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昭和転生  作者: 佐藤謙羊
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22 初めての冒険

 ショーマが決めた、冒険者の職業、それは……。


 『マジック・スカウト』……!


 役割としては、地下迷宮(ダンジョン)内でパーティを先導しての斥候。

 戦闘となれば中衛として、前衛の手伝いをしたり、後衛を守ったりする。


 そして罠や宝箱などがあれば解除するという、戦闘職というよりもサポート職に近い。

 さらには魔法も使いこなすというハイブリッド職。


 わりと忙しい役割のような気もするが、少年がこの職業に目を付けたのには理由がある。


 まず、斥候任務については、スマートグラスが大いに役立つだろう。

 そしてまだ子供なので力はまるでないが、すばしっこさなら自信がある。


 さらに身体が幼い以上、戦えるだけの筋力を得るためには時間がかかる。

 しかし頭脳は大人なので、勉強のほうは効率的にこなせる。


 となれば魔法だ。

 少しずつ勉強を重ね、魔法も使えるようになれば、さらにパーティに貢献できる……。


 というわけであった。


 自分なりの考えをまとめたショーマは、再び母娘と冒険者ショップを訪ね、装備一式を揃える。


 購入したのは、防具として盗賊(シーフ)用の隠密スーツ。

 加圧シャツのように身体にピッタリした素材でできているが動きやすく、また衣擦れの音もしない。


 そして武器として、ナイフ二本とスリングショット。

 ママリアは危ないからと言って、刺すと刃が引っ込む手品用のナイフを勧めてきたが、即座に却下。


 なにはともあれ、これで冒険者デビューのための準備が、すべて整った……!

 あとは、地下迷宮(ダンジョン)に突撃するだけ……!


 とショーマが息巻いていたら、アーネストがうってつけのモノを見つけてきてくれた。



「近所の公園に、野良地下迷宮(ダンジョン)ができたそうよ! 行ってみましょう!」



「野良地下迷宮(ダンジョン)?」



「『スーア』にいるヤツがたまにイタズラで、無許可でこっちの世界に地下迷宮(ダンジョン)を繋げちゃうのよ! それを野良地下迷宮(ダンジョン)っていうのよ! そんなことはいいから、早く支度なさい! 早く早く早く早くっ!!」



 息を切らして帰ってきたアーネストに急かされ、わたわたと冒険者ルックに着替えたショーマたち。

 隣家のオーヤスワンを引きつれ向かったのは、家から100メートルほど離れた小さな公園。


 そこには、土が盛り上がってできたような、小さな洞穴。

 入り口の背は低く、ショーマでギリギリ、アーネストだと屈まないと入れない。


 『立入禁止』の黄色いテープが張り巡らされ、前には鎧を着た警官がふたり立番していた。


 こういった穴ができるのは珍しいことではないのか、野次馬はひとりもいない。

 それどころか公園内には、穴には目もくれず、遊び回っている子供たちがいる。


 冒険者ルックでキメたショーマ、アーネスト、ママリア、オーヤスワンが穴に近づくと、中年の警官が不思議そうな顔をした。



「おや、こんなところに冒険者とは珍しい。それに、こんな幼い子たちばかりとは……」



 すると、隣にいた若い警官がチャチャを入れる。



「先輩、今どきはそんなに珍しくないっすよ、今の子供たちのいちばんなりたい職業ってなんだか知ってます? 『冒険者』っすよ」



「そういうもんか、キミたちはここに入りたいのかね?」



 中年警官の質問に、ショーマが答えようとしたが、それよりも早くアーネストが一歩前に出ると、



「もちろんそのために来たのよ!」



 ずい、と鎧ごしの胸を得意気に反らした。

 そして、今日が初めての冒険とは思えないほどに慣れた口調で、横柄に尋ね返す。



「中はどんな感じになってるの? あんたたちがここでボーッと突っ立ってるってことは、ゴブリンとかの雑魚じゃないんでしょう?」



「ああ、中には『クレイジーチキン』がいる。ワシらふたりじゃどうにも手が負えんから、署のほうに封印を頼んである。明日には封印されるはずだから、入るなら今のうちだが……子供で手に負える相手じゃないぞ」



 ちなみにではあるが、このように街中に突如として地下迷宮(ダンジョン)が現れた場合は、まず管轄の警官たちにより現場保持がされる。


 その後、立入調査して、中にいるのが排除できそうなモンスターの場合は警官の手によって排除。

 難しそうな場合は、今のように封印効果のあるテープを貼って出られないようにして、本署の『ダンジョン課』に応援を求める。


 後日、ダンジョンを封印する技能のある署員がやって来て、封印の儀式をする……。

 これが、この世界における野良地下迷宮(ダンジョン)への一連の対応である。


 さらに余談になるが、警察の生活安全課に申請して承認されたダンジョンにおいては、その限りではない。

 しかしこの世界に新たな地下迷宮(ダンジョン)を作るためには、かなりの審査をパスしないといけないのと、しかるべき所に根回しが必要とされているので、なかなかの大仕事といえる。


 そんなことは、さておき……。

 『クレイジーチキン』と聞いたアーネストは、真っ先に瞳に鶏肉を浮かべて大はしゃぎ。



「クレイジーチキンですって!? それなら相手としては不足はないわ! 今すぐお姉ちゃんたちが行って、チャッチャッと片付けてあげるから、そこをどきなさい!」



 シッシッと手で追い払う仕草をするアーネスト。

 彼女の態度があまりにも尊大だったので、警官たちはベテランの冒険者なのかと勘違いしてしまった。



「なら、通してあげるけど……いちおう、荷物検査だけはさせてもらうよ、規則だからね」



「わかってるわよ、さっさとしなさいよ! こちとら忙しいんだからね、早く調べなさい! 早く早く早く早くっ!!」



 小学生の女の子に急かされ、警官ふたりはわたわたと荷物チェックをする。

 ベルトポーチの中やリュックサックの中をあらためられ、問題ないと判断された。


 ママリアと警官たちは顔見知りらしく、ママリアちゃんが行くなら私たちも……と同行を申し出てくれたが、それはショーマがぴしゃりと断った。


 なんにせよ、少年はようやく、スタートラインに立つことができた。

 冒険者という人生の、スタートラインに……!


 その行く先は薄暗く、先行きが見渡せなかったが、彼にとっては輝いて見えた。

 いま、その第一歩を踏みしめるように、地下迷宮(ダンジョン)内へ……!


 しかし、余韻もへったくれもなかった。


 入ってすぐの通路はあっという間に終わり、広い空間に出る。

 壁のかがり火に囲まれた、こうこうと明るい室内には……。



「コケェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 耳をつんざくような雄叫びをあげる、チキン(にわとり)と呼ぶにはあまりにも巨大な怪鳥が……!


 人間の腕くらいはありそうな、太くて長い首を、鎌のようにもたげ……。

 高波のごとく覆い被さんばかりに、翼を広げていたのだ……!

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