悪いような、なんとも不思議な気分だった。
もう太陽は見えないほど西へと過ぎてしまっていた。
空は燃えるような夕焼けに染まっていて、起き抜けに私は再度感動した。
ベンチから降り、ゆっくりと立ち上がってのびをする。
私は歩き始めた。
穏やかな心だった。
感想など、待ってます。