表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和転生  作者: 佐藤謙羊
3/24

03 昭和からモンスター昭和へ

 ショーマは自身が6歳に戻ってしまったと知ったとき、かつてないほどの衝撃を受けてしまう。

 そして今もまた、それに比肩するほどの驚愕が、身体じゅうを駆け巡っていた。



 ――も、『モンスターバーガー』って、本当にモンスターみたいなのがいるじゃねぇか!?



 ブラウン管の向こうにあったのは、銀座の交差点。

 今日は歩行者天国になっているそこは、多くの人でごったがえしていた。


 おそらく店名の頭文字を模したのであろう、鋭い『M』のロゴが印象的な『モンスターバーガー』。


 カウンターの向こうには、白い肌に長い耳の女性店員。


 それはまあ、ちょっと特徴的な人間と言われれば、納得できなくもない。

 しかし問題なのは、その奥の厨房。


 鉄板やフライヤーの前には、黄土色の肌に出っ腹のオーク。

 そしてできあがったバーガーをちょこまかと運ぶ、緑色の肌に尖った耳のゴブリンが……!?


 明らかなる異次元生物がいるというのに、まわりの人は誰も気にする様子もない。

 それどころかよく見たら、ファンタジーRPGから飛び出してきたかのような、戦士や魔法使いのような者たちが、行列に並んでいるではないか……!


 ショーマは信じられず、メガネを外してみたが、映っているものは変わらない。

 目を何度もこすってみたが、見ているものは変わらない。



「おっ……おいっ!? コレ、なんだよっ……!?」



 あわあわしながら画面を指さすショーマ。

 ちゃぶ台に頬杖をついていたアーネストが、事も無なげに応じる。



「ああ、いくら銀座でも『冒険者』くらいいるわよ。だって近くに日比谷公園の地下迷宮(ダンジョン)があるんだから」



「だっ、ダンジョン!? って、そうじゃねぇよ! この化け物みたいなのはなんなんだよっ!?」



 今度はママリアがおっとりと言ってのける。



「ああ、オークさんにゴブリンさんですね。最近では、働くモンスターさんも多くなってきましたよねぇ。ママがアルバイトしているお弁当屋さんにも、オークさんの作業員さんたちがお客様としてお見えになられますよ」



「え……えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 ショーマはまたしても、ふたりによくよく話を聞かなくてはならなくなってしまった。


 昭和のはじめ頃に、こことは違う世界にある『スーア』という惑星(ほし)と、こちらの世界とを繋ぐ異次元の扉が開き、多くの異世界のものたちが、この地球に流れ込んできたという。


 高位のモンスターは地球の現代兵器がまったく通用せず、彼らは各地に地下迷宮(ダンジョン)を構え、なかには建物を乗っ取り、勝手に棲み着いてしまったそうだ。


 同時にやってきた、エルフやドワーフなどの亜人間なども暮らし始め、地球は否応なしに共存を余儀なくされてしまった……ということらしい。


 ショーマはその経緯を聞いたところでまったく納得できなかったが、さらに謎を増やしてもしょうがないので無理やり腹におさめる。


 しかしやはり、気になることはあった。



 ――そういえば……。

 俺がオッサンだった頃に、いた世界……。


 ややこしいから、『かつていた世界』ってことにしとくが……。


 そこでは、世界的に有名なハンバーガーショップの日本1号店が……。

 1971年7月20日に、銀座にオープンしたんだ……。


 そしてこっちの世界でも、同じ時期にハンバーガーショップがオープンした……。

 しかし、日付と場所はバッチリあっているものの、店名がまるで違う……!


 中で働いているヤツらも、買い求めてるヤツらも、微妙に違う……!


 もしかして俺は、6歳の頃の夏休みに、戻っただけじゃなくて……。

 世界線とやらをまたいで、微妙に違う世界に来ちまったのか……!?



 ショーマがメガネごしの幼い眉間にシワを浮かべていると、ハァ、と大きな溜息をつかれてしまった。



「まさかショーマが、自分自身やお姉ちゃんたちのことだけじゃなく、まさか何もかもぜんぶ忘れてるなんてねぇ」



 自称お姉ちゃんはやれやれとツインテールをかきあげていたのだが、その黄金の羽衣のように美しい髪の間から、ふと、



 ……ぴょこんっ……!



 と長細い耳が、飛び出したっ……!?


 これにはショーマも「ぎょっ!?」と度肝を抜かれる。

 それまではエルフもテレビごしの存在だったので、なんとなく実感がわかなかったのだが、いきなり実物を見せられて飛びすさってしまった。



「おっ……!? おまおまおま、おまっ……!? エルフだったのかっ!?」



 震える指でさされ、ツインテール少女は頬をぷくっと膨らませる。



「人を指でさすんじゃないわよ。それに重ね重ね失礼ね、オバケを見たみたいな顔して。お姉ちゃんがエルフだと、なんか問題でもあるの?」



 アーネストはぐうの音も出ない正論(?)を吐きながら、ちろりと横の人物を見やる。



「でもまぁ、ママのほうは問題があるかもしれないわねぇ……」



「え……!? と、いうことは……ママリアも、異世界から来たのか……!?」



 責めるような目線で突き刺され、居心地が悪そうに居住まいを正すママリア。


 その様は、借金のカタに取られたような、ちょっとエロい……。

 いや、だいぶエロい人妻女子高生にしか見えないのだが……?



「こ……答えろママリアっ! お前は何者なんだっ!?」



 すると自称ママは、ただですら八の字になっている困り眉を……。

 さらに末広がりにして、すがるような瞳を向けてくる。



「そ、そんな、何者だなんて……! ママは、ショーマさんのママですっ!」



「う……嘘だっ! こんなに若くて可愛くてエロい女子高生が、俺のママなわけがない! むしろママにしたい!」



「さっきからずっと何言ってんのよ」



「わ……わかったぞ! アーネストがツインテールで耳を隠していたように、お前はその三角巾で隠してるんだな!? でなきゃ、ずっと三角巾をしてるわけがない!」



「お姉ちゃんのは別に隠してたわけじゃないわよ」



 横から突っ込みを受けつつも、ママリアに挑みかかるオッサン少年。



「きゃあっ!? お、おやめになってください! ショーマさん! そういったことは、お赤飯の日を迎えるまで、お待ちになって……!」



 もみ合うはずみでショーマはママリアを押し倒してしまい、三角巾も剥がれてしまう。


 そしてなぜか彼女は、エプロンどころかセーラー服まではだけさせ……。

 めくれあがったスカートからまぶしいほどの太ももを覗かせ……。


 すっかり観念したように両手をばんざいさせ、頬の赤みと、涙の滲み始めた顔をそらし……。



「せ、せめて……せめてやさしく、やさしくしてくださいませんか……?」



 色っぽい吐息まじりに、泣きつくような言葉を紡ぎ出していた。


 しかし、あまりにも見当違い……!


 そもそもショーマは、別に彼女を手籠めにしようとしたわけではない。

 彼女の乱れ姿で、一瞬だけそんな衝動にかられたものの……。


 そうではない、そうではないのだ。


 畳に扇状に広がった、薄ピンクの髪。

 その桃色の川をたたえる、源流には……。


 ねじれた二本の角が、ちょこんと……!?



「ママは淫魔(サキュバス)なのよ」



 と、横にいたアーネストが教えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ