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昭和転生  作者: 佐藤謙羊
20/24

20 新たなる仲間

 具が3種類しかない手巻き寿司とはいえ、いまのショーマにはごちそうには変わりなかった。

 アーネストと奪い合うようにして食べあい、満腹になったお腹をさすっていると……。


 ふと縁側に、和服の少女が佇んでいるのに気付いた。

 それがまるで幽霊のようだったので、ショーマは「うわあっ!?」と飛び上がる。


 それで母娘も気付いた。



「あら、オーヤスワンさん、こんばんは」



「どうしたの、オーヤスワン? あんた、夏休みは軽井沢で過ごすって行ってなかった?」



 『オーヤスワン』と呼ばれた幽霊少女は、中学生くらいの見目をしていた。

 影で「花子さん」とか呼ばれてそうな黒髪のおかっぱ頭に、この世に未練のありそうなジト目。


 生きているのかも怪しいほど息づかいのようなものが感じられず、地縛霊のようにその場に佇んでいる。

 そして彼女は独り言のように、



「帰ってきた。これ、おみやげ」



 ぼそぼそつぶやきながら、『軽井沢』と書かれたペナントを広げていた。



「あらあら、おみやげだなんて……わざわざご丁寧に、ありがとうございます」



 ママリアが立ち上がって出迎え、縁側で跪いて視線を合わせると、彼女は久しぶりに飼い主に会った猫みたいに、ママリアの肩に顔をこすりつける。


 ショーマは、「なぁ、アイツは誰なんだ?」と姉に尋ねた。



「ああ、そっか、ショーマは何もかも忘れてるのよね。あの子はオーヤスワン。隣に住んでる大家さんよ。夏休みは軽井沢で過ごすって言ってたんだけど、ママリアに会いたくなって帰ってきたみたい。あの子、ママリアのことが大好きだから」



 オーヤスワンがママリアのことが好きなのは、あの甘えっぷりからも一目瞭然である。

 その耳慣れない名前から、異世界人であろうこともなんとなくわかった。


 そしてこの家の砂壁にはペナントがやけに貼ってあると思ったのだが、その理由もはっきりした。


 少女はさらに、網に入ったスイカと花火セットを取り出す。



「これも、おみやげ」



 アーネストはペナントにはノーリアクションだったが、夏の『よくばりセット』ともいえるそれらには、ツインテールを振り乱すほどに反応していた。



「スイカに花火だなんて、わかってるじゃない! さっそく食べましょう! さっそくやりましょう!」



 ショーマたちの住む家の庭はやたらと大きくて、隣にある大家の家と共有のようだった。


 住んでいる者たちの所得の違いがあるせいか、いかにも金持ちといった、立派な松の木や池がある枯山水コーナーがあったり、庶民的な物干し台や家庭菜園コーナがあったりと、バリエーションも豊富。


 そんな中、オーヤスワンを加えたショーマ一家は、縁側でカエルの鳴き声と風鈴の音をBGMに、スイカを食べつつ、花火を楽しむ。


 オーヤスワンは岩の上にロウソクを立てると、それに向かって一言二言、何やらごにょごにょつぶやいた。

 するとロウソクの先に、



 ……ポッ……!



 と火が灯った。



「……オーヤスワン、お前……魔法使いなのか!?」



 ショーマひとりで驚いていると、何を今更とばかりに頷き返された。

 アーネストまで、あきれた溜息をつく。



「オーヤスワンは高位の魔法使いだけど、『発火』の魔法くらいならママリアも使ってるでしょうが」



「はい、ガスコンロの火を付けるのに、まいにち使っております」



 魔法が異世界人によってこの手に持ち込まれたのは知っていたが、手の届かない存在だと思っていたショーマにとっては意外であった。



「そ……そうだったのか」



「そうよ。それにショーマも2学期からは魔法を習うでしょう。『発火』は中学になってからの選択科目だけど、このくらいならすぐにできるようになるわ」



 アーネストは事も無げに言いながら、池に向かって手をかざした。

 すると池の岩でゲコゲコ鳴いていたカエルが、ぴょんと飛び上がる。



「なんだ今の?」



「『カエルジャンプ』の魔法よ。魔法を習うときにいちばん最初に覚える魔法だから、魔法職じゃないお姉ちゃんでも使えるの」



「そうなのか……でも使い道のなさそうな魔法だな」



「まあ初歩の初歩だからね。それよりもオーヤスワン、アレをショーマに見せてやんなさいよ」



 促されたオーヤスワンは「嫌」と即答。

 しかしママリアが重ねてお願いすると、「了解」とこれまた即答。


 ロケット花火に向かってごにょごにょ呪文を唱えるオーヤスワン。

 和服に魔法って、なんだかアンバランスだよな……とショーマが思っていると、



 ……シュバアッ……!



 まるで龍の吐息のような火花が起こり、



 ……ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッ!!



 そのまま昇り龍のように、天に昇っていくと……。



 ……ドバァァッァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!



 大輪の花を、星空に咲かせた……!



 「たーまやーっ!!」「綺麗ですねぇ」と喜ぶ母娘。

 ショーマは呆気にとられてしまった。



 ――す……すげえ!

 ただのロケット花火を、こんなにド派手に変えるだなんて……!


 これが、『魔法』なのか……!



 銀座の街で『マジック・アロー』を見たときも驚きだったが、威力も衝撃も段違い……!


 少年はすぐさま縁側から飛び降りると、和服の少女に詰め寄った。



「おい、オーヤスワン! 俺と一緒に冒険者になってくれ! お前のその魔法がありゃ、鬼に金棒だ!」



「嫌」



「パーティには、ママリアもいるぞ!」



「了解」



「よし、新たな仲間、ゲットだぜ!」



 平坦な声と表情で、手のひらを返すオーヤスワン。

 しかしすでにパーティメンバーとみなされていたママリアは、驚きの声をあげていた。



「ええっ、ショーマさん!? 冒険者になられるのですか!? それに、ママも……!?」



「ああ、そうだ! 俺はずっと考えてたんだ! 今日手に入れた1千万は、その支度金のためだ!」



 「ちょっと! お姉ちゃんをさしおいて……!」と横から割り入ってこようとするアーネストを、ショーマは言葉で制する。



「アーネストはもちろん前衛だ! これから、たっぷり暴れてもらうぞ!」



 姉はそれだけで、「やったーっ!」と諸手をあげて喜んでいた。



「そ、そんな! ショーマさん、お姉ちゃん! 冒険者なんて、危ないこと……!」



 母だけは最後まで反対していたが、3人がかりの説得で、ついに折れた。



「か……かしこまりました……。でも、約束してくださいね。ぜったいに危ないことはしないのと、必ずママのそばから離れないって……」



「わかってるって! よぉし、みんな! 明日は装備を買いにいくぞっ!」



「やったーっ! えい、えい、おーっ!」



「おー」



「ほ、本当に、大丈夫でしょうか……?」

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