21 冒険者専門店
ショーマたちは次の日、振り込まれた1千万円を手に、冒険者用品の専門店に向かう。
地元の町には無かったので、上野まで足を伸ばす。
近場にも小さな専門店はあったのだが、ルールルで調べてみたところ、冒険者用品のメッカといえば上野だというのがわかったためだ。
どうやら冒険者用品というのは、スポーツ用品と同じくくりで扱われているらしい。
もう少し時代が進めば百貨店、そして家電量販店とかでも扱われることになるんだろうな、とショーマは思う。
上野に着くと、そこは今まで以上にファンタジーな世界が広がっていた。
中東とかにありそうな、幌で作ったようなテントの露店が居並び、剣や盾などが所狭しと飾られている。
道行く人々は鎧にローブの割合が多く、この世界の格好をしている人がほとんどいない。
ここだけ、異世界が地域丸ごと引っ越してきたかのよう。
銀座の歩行者天国に比べると人は少ないのに、密度と雑多さと熱気は段違い。
ママリアとアーネストは里帰りしたかのように懐かしがり、ショーマは見たこともないものばかりが並ぶ店や人々に、おのぼりさんのようにキョロキョロしていた。
上級の冒険者はこういった露店を利用し、いいものを安く買うらしいのだが、初心者はぼったくられるので、少々高くても大きな店に行ったほうがいいらしい。
店先で熱い鉄を打っているドワーフたちの店などには非常に惹かれたが、ショーマは比較的現代的な店構えの冒険者用品店を探して、そこで買い物をした。
まず、肝心の『復活』の宝玉と、『離脱』の宝玉。
宝玉自体は小さく、5カラットくらいの宝石だった。
それが持ち運び安いようにペンダントや指輪に付けられている。
ショーマは腕輪タイプのものを選び、アーネストはペンダントタイプ。
ママリアは悩んでいたようだったが、指輪タイプものに決定していた。
オーヤスワンは宝玉をすでに持っているらしく、買わなかった。
なので、3人分あわせておよそ600万円。
ショーマとアーネストのふたりがかりで値切って、550万円にしてもらう。
ちなみにではあるが、店員には魔除けが標準装備されており、ママリアの魅了は効かない。
のっけからかなり高額となったので、ショーマは車でも買うような気分になっていたが、ママリアは家でも買うみたいに震えていた。
「あ、あの、ショーマさん……」
「なんだよ。今さら、やめろだなんて言うなよ?」
「い、いえ、そうではありません。あの、お願いがございまして……」
「なんだよ?」
「この指輪を買ったら、いちばん最初にママの指に、はめてくださいませんか?」
「……? 別いいけど……」
ママリアにはいつも、頼んでもいないのに着替えを手伝ってもらっていたので、そのくらいはお安い御用である。
でもそれだけで、ママリアはパアッと華やいだ笑顔を浮かべ、頬を上気させていた。
必須アイテムである宝玉を買ったあとは、装備をひとそろえ。
騎士志望だというアーネスは、自分の身長くらいある、鉄塊のようなツーハンドソード。
そしていかにも女騎士っぽいドレス風の魔法鎧を選んだ。
オーヤスワンは陰陽師と巫女服を足したような魔法装束と、錫杖。
普段着が和服なだけあって、和風なものが好きなようだ。
そして問題なのはママリアだった。
最初は彼女はセーラー服にエプロンと、普段着で冒険に参加するつもりでいたのだが、それだと危険だと店主から諭されて、やむなく装備を選ぶ。
「せっかくだから」と彼女がチョイスしたのは……ホウキとメイド服。
「うふふ、ママ、いちどでいいからこのお洋服を着て、お掃除をしてみたかったんです」
よくわからない願望を口にしながら、姿見の前でくるりんと回るママリア。
ホウキとメイド服はどちらも魔法使い用の装備だったので、冒険用には事足りる。
しかし問題なのは、サイズであった。
胸のサイズが合うメイド服がひとつしか無かったのだが、それが袖と脇が大胆にカットしてあるタイプのもの。
『童貞を殺すセーター』どころか、『童貞を即死させるセーター』みたいに横乳がはみ出ている。
それがまた、巨人の国にある白桃みたいに、白くてたわわで、ぷるんぷるんで……。
さらにそこから、彼女の体臭である桃の香りがふんだんにして、近くに寄るだけで思わず吸い寄せられそうになってしまう。
オーヤスワンは欲望の赴くままに彼女に擦り寄って、肩口からめいっぱい芳香を吸引していた。
瞳はトロンとしていて夢見心地、すっかり魅了された様子ではあったが、つられて誘われた店員たちは、しっかりと手で押し戻していた。
「あのフェロモンはスキルの一種で、レベルを上げると凄いことになるのよ」
と、アーネストが得意気に教えてくれる。
「今でも凄いことになってる気がするが……レベルを上げるとどうなるんだ?」
「あの香りを嗅ぐと肺がマヒして、窒息死するのよ」
「青酸ガスかよ」
「そんなことよりもショーマ、あんたの装備はどうするのよ? っていうかアンタ、何の役割をするつもり?」
姉にそう突っ込まれて、少年は、なによりも大事なことを思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日、ショーマだけは装備を買わなかった。
なぜならば、
――俺は、いったい何をすればいいんだ……!?
冒険における立ち位置を、決めかねていたから。
――アーネストが前衛、ママリアとオーヤスワンが後衛となると、消去法で前衛がベストということになるが……。
しかし、そんな簡単な問題ではない。
――俺に、前衛が務まるのか……!?
日比谷公園で挑戦したアトラクションの地下迷宮では、ボスを倒すほどの大活躍をおさめたショーマ。
ルールルの『スポーツアシスト機能』があれば、敵の攻撃は難なくよけられるだろう。
しかし問題は、攻撃である。
今度は実戦になるので、相手は肉も骨もあり、鎧も着ているだろう。
丸出しの紙風船であるならば、問題なく勝てたのだが……。
非力な6歳の子供が振るう剣が、果たして通用するのだろうか……?
となると後衛の魔法使い職になる手もあるが、まだ魔法は未経験。
小学校では夏休み明けから習うらしいが、今から早めに習い始めたとしても、いつ実戦で役に立つレベルになれるかは未知数。
それに、前衛をアーネストひとりに任せておくというのも、負担が大きい。
ショーマはそれからルールルを駆使して、冒険者関連の情報収集をする。
今の自分でも最大限に貢献できる『役割』を探すためだ。
そして、彼が出した答えは……。
「決めた! 『マジック・スカウト』に俺はなるっ!」