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昭和転生  作者: 佐藤謙羊
23/24

23 初めての戦闘

 地下迷宮(ダンジョン)に足を踏み入れた少年は、



「ぎょっ!?」



 わずか数歩で度肝を抜かれてしまう。


 いくら野良とはいえ、ダンジョンと名が付いている以上は、探索できるだけのストロークが長々とあると思っていた。

 途中には雑魚モンスターや罠、そして宝箱などのご褒美があって、最深部に問題のモンスターが待ち構えているのだと思っていた。


 しかし現実は、サプライズ……!

 角をひとつ曲がっただけで、いきなりチキンっ……!


 そして、『クレイジー』と付いているとはいえ、しょせんはチキンだろうとたかをくくっていた。

 ちょっと大きいくらいのニワトリを想像していたのだが、そんなものではすまされないレベル。



 ――こりゃ、ダチョウくらいあるじゃねぇかっ!?



 ショーマが息を呑むヒマもなく、



「コケェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 そのダチョウは雄叫びとともに、猛然と突っ込んでくる。

 まだ何もしていないというのに、子供でも殺されたかのようなテンションで。



 ……ピピッ!



 とスマートグラスが反応し、敵の突進ルートを知らせてくれる。



「み……右だっ!」



 ショーマは背後の仲間に向かって叫びつつ横っ飛びする。


 しかし反応できる者は誰もいなかった。

 3人の少女たちはクレイジーチキンの先制タックルをまともに受けてしまい、



「「「わあっ!?!?」」」



 暴風に薙ぐ木々のように押し倒されていた。



「コケッ! コケッ! コケッ! コケェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 そのまま上に乗っかって、げしげしと足蹴にしてくるクレイジーチキン。



「いたいいたいいたい! なにすんのよっ!?」



「きゃあっ!? おやめになってくださぁい!」



 野球のグローブくらいある巨大な(あしゆび)の下で、叫びもがく母娘。

 オーヤスワンは無言と真顔のままで、手足をバタつかせていた。


 ショーマは受け身を取って転がり、体勢を立て直したあと、腰に下げていたスリングショットを引き抜いて構える。



 ……ピピッ!



 深紅のロックオンカーソルが、鳥頭に向かって収束。

 さらにホログラムが手元のあたりに出現し、ショットを命中させるための最適な構え方や、ゴムの引き絞り加減を教えてくれる。


 これらはすべて、ルールルの「スポーツアシスト機能」によるものである。

 ガイドの位置にぴったり合わせると、ホログラムはふわりとした光を放った。



 ……シュバッ!



 幼い少年の、もみじのような手から放たれたとは思えないほどの高速の石つぶてが、空を切り裂きながら直進し、



 ……ガツンッ!



 見事、クレイジーチキンの頭を薙ぎ返していた。



「グケエッ!?」



 長い首が大きくぶれたあと、コブラの頭のようにニョロリと動き、石が飛んできた方角に向き直る。

 真鍮のように濁った瞳がギョロリと動き、瞳孔が蛇眼のように細くすぼまる。


 並の小学生なら何滴が漏らしているであろうほどの、恐ろしい眼光がショーマを捉えた。

 そして並ではない小学生の彼でも、尿意を感じたかのように背筋をブルッと震わせる。



 ――よ、よしっ!

 なんとか敵の注意を引きつけることができたぞ!



 彼は『マジック・スカウト』になると決めてからというもの、ルールル検索で、スカウトにおける立ち回りを調べまくっていた。


 モンスターとの戦闘において、モンスターの攻撃は前衛がターゲットとなり、一手に引き受けるのがセオリーとされている。

 しかし、前衛が戦闘不能な状況などに陥っている時などは、スカウトが一時的にその役割を引き受け、体勢を立て直すのに手助けをするのだ。



「コケェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 クレイジーチキンは本当の子の仇を見つけたような勢いで、翼をバタつかせながら迫る。

 ショーマは素早く立ち上がって逃げようとするも、あっという間に追いつかれてしまう。



「やべっ!?」



 再び飛んで、突進をかわす。

 本体の攻撃はよけきったものの、翼ではたかれてしまった。


 それだけで、30キロにも満たない彼の身体は紙クズのように吹っ飛ばされてしまう。



「ショーマっ!?」「ショーマさんっ!?」



 母娘の悲鳴を聞きながら、ショーマは空中でクルリンと身体をひねって着地する。


 その様はまるで、体操選手の卵のような華麗なる身のこなし。

 咄嗟にそんな芸当ができるのも、スマートグラスの『三半規管調整機能』のおかげ。


 ショーマは軽く息を整えながら、再びニワトリのバケモノと対峙する。

 しかしヤツは突然、雷鳴を聞いたかのように、



「コッケェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 身を翻して、あさっての方角に驀進……!

 その先を目で追うと、うつむきながらブツブツと何かをつぶやいている、オーヤスワンが……!



 ……どしゃあっ!!



 「うっ」と短い悲鳴をあげ、車に跳ねられた人みたいにすっ飛んでいく少女。



「「「お……大家さぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」」」



 木の枝のようにか細い彼女は、再びストンピングの雨に晒される。



「オーヤスワンから、離れなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー一!!」



 アーネストが大剣を振りかざしながら助けに行った。

 真横から胴体をぶった切るように、大上段に構えた剣を振り下ろしたのだが、



 ……ひらりっ!



 寸前で軽やかに避けられてしまい、



 ……どしゃあっ!!



 攻撃は図らずとも、倒れていた仲間への追い討ちに……!

 「ぐふっ」と短い悲鳴をあげ、折れた枝のように動かなくなってしまうオーヤスワン。



「「「お……大家さぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」」」



 しかしショーマには、仲間の安否を気遣っているヒマはなかった。

 それにオーヤスワンはむしろ、駆けつけたママリアの胸に抱かれて、どことなく幸せそうに見える。


 そんなことよりも……いまは、目の前のアイツをなんとかするのが先だ。

 少年は額を流れ落ちていく汗を拭うこともせず、メガネを人さし指でクイと直した。



 ――このクレイジーチキンとかいうモンスター……。

 つ、強え……!


 警官ふたりが退治しようとしなかったのも、今ならわかる気がする……!


 俺が注意を引きつけてる間にオーヤスワンの魔法でダメージを与えられればと思ったんだが、まさか詠唱に反応するとは……!


 しかも攻撃の真っ最中、真横からアーネストが斬りかかっても、難なくかわしやがった……!


 オーヤスワンがやられちまった今、残るはアーネストの火力だけが頼りだってのに……!

 あんな調子じゃあ、俺が注意を引きつけたところで、当たるかどうか……!


 おそらく、ニワトリは横に目が付いているから視界が広く、側面からの攻撃にも対応できるんだろうな。



 そこまで考えて、ショーマはあることに気付いた。



 ――そうか……!

 ヤツが本当にニワトリだとしたら、まだ、勝ち目はあるかも……!?

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