表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽の光が招くから  作者: ごま40
4/5

後悔は先に立たない

彼女はいなくなってしまった。

私は山中にひとりぼっちとなってしまった。

先ほどまでは気にならなかった暑さも、声高らかに泣く虫たちのコンチェルトも、急にうっとうしく感じ始めた。

ため息をついてしゃがみ込む。

そんな様子を見た彼女は軽口の一つや二つをたたくだろうが、待てども待てども聞こえてくるのは嘲笑うかのような蝉の声だった。


私たちは誰かしらの異性交遊を話の種にしていたが、聞きたかったのはそんな有象無象の話ではなかった。

私は彼女について知りたかったのだ。

あんなにも清廉な彼女に言い寄らない男などいないだろう。

知りたかったのは彼女自身の異性との話だった。

悶々としながら歩みを進める。

こんなに後悔するのならば、聞いてしまえばよかったのだ。私と彼女の間に恋人関係となる未来はありえないし、私にそんな資格はないのだから、問うてしまえばよかったのだ。

それは時限爆弾のようなもので、質問が頭に浮かんだ時点で、こうなる気はしていたのだ。

どうしてこの道を進むことにこだわったりなどしたのだろう。

どうせならついていけばよかった。

意固地になったせいでさみしく歩くこととなった。

いつもそうだ。

自分に正直に生きられない。

第一目標が傷つかないことにあって、日和って後々になってから悩む。

臆病者で、好きなものを好きだと言えず、リスクだけを考えている。

今までだって初恋の気持ちさえ伝えることが出来なかった。

声に出さなければ、態度で示さなければ、形にしなくては、変わるものなどありはしないのに。


そうやってまた、一人メランコリックになっているうちに、目標の地点が近付いてきていた。

広葉樹たちの傘の届かない、青い空がのぞいている。

目に入った途端、私は意味もなく走り出していた。

遠吠えのように大きな声を出しながら、坂をのぼっていく。

きっと誰も見ていない、誰にも聞こえていない。

非日常的な気分をもっと感じていたかった。

とうとうまちが見えた。

そこには空があり、海が見え、ミニチュアのまちを見下ろしていた。

いたく感動した。

自宅から少しの場所にこんな絶景があることを知らなかった。

自分が18年過ごしたまちですら知らないことはたくさんあるのに、この世界を知り尽くした気でさえいたことが恐ろしかった。

ここにない世界からの風が吹き込んでくるような気がして、何をするでもなくそこに立っていた。

万事が些細なことのように思われた。

私を支配していた暗い影が白日の下にさらされていた。

太陽は真南よりも少し西側にある。

今日は様々なことがあって疲れてしまった。

日陰になっているベンチに寝そべった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ